厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 文春「『通貨の悪代官』福井総裁を断罪する」について

<<   作成日時 : 2007/03/11 10:39   >>

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つり広告に文字通りつられて買った私がバカでした。

5ページにも及ぶ記事は結局の所「村上ファンドに投資するような人が総裁の資格はない」ということを主張しています。しかしそれだけです。このことだけなら別に大宅賞作家が5ページも遣って書かなくてもすでに多くの人が指摘していて論点も十分明らかになっていると思いますし、別に目新しい話ではない。この点に関してはやはり私も福井さんの行動はあまり褒められた物ではないと思いますが、いまやマーケットではこの問題をおいておいて、彼の仕事上の適格性という点に焦点を当てて議論しています。つまりここで村上ファンド問題だけを取り上げる価値はもはやありません。

にもかかわらず、他の論点がないまま通貨の悪代官というのがどういう脈絡で出てくるのかという説明もないし、ましてや金融政策上の問題点にほとんど触れずに書かれています。それもそのはず、この筆者はご自身で「金融問題にとんと無知な私」と堂々と書いておられるのですから。どうしてこのようなお方が日銀総裁としての福井氏を断罪する事ができるのか疑問です。

当然、そういう方ですから、あちこちで明白なロジックの飛躍やら間違いを犯しています。
筆者は福井総裁が平成17年7月9日におこなった経済教育サミットの講演「いま、なぜ金融教育か」http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0507a.htmでの発言を取り上げて批判しています。正直言ってこれが批判になっていない。批判というのは世間的にマズイということを指摘して誤りを正そうとする物ですが、この筆者のは「これほど人を見下したような言い方」「恥知らずな」という表現を使って自分と違う価値観を叩いているだけです。

福井総裁の発言は、お金の流れに責任を持つ立場として、いまだに貯金しておけば勝手にお金が増える(誰がソレを増やしているかは考えない人がいっぱいいるみたいです)と思っている人々に主体的な管理を呼びかけるごく普通の内容だったと思うのですが、この筆者の気に入らないのは「自分の持っている大切なものを手放してお金に代えても、そのお金は価値をきちんと保全し、次に必要なものを手に入れる時に役立ってくれる。」というくだりのようでした。

筆者におかれてはここからいきなり「大切なものはお金に代えられるわけがないではないか」という批判になってしまい「恥知らず」という形容詞を福井さんに対して浴びせるわけですが、筆者が大切なものというカテゴリーはどうやら「親や故郷や友人から授かった大切なもの」でありまして、あまり金銭に換算できないもの(ただし家屋敷は含まれているようですね)をさしているようなんですが、福井さんの講演ではどうかんがえても金銭に換えられるものをさしているのであり、金銭に換算できない物は言及されていないと思います。この点どうかんがえても強引な揚げ足取りです。

この記事はそのあと福井総裁の生い立ちやら周囲の評判に行くわけですが、福井さんが人格的にあまり評判の悪くない方でして非常に書きづらい風でして、チョッと落涙を禁じえない風情になっています。そもそも無理して結論ありきで原稿料ほしさに書くからこういうことになるのでしょう。苦し紛れに実家を売却して儲けた(かもしれない)話を書いていますが、どうみても普通の家族が体験する過程でして、正当な経済行為です。

根本的に断罪されなければならないと思うのは、明らかな間違いを堂々と書かれている点です。最後の部分で筆者は「「ゼロ金利政策」によって、日本人全体の家計の利子収入が13年間で304兆円も失われたというすさまじい数字」と書かれていますが、一般的にはゼロ金利政策というのは1999年に誘導レートをほぼゼロ近傍にしたときからであり
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BC%E3%83%AD%E9%87%91%E5%88%A9%E6%94%BF%E7%AD%96ましてや日銀の公式見解では2000年8月までの1年6ヶ月に過ぎません。実際は2001年3月に再度実質的なゼロ金利に戻しているのですが、昨年までの5年間を入れても6年半でして13年間というのは水増し率100%。企業経営者なら粉飾決算で即刑務所行きですぞ。

実際低金利で利息が減ったのは事実でしょうし、遅すぎる金融緩和策で不況が長引いて、その結果国民の富が失われた結果として家計に影響が出た、というなら公平な評価ですが、単に利子収入が減ったのは不況で低金利政策を採らざるを得なかった必然的結果であり、ソレは預金を含む国の経済全体が負担せざるを得ない事柄だと思うのです。これを福井総裁(当時は総裁ですらなかった)の責めに帰すのはちょっと違う。ここでは日銀批判が福井氏への批判と混同されているという問題もあります。

さすがに筆者もこれに気づいたのか、次のように書いて福井氏に強引に責任を転嫁しています。
「バブル期に不動産投機への融資を銀行に強く働きかけた日銀の責任者は、当時営業局長を務めていた福井氏である。バブル崩壊後の「ゼロ金利政策」の推進者も、当時理事、副総裁をつとめていた福井氏である。」この辺になると締め切りが近づいてきたのか、頭が相当混乱してしまったようでほぼ手当たり次第に個人攻撃に走っている印象をうけます。バブル期に不動産投機への融資を日銀が銀行に強く働きかけたというのは、いったいどうなんでしょうか?日銀が都市銀行に積極的に営業にまわっているというのは本当にあることなんでしょうか?

そして、ゼロ金利政策開始前の1998年に福井総裁は日銀を辞任されているのですがご存知でしたでしょうか?彼が日銀に戻ったのは2003年です。責任者というなら他にいるんではないかと思うんですが違いますでしょうか?しかも一回解除して大変な事になった挙句また元に戻したというのをこの筆者は知らないで書いているのでしょうか?(その可能性は大きいと思いますが)。

まあ好意的に解釈して筆者は(シロウト様ですから)ゼロ金利政策を一般的な低金利政策と混同していると見ることができます。しかし実体論としても、13年間に「失われた304兆円」というのが本当に預金者が受け取る権利のものか、という点には非常に疑問があります。というのはもともと80年代から人口の増加がとまっていて生産性が伸びない中、304兆円の試算基礎となっている91年の1年もの金利(6%)をお金をただ預けているだけの人に渡していく事は不可能になっていたはずです。そしてその生産性の低さは必ずしも日銀の責めに帰すべきものではなく、80年代に構造改革を怠った国民全体が責めをおうべき物だと思います。補助金をあてにし続けた農家、公共事業をあてにし続けた土建屋や地方公務員、年功序列をあてにし続けた会社員、すべての人々が90年当初まで過去がそのまま続くという幻想に陥っていたに過ぎません。幻想からさっさと目が覚めた製造業者は今でも元気です。

実はこのくだりのチョッと前に本当にこの方の言いたかった事が書かれています。それはご自身の支援している第3セクターの鉄道が再スタートしたときにもらった「転換交付金」15億円の運用益を期待していたら低金利政策でほとんど見込み違いになって結局解散に追い込まれたという物です。地方切捨てという問題点は別にありますが、それって15億円もあずかったくせに単に金融知識が不足していたただのあふぉですかということで、それこそ最初の福井総裁の講演内容をじっくりとかみ締める必要があると思うのですが、いかがでしょうか?

「モラルの創造」をこの方は日銀総裁に期待されているようですが、どう考えてもいう相手が違ってます。どうせならブッシュ大統領かクリントン大統領あたりに同じ事を言ってもらいたいですね。

最後に、この方は大宅賞を受賞された方だそうですから、それなりの筆力や調査力はあるはずだと思ったのですが、このような専門外の問題についてほとんど何も調べないで5ページもの「渾身」のレポート記事をかき、ソレを文春が掲載してしまうというのは、この国のメディアというのは一体どういう構造になっているのか、と首をひねってしまうのでした。というか、何も知らない人が渾身のレポートを書いて原稿料をもらえてしまうことの恐ろしさを改めて感じた次第です。

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