厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 自治体のデリバティブ利用による資金調達

<<   作成日時 : 2007/03/29 20:15   >>

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やっぱりこれって我々の年代ですとすぐに「オレンジカウンティー」っていうのが脊髄反射で脳裏によみがえるわけです(あちら様は調達ではなく運用のほうでしたが)。オレンジカウンティー事件というのは1994年にカリフォルニア州の裕福な自治体(AA格)がデリバティブを多用した資金運用によって多額の損失を出して米国破産法チャプター9の申請(すなわち破産)にいたったものです。ここで使われていたのは逆フローター債券と呼ばれる「金利が下がると多くの利息が入る(そしてその逆も生じる)」仕組み債券でしたが、結局短期金利が上がらないという見込みが大はずれして、レバレッジのかかったポジションが14億ドルの損失につながったというオソマツ。

今朝の日経新聞1面の記事によれば大阪市などでデリバティブ組み込みによって見かけの調達金利を低く抑えるタイプの資金調達が出始めているようです。具体的なスキームも知らないし、そもそも現状わずかなポジションでしかないようですから、それほど目くじらを立てることは無いのかもしれませんが、こういうのは最初うまくいって、そのうち調子に乗ってポジションが増えて、最後に一気にやられるケースが多いのです。新聞記事では長短金利のスプレッドがそれほど縮小しないことに賭けるポジションが大阪市の例として出ていましたが、関係者によればこれ以外に為替の見通しに賭けるポジションもでているとか。いいのかなぁそんなことして。

問題としたい点は3つあります。

第一に、言うまでも無いことですが、リスク管理はどうなっているのか?当社にも自治体の人々のIRが時々こられますが、これまでそのような話をあまり聞いたことがありません。市場に参加しているプロですら、ほとんど金利の見通しは当たりません(激汗)。現在これだけ金利差があるのだから多少縮まっても何とかなるだろう、とかいう安易な気持ちでやっているのではないことを祈りたいです。というか、この長短金利差に賭けるスキームですけれど、基本的に世界中がフラット化という中で日本でもそうなるという見通しが結構多数派だと思うんですが、もちろんご存知ですよね、ということ。ましてや20年といった長期の調達で、どこまであるいはどのシナリオまでそのポジションが持ちこたえられるのか、きちんと統計的にシミュレーションやらストレステストやってますよね?というお話です。

第二に、そもそも現在の市場金利が相当絶対値として低いわけでして、この金利で調達することにどうして抵抗を覚えるのか?ということです。リスクをとって目先の表面金利を引き下げたい理由というのは、やはり財政状況が苦しいからということなんでしょうけれど、今の環境は地方自治体の調達には順風だと思います。バーゼルIIのリスクウェイトでも地方債はゼロですから、発行すればみんな買ってくれますし、その分交渉力は強いと思います。そこを敢えてリスクの世界に踏み込むというのは、なんだか一発逆転を狙う敗者という趣を感じざるを得ない。逆に相当ヤバイのではないかという懸念を引き起こします。そもそも、金利を払ってお金を借りるという行為は、たとえ長期的視野であってもその払っているコスト以上の価値を生み出すのだ、という厳しい決意が無ければならないと思うのです。それがどうがんばっても将来見込めないならば、それは最終的に破綻するしかないのです。端的に言えば2%で20年借りるなら、2%以上の価値を生み出すようなことに使うという気持ち(実際は別かもしれませんが)が必要であり、もともとそんなの払えないというならば、そのお金は相当死に金として使われることをはじめからみこしているという意味です。そんな心積もりで自治体経営などやってほしくは無いというのが個人的意見です。ですから、自治体の借金については(国のサポートという要素を別にすれば)どうやってその資金を使って地域を育てていくか、というプランと直結していなければならず、そのために許容できるコスト、というのが意識されていなければならない。ところが、この事例のようにあわよくば0.01%、失敗すれば5%という金利負担をもつ調達は、僥倖に依存して何とかしようという(まあそれしかないのかもしれませんが)気持ちが丸見えです。それほど将来性の無い地域なら、さっさと破綻したほうが最終的な住民負担や将来の負担が軽くなるんじゃないかと思ったり。

第三に、最近の傾向を見ると外資系金融機関が積極的にこういった商品(あるいは調達手段)を地方自治体などに売り歩いているようです。そして最初は多少甘めの条件やらこういうおもしろげなスキームを提示して、主幹事を次々と獲得しているように思います。別に外資系だからどうだというわけではありませんが、一般に儲かっているといわれる投資銀行系の人事評価はほぼ全面的にいくら手数料を稼いだか、ということです。言い方は悪いですが、これまでそのようなことをあまり手がけてこなかったウブな自治体さんとの交渉でこうした仕組みを使って「抜く」ことはそれほど難しい芸当ではないだろうと思うので、民間対民間ならまあ結果がすべてでお互い様ということでアレですが、自治体のばあいその辺のコストの透明性というのもきちんと住民に開示する必要があるんじゃないかと思うわけです。

レバレッジもかかっていないようだし、金額としても現状ではそれほどたいしたことはなさそうですが、数年後気がついたら大変なことになってました、ということだけは是非避けていただきたい、という老婆心でした。

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内 容 ニックネーム/日時
どうもです。見出しをちらったと見ただけでしたが、どうして仕組み物まで使った調達をするんだろう、という疑問は持ちました。フラット化でやられる仕組みですかあ。日銀「金融システムレポート」の利上げ時のイールドカーブ分析は、ベースシナリオでベアフラット化なんですが。最初は低金利だけど変動金利への転換で即死するサブプライムローンの借り手のようにならないといいですね。
本石町日記
2007/03/30 00:39
追記です。そういえば、オレンジカウンティは久々のFRBの利上げによるスティープ化でやられたわけですが、今回の事例では、日銀利上げによるフラット化でやられる構図ですね。まあ、この手の運の悪い主体は、ババをつかむポジションを持たされやすいですから、無事を祈りたいです。
本石町日記
2007/03/30 00:45
本石町さん、いつもありがとうございます。最近は自治体にも民間出身者が就職したりしますから、ついついこういうノリになってしまうのかもしれないと思ったり。ただ、それを首長や議会を含む監督する立場の人がきちんと仕組みやらリスクをわかっていないとやはりまずいんじゃないの、と思ったりしますが、大丈夫でしょうかね?まあ、額が少ないと、「勉強のため」とかいって投資家も大昔はあまりよくわかってない仕組み物をやることもありました(激汗)からあまりえらそうなことをいえないのですが、だからこそ「むちゃしないでね」といいたんくなりました。
厭債害債
2007/03/30 06:45
はじめまして。いつも楽しみに拝見させていただいています。

結局、売り手としてはこの手の仕組商品はうまくやれば(客を直接捕まえておけば)パーセント単位で手数料が抜ける大変おいしいビジネスな訳ですから、これに注力する気持ちも分かるのですが・・・それだけに、接待に使えるコストも桁がひとつ増えて、うぶな担当者があっさりと篭絡されているケースが多いんじゃないかと思います。下種な話ですが、上司は部下の夜遊びをちゃんとチェックしたほうがいいと思います。

個人的には、自力で理論価値をはじき出せない商品を買う人間の神経が理解できません(これが厳しい条件であることは理解していますが)。あ、でも、買った次の日に「売りたい」と言ってどれだけ抜かれているかを確認しようとした某地銀の担当者にはちょっと感心しましたけど(いろんな意味で)。
馬車馬
2007/04/01 00:12
馬車馬さん、コメントありがとうございます。おっしゃること、非常に体験としてもよく理解できます。某地銀さんのエピソードは、感心しました。
厭債害債
2007/04/01 23:12

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