厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

アクセスカウンタ

zoom RSS バーナンキ議長の手紙に見るFEDの認識

<<   作成日時 : 2007/08/30 17:34   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 4

超目先のお話で恐縮ですが、昨晩のNY株式市場はバーナンキFRB議長がシューマー上院議員(Joint Economic Committee の委員長でもある)に宛てた書簡で盛り上がったようです。
ご存知シューマー議員は今回のサブプライム関連で消費者(借主)保護の急先鋒であり、民主党の有力者でもあり、今後のサブプライム問題の政治的な取り扱いを考えるときに決して見逃してはならない存在です。

本題に入る前に、マーケットの反応について。
一部のコメンテーターはバーナンキ議長が「必要とあらば連銀は行動する」と書いた部分を捉えて金融政策への意図を感じ取って好感したと解釈しているようですが、あきらかにこれはFEDがこれまでも繰り返してきたことであり、特に目新しいステートメントではないのです。原文も「the Federal Open Market Committee has stated that it…. is prepared to act…」となっており、すでにこれまでに述べられたことであることを明確にしています。このような話は旧聞に属すると思われます。

にもかかわらず、マーケットが反応してしまうのは、それだけ市場の期待感が強いということです。Behind the Sceneでは昨日も1ヶ月Tビルが乱高下し、一時3.85%まで買われました。やはり資金繰りの話についてまだまだ不安で不安でしょうがない、といった感じなのです。これだけ期待されてしまうと、本当にFEDも困ってしまいますね。周りが囃し立てて「イッキ」とか言われて一気飲みさせられそうなそんな感じです(そして後で●●を撒き散らしてしまう…)。でも利下げしなかったらどうなるのかというのも結構恐ろしい感じがしますね。

さて、今回の書簡で本当に注目すべきは別のところにあると思います。
まず、銀行監督当局が監督下の銀行に対し積極的に「問題のある借り手が必要に応じてローンの条件変更やリファイナンスを行ってデフォルトや差し押さえを避けることができるよう」対策を命じている、と述べている点です。
我々から見れば、もともと家を買う能力のない人々が家を(ある意味では間違って)手に入れてしまったのだから、そんなの無くなってもいいじゃないか(しかもアメリカの住宅ローンはノンリコース型ですから、家さえ手放せば借金が残ることは無いのだし)という考えに傾き勝ちですが、おそらく今回の景気サイクルにおける中・低所得者層の住宅問題はもう少し広い視野で考える必要があるのかもしれません。それはこれがイラク戦争遂行中のアメリカにとって、そしてブッシュ政権の元での格差拡大が進むアメリカにとって、実戦兵力としてそして経済の下支えとして苦労し格差の拡大を実感する中低所得者層への一種の社会政策的意味を持っていた可能性があるということです。

“ Upward mobility” すなわち上級階層への移行可能性と定義されることが多い「アメリカンドリーム」はいまだにアメリカ人にとって大きなテーマです。これがあるからこそ、メキシコから苦労して砂漠を越えて入国したり、チャイナタウンで英語もしゃべれないような人が必死で生き抜いていたりする。家を持つというのはこの意味でアメリカンドリームが「現存する」という証明になるのではないでしょうか?

一方で、本当に最下層からトップに上り詰められる人は(世界の先進国の中ではまだ多いかもしれませんが)実際にはそれほど多くないと思われます。多くの人はそこそこの夢を抱えながら、トップティアの所得層の手足となって働き死んでいくのですが、それでもこの「夢」があるからこそ一生懸命生き抜いてがんばりそして彼らが兵力という形であれ何であれアメリカの国力を支えているのでしょう。

それゆえ、多くの人が家を失ってしまうという事態は、政策担当者(すなわちアメリカのエスタブリッシュメント層)にとってやはりかなり危機感を持たざるを得ないのだと思います。
今回の手紙の中で、やはりそういう方向性が明確に見られることは注目すべきでしょう。

この議論を進めていけば、貸し手の銀行や住宅ローン会社が一定の「損失」すなわち収益率の低下を負担することになります。ファンディングを行っているこのような会社に一定の損失をかぶらせるためには、ファンディングコストのほうも下げざるを得なくなってくると思います。結局のところいずれは利下げか政策的な融資という話につながってくるでしょう。利下げがむりなら、何らかの低利の資金手当てができる仕組みが必要になってくるのかもしれません。


もう一つは、言うまでも無くファニメやフレディマックのようなGSEといわれる政府関係住宅金融会社の保証枠の上限拡大に明確に反対したことです。もちろん、これはFEDの管轄ではなく議会の管轄だろうと思いますが、FEDの認識として現状ではそこまでの必要が無い、と明確に判断しているような気がします。一方でこれらのGSEが業務定款(Charter)の範囲内でサブプライム層向けの住宅ローン商品を出してはどうか、という提案も行っています。
危機的状態であれば、マーケットに不安を与えるような否定的な話はしないのが筋ですが、FEDの認識としてはそこまで危機的な状況でもないと考えている、ということかもしれません。

まとめますと、今後サブプライムの焦げ付きについては、借りて保護と住宅保持を前面に打ち出した施策がとられる可能性が高いということ、GSEについてサブプライムローンなどの買い入れ上限額の引き上げには反対しておりあまり切迫した危機的な状況とは考えられていないこと、必要があれば「行動」するがいますぐには金融政策をあまりいじりたくないこと、などが読み取れるのではないでしょうか?


ところで、ご存知のとおり、明日金曜日にバーナンキ議長はワイオミングにあるグランドティトンで開かれるカンザス連銀主催の定例シンポジウムで「住宅問題」についてスピーチを行うことになっており、これには日英欧など主要な中央銀行の要人も参加します。こちらのほうが注目度は高いので注目しておきたいと思います。

なお、余談ですが、このシンポジウムの開かれるグランドティトンとはイエローストーン国立公園にちかい非常に風光明媚な別の国立公園であり、その場所であるジャクソンレイクロッジには私も泊まったことがあります(多分)。この場所では何度か重要な金融ミーティングが開かれていて、度忘れしましたが日米の重要な合意もここでなされたことがあると思います。ちなみにグランドティトンはあの「シェーン!カムバック!!」の背景といったほうが一定の年代以上の方にはきっととおりがいいのかもしれません。要するに例年であればこの時期連銀関係者が仕事と称して保養に来る場所なのですね。きっと今年はぶつぶつ言っていることでしょうね。

(参考:バーナンキの手紙全文)
August 29, 2007, 3:13 pm
Text of Bernanke’s Letter to Schumer
The following is the text of a letter sent by Federal Reserve Chaiman Ben
Bernanke to Sen. Charles Schumer.

The Honorable Charles E. Schumer
United States Senate
Washington, D.C. 20510

Dear Senator:
Thank you for your recent letters of August 8 and 22, in which you express
concern about the potential effects of volatility in financial markets and
the tightening of credit conditions on homebuyers, consumers, and the
economy as a whole.

I want to assure you that the Federal Reserve, in cooperation with other
federal agencies, is closely monitoring developments in financial markets.
As you recognized, the Federal Reserve has also taken steps to increase
liquidity in the markets. In particular, our changes to our discount window
program are designed to assure depositories of the availability of a
backstop source of liquidity so that concerns about funding do not
constrain them from extending credit and making markets. Also, the Federal
Open Market Committee has stated that it is monitoring the situation and is
prepared to act as needed to mitigate the adverse effects on the economy
arising from the disruptions in financial markets.

I share your concern about the potential impact of scheduled payment resets
on homeowners with variable-rate subprime mortgages. Over the next several
years, many such homeowners will face significantly higher monthly payments
and, consequently, an increased risk of losing their homes to forced sale
or foreclosure. The federal banking regulators have encouraged banks and
thrifts to work actively with troubled borrowers to modify loans or to
refinance as needed to avoid default or foreclosure and have jointly issued
guidances to address underwriting and disclosure practices related to
subprime mortgage lending.

The twelve Federal Reserve Banks around the country are working closely
with community and industry groups dedicated to reducing the risks of
foreclosure and financial distress among homebuyers. The Board is also
engaged in these issues; for example, Governor Randall Kroszner serves as
the Federal Reserve’s representative on the board of directors of
NeighborWorks America, which has a program to encourage borrowers facing
mortgage payment difficulties to seek help by making early contact with
their lenders, servicers, or trusted counselors. And as I noted in my
testimony in July, in order to strengthen consumer protections, the Federal
Reserve Board is currently undertaking a comprehensive review of the rules
regarding loans subject to the Home Owner Equity Protection Act as well as
some rules pertaining to mortgage-related disclosures under the Truth in
Lending Act.

It might be worth considering at this juncture whether the private and
public sectors, separately or in collaboration, could help the situation by
developing a broader range of mortgage products which are appropriate for
low-and moderate-income borrowers, including those seeking to refinance.
Such products could be designed to avoid or mitigate the risk of payment
shock and to be more transparent with respect to their terms. They might
also contain features to improve affordability, such as variable maturities
or shared-appreciation provisions for example. One public agency with
considerable experience in providing home financing for low-and
moderate-income borrowers is the Federal Housing Administration (FHA). The
Congress might wish to consider FHA reforms that allow the agency more
flexibility to design new products and to collaborate with the private
sector in facilitating the refinancing of creditworthy subprime borrowers
facing large resets.

As you note, the government-sponsored enterprises (GSEs) Fannie Mae and
Freddie Mac are currently assisting in subprime refinancings. However, the
GSEs’ charters limit their ability to take on higher-risk mortgages and
their programs are relevant only to a relatively small share of subprime
borrowers. The GSEs should be encouraged to provide products for subprime
borrowers to the extent permitted by their charters. The current caps on
GSE portfolios?which were imposed for safety and soundness reasons-need not
be lifted to allow them to accommodate new borrowers. Currently, the GSE
portfolios include substantial holdings of GSE-guaranteed mortgage
products, which are easily placed in the private secondary market even
under current conditions. Thus, the GSEs could readily sell these
securities to make space for new mortgages if they wished to do so.
Policymakers may also want to encourage the GSEs to increase their mortgage
securitization efforts, which are not constrained by their portfolio caps.

We will continue to keep the Congress informed of developments in the
subprime markets and in the credit markets more generally. As you know,
Federal Reserve governors and staff have made numerous appearances before
the Congress and in other forums on subprime-related issues. Board staff
members have continued to brief members of Congressional staffs on these
matters. Board staff members are also assisting the Government
Accountability Office in the report that they are preparing that will
provide a comprehensive review of developments in the subprime mortgage
market.

Again, thank you for your interest and please be assured that we are
following these issues closely.

Sincerely,
Ben S. Bernanke

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
>「アメリカンドリーム」はいまだにアメリカ人にとって大きなテーマです。これがあるからこそ、メキシコから苦労して砂漠を越えて入国したり

南米のアメリカへの求心力は明らかに低下しているみたいですね。アフリカもそうですしね。
このあたりに現在新たに求心力を発揮させているのが保護貿易で育ち続ける中国です。
保護貿易で育った日本経済、アメリカだって自国の経済を育てるまでは保護政策をきっちり取っていた。
これまで成功実績がある手法を無視して、育てる意思を持たない金が暴走し続けている。
アメリカを中心にして行われているCOOLな経済人たちの実験の結末はどうなるんでしょうね。
kazzt
2007/08/31 11:30
シンポジウムには日銀からは岩田副総裁が参加予定です。注目のスピーカーはもちろんバーナンキ議長です。ところで、BISからビル・ホワイト局長が参加のようです。中銀系玄人筋はこちらのスピーチ内容に注目しております。
本石町日記
2007/08/31 22:39
サブプライムが低所得者層に限られるかについて、考えてみました。サブプライムのabusive lending practiceのsteeringについて、少し認識なされておられないようです。かってながら、コメントを書いてみました。
http://consumerloan.blog.shinobi.jp/Entry/59/
dataminer
2007/09/01 12:43
kazztさん、どうもです。資源ナショナリズムのような感じでベネズエラやエクアドルなどを中心に南米では独自の方向を目指そうとしているようですね。いずれにしても相対的なアメリカの地位はやはり弱くなりましたね。

本石町日記さん、どうもです。すでにスピーチは出てしまいましたが、サブプライムについてはいずれにしてもとりあえず出血を止めるだけしかできないのでしょうね。あの、ビル・ホワイト氏ですか。日銀の一部の方には心強かったのでは(笑)。
厭債害債
2007/09/02 23:11

コメントする help

ニックネーム
本 文
バーナンキ議長の手紙に見るFEDの認識 厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる