厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 続・ハイブリッド証券のプライシング

<<   作成日時 : 2006/12/27 05:57   >>

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さいきん、メリルリンチのクレジットのアナリストである魚本氏がレポートでハイブリッド証券について書かれていた。その中で氏は企業サイドが「資本コスト」というものにまだ鈍感であり、調達によって高成長をめざすというマインドが少ないため、一見割高に見える資本性の高い調達が日本では未発達なのではないか、と指摘されている。この意見にはまったく同感である。

さらに言えばこれは金利の絶対水準とも関係があるだろう。日本の今の低金利は政策的に企業に「負債」の取り込みを薦めているに等しい。一方で株式市場がそこそこ好調であり、また企業年金などの収支計算上も一般的な株の予定収益率は下げるわけには行かないため、マーケットで取り扱われる株式の中長期の予定収益率(すなわち自己資本のコストの元になる数字)は5%をくだらないだろう。つまり企業のバランスシートの右側では、コストに対する相当なインバランスが生じているのだろう。成長が見込めない日本という市場で資本性の高い調達をして高いコストを払うには、それに見合った企業にとってのメリットが必要であり、その部分がいま、前回書いたような発行体寄りのプライシング(ってそもそもルールがきちんとなってないと感じてるわけですが)に現れているのではないかと推測する。

いずれにしても、資本性のきわめて高い商品をデットアプローチで値段をつけることは問題だ。それは、ベースがあくまで格付け会社のノッチング(つまりシングルAとかダブルAとかのランクのことで、社債マーケットではランクがひとつ違うとだいたいこれぐらい上乗せ金利が違う、といった捉えられ方をする。いまは結構むちゃくちゃになってますが)に依存しているからである。たとえば優先出資証券クラスの劣後性のつよい証券の場合、シニア債券格付けから2ノッチ-3ノッチ下になるとされている(これは格付け会社がそれぞれもっともらしい理由をつけて決めている)ため、逆説的にシニア格付けの相当に高い優良企業しかこういう証券を出せない仕組みになっている。そうすると投資家の中で勝手にロジックのすり替えがおこなわれる。

本来の仕組み上、配当はあくまで利益が出ている限りにおいて支払われるだけだし、倒産時の残存財産に対する請求権も株式に優位するだけ。っていうか通常倒産って自己資本を超える債務がある(債務超過)から倒産するわけで、倒産したら当然自分たちの出資分に食い込まれることはほぼ確実で、100%の返済は期待できない。しかも期限付きの債務でなく、元本の回収可能性や市場性もまったく不透明のままである。

にもかかわらず、投資家は表向きのシニア格付けの高い「顔」をみて「この企業がつぶれることはないよねぇ」と思ってしまう。つぶれることのない企業が3%払ってくれるのなら(それは確実じゃないんですけれどね)ということで喜んで買ってしまう。ここで「だまし」の片棒を担ぐのがノッチングである。いまはトリプルBクラスの発行証券のスプレッドは異常に小さくなっている。つまりシングルAプラスからトリプルBプラスクラスまで3ノッチ下げたとしても、マーケットで要求される上乗せ金利の差はピークだった2002年当時とはもう比べ物にならないくらい縮小している。これは企業倒産の確率が減ったという統計的なデータに基づく修正ではない。あくまでマーケットの需給で生じているだけである。今のマーケットでは3ノッチ下げたところで、本来資本性の強さを埋め合わせるだけの上乗せ金利はついてこない、というかそもそも3ノッチって何の根拠もない数字だ、ということが重要である。

意外に見落とされがちだが、優先出資証券などでは「値上がり可能性」はまずないに等しいということに注意しておく必要がある。つまり配当の上限が3%などという数字で固定化されているため、発行体企業の利益が増えても増配のメリットはない。株価決定理論としてしばしば用いられるDCF(キャッシュフロー割引)モデルやDDM(配当割引モデル)いずれにおいても、企業収益の株主へのフローが増えることが株価上昇要因であるが、その要素のまったくない優先出資証券は、値上がりの仕様がない。
これ以外にはせいぜい金利要因が効いて来るくらいだろう。金利が下がれば将来キャッシュフローの割引率が低下して現在価値が上がるので一般的には割引モデル上は株価の上昇要因となる。しかし、市場金利が現状から下がるというのも結構むずかしいし、なによりも金利低下局面は一般的に「景気がぱっとしない」ことが多く、将来キャッシュフローすなわち配当の確実性は、株式よりは高いかもしれないが、それほど大きなものではない。したがって、株式よりも大きなメリットはほとんどない。
また、議決権がないため、M&Aの場面でも優先証券の需要が高まることはなくそこで証券価格が急騰することもない。逆に変な企業に買収されると大きく格下げのリスクもあるが、その場合デットアプローチでは間違いなく価格が下がる。しかもその際議決権を行使して防衛することもできない。こういった点がプライシングには反映されていないのではないだろうか。

私に言わせれば、金利の高い欧米ならいざ知らず、低金利で信用リスクプレミアムが縮小しておりかつ株の期待収益率がそこそこある日本で、上場企業のTier1に入るような資本性の高い証券をノッチングによってプライシングしていることは、相当問題だと感じているのである。一言で言うなら「資本性」「資本コスト」というのに見合ったコストを払ってもらわなければ、投資家という大きな軍団から大規模に利益が発行体、投資銀行、格付け会社連合軍に掠め取られてしまうように思える。

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