厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS ハイブリッド証券のプライシング

<<   作成日時 : 2006/12/14 12:29   >>

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ちょっと業界専門的な話になるが、ちょっとまえにイオンが50年満期の5年コーラブル、10年後から利率が上がるという劣後債券を出して話題になった。なぜ話題になったか一応解説しておくと、まず日本には50年という金利のマーケットがないところでの発行だったということ、さらにはこれがいわゆる公募「ハイブリッド」証券としてのさきがけとしての意味を持ったからだった。
発行体であるイオンにとってこのディールは50年の資金を調達することではない。この資金調達が資本と負債の中間的な性格を持ついわゆるハイブリッドであることがポイントである。

一般的にこうしたハイブリッドは資本としての性格を持つため、通常のシニア債権よりも劣後し、その分上乗せ金利が要求される。一方で投資家に対して元本がきちんと戻ってくることを期待させ負債としての位置づけを印象付けるため、5年ー10年でコールオプションをつけ、コールされない場合には1%−1.5%程度の上乗せ金利を約束することが多い。
発行する側は、格付け会社との話し合いの中で、こうした資本性のつよい資金について一定の割合(たとえば50%)の「格付の場面における」資本参入を認めてもらう。このことによって実質負債調達しながら、通常巨額の調達に伴い生ずる財務レバレッジ増大による格下げを免れることができる。こうしたハイブリッド証券については、みずほ銀行がさらに資本性の強い優先出資証券による4000億円の調達を1月に行うことになっており、今後もいろいろな業態で増えそうな感じである。

アナリストの多くはこれを基本的に負債の分析のフレームワークで扱う。たとえば先ほどのイオンのケースでは10年後に上乗せ金利が開始されるので、10年の5年コーラブル債をベースにプライシングがなされたようだ。ただ、発行体のキャッシュフロー不足のときどこまで投資家が損失をかぶるかという点で、一口にハイブリッドといってもいろいろな階層に分かれる。優先出資証券などではいわゆる劣後債に対しても劣後してしまうので元本毀損の可能性は株と同格になってしまう。私の目から見たらこれはエクイティーそのものなのだが、どうもマーケットではこのあたりまでデットアプローチになっているのがちょっと解せない。
デットアプローチだと、格付け会社がそれぞれの類型のハイブリッドにたいして通常のシニア債券から何ノッチ下であるといったガイドラインを持っている。そして格付けレベルによって上乗せ金利スプレッドの相場があるので、それによって発行コストが決まる。
ここで注意しておかなければならないのは、今のクレジットマーケットは昔よりも低格付け債の信用リスクが安く取引される、すなわち上乗せ金利の幅は昔に比べて異常に小さくなっていることだ。このためイオンの例でも当初10年はLibor+140bp(絶対金利のトランチでは3.25%)で発行できた。この発行で格付け会社からは50%の資本性を認められた。

仮に逆のアプローチをするとどうなるだろうか?発行体は株の希薄化を防ぎつつ資本を増強できている。しかも利払いの任意繰り延べ条項などついており、株主に有利な感じだ。しかもこうして調達した資金で自社株買いなどを行い、買収防衛もできる。通常資本(議決権つき株式)の発行だと一株利益の希薄化を伴うためそれに見合うだけの収益を株主に対してもたらすことが要求されるのであり、資本のコストは通常は一般的な上場企業の収益予想からもたらされる株式市場の期待リターンと市場感応度であるベータから導かれる。今の日本だと会社によって違うが、まともに収益が見込まれる企業だと8−9%程度というところだろうか?
それが、ハイブリッドとなると資本性50%が認められるような証券でも半分以下の3%台で発行できてしまう。これは発行企業にとって非常にうまみが大きい。

優先出資証券だとこの問題はさらに深刻になる。こちらはデフォルトのときの損失負担は普通株と同順位となることが多い。つまりファーストロスである。それゆえに資本性も高く銀行が発行すれば新BISのTier1に参入できる。このような証券を銀行が3%レベルのコストで発行できるとすれば、9%程度の株の資本コストに比べ大幅なコスト削減になり、場合によっては優先出資証券の払込金で普通株の買い戻しを行って買収対策と同時に資本コスト削減、財務のカイゼンを一気に行うことも可能だ。もちろん現在の株式市場の期待収益率の将来の変動リスクも考えなければならないが、いずれにしてもそういうことを一切捨象した世界で負債的アプローチで(たとえばCDSスプレッドXいくらといった)プライシングがなされていることがやや懸念される。

どうしてこういうことが可能になるのかといえば、それは投資家のプライシングが甘いからだというしかない。現状の低金利ではシニア債券に100ベーシス以上上乗せされた配当は魅力だ。それが将来不確実なものだということは相当レベルで無視される。あるいはスキームを作る側が「発行体は評判リスクをおそれて配当をやめてしまうという可能性は少ない」などという。しかし冷静に見れば、ハイブリッド証券についているのはすべてが「発行体のオプション」であり、投資家は発行体の決定を黙って受けるしかない。その点まで考えると、今のハイブリッド証券のプライシングが投資家の「弱み」につけこんで不当に発行体寄りに作られている気がするのだが、どうなのだろうか?

なお、こうしたプライシングの基礎になっているのが、格付け会社が自分たちで勝手に決めた格付け上の資本参入限度割合というものであり、細かい点でも発行体側と格付け会社の間での「話し合い」で資本参入限度が決められるのが実情のようだ。ここで格付け会社は強い交渉力を持つことができ、商売の種につなげることができる。投資家以外の人々はすべてハッピーでそのしわ寄せがすべて投資家が(よくわからないまま)背負っているというのがハイブリッド証券の実情ではないだろうか?

とりあえず思いついたまま書きなぐっただけで、思い違いなどあるかもしれないが、どなたかご教示願えれば幸いだと思っています。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ハイブリッド債という言葉を知ったのは数年前でした。優先出資証券というのは優先株のことですか?
Preferred Stock のことですか?永久劣後債のStep Up などの仕組みものは1989年頃にアレンジしていました。Preferred Stock も1990年頃の初期に
販売していました。
シギー
2007/01/04 16:23
シギーさんコメントありがとうございます。優先出資というのは私も正確な定義を知りません(すみません、いい加減で)。ただ、コール条項がついているなど明らかに「債券」的な形を意識した「資本」証券だと思います。株とかStockという言葉を意識的に排除しようとする意図がみえみえです。
最近の変化は企業側というよりむしろ格付けというテーマを軸にした外的要因が大きいのであろうと推測しています。つまり、格付けが以前より重きを置かれるようになり、一方で格付け会社間の競争でビジネスチャンスを格付け会社側でも必要とし、資本性と証券設計が定量的にリンクし始めた結果ではないかとおもいます。本文で言いたかったことは、優先出資にせよ、優先株にせよ、特に上場企業(株式が将来の収益も含めて市場で評価されている)のそういう資本性の高い証券は、株サイドからのアプローチも必要ではないかという疑問でした。
すでに海外を含め多くのプライシング事例があることを存じていますが、どなたか理論的なバックボーンをご教示いただけたらと願った次第です。なんとなく発行会社に有利すぎると思いますので。
害債
2007/01/05 03:27

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