厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS アルファ(運用の基準となるベンチマークに対する付加価値)なくして報酬なし

<<   作成日時 : 2007/11/14 21:03   >>

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一見当たり前だし、原則としては納得するものの、これを巨大年金基金が採用し追随するところが増えたらどうなるだろうか?

本日の日経金融一面の前田編集委員のコラム(「No リターン、No ペイ」というタイトル)で、米国の退職年金基金が打ち出したノーアルファ・ノーペイという構想が取り上げられている。つまり委託先の運用機関がベンチマークを超えられない限り報酬を払わないというものらしい。ワタクシは元の構想そのものに直接アクセスしたわけではないのでこのコラムから判断するだけなのだが、前田編集委員はこの構想にかなり好意的と見た。

なるほど、確かに委託者および受益者にとってはコスト削減につながるだろうが、これを推し進めていくと委託先はパッシブファンドとヘッジファンドだけになるかもしれない。すでに通常のアクティブファンドは相当特徴を出さないと相手にしてもらえず、競争も激しいからかなり薄いフィーでやっている(特に日本は異常なぐらいフィーが競争的=まあその程度のサービスだろうというツッコミはありうるけれど)。このうえで、状況によってアンダーパフォームしたときにフィーがまったく入らないとなれば、受託できるところは相当減ってしまうだろう。その結果殆どがパッシブとヘッジファンドになってしまいそうな気がする。まあポータブルアルファというイメージには近づいているのだろうけれど、本当にこれが社会全体の厚生に資するかどうかはよくわからない。

ヘッジファンドのフィー体系がよく言われるように非対称的であることが上げられる。彼らのフィーの構成は運用額に対する1−2%の固定フィーとベンチマークをアウトパフォームした分に対する10−20%のパフォーマンスフィーで構成されることが多い。すなわちいいときは極端にフィーをもらえ悪いときでも固定フィーは入ってくる。運用金額が大きくなれば極端に言えば一年だけすごいパフォーマンスを上げたら、2−3年で一生生活に困らないぐらいの収入は得られるマネージャーも多いだろう。一年でもすごくよければ翌年悪くてもすぐに解約されることは少ない。多くの機関投資家は2年程度見たうえで解約する。デューデリとかそれ以外の部分にそれなりのコストをかけているわけで、流動性のある債券のように悪くなりそうだからさっさと売るということはしないしそう簡単にできない仕組みのものも多いのである。

しかも、多くのヘッジファンドがハイウォーターマーク、すなわち過去の最高の水準を上回ったときに限りパフォーマンスフィーが入るような仕組みになっている。これは一見、顧客にとって安心を与えるような仕組みであるが、実はある年あるいはある期間に極端にいいパフォーマンスを得てしまった場合でかつその後大きくへこんだ場合、そのマネージャーにとってハイウォーターマークを改めてクリアすることは困難になってくる。そうすると何が起きるかというと、そのヘッジファンドマネージャーはまったくやる気を失ってしまい、いい加減な運用で固定フィーをもらい続ける。解約されてもマネージャーとしてはまた別のファンドを立ち上げて新しいところからスタートして同じ事を繰り返せる。もちろん委託者が変化に気づいて早めに解約すればいいのだが、そもそものリクイディティーの低さから非効率な期間が長くなりがちだ。

もちろん、いいヘッジファンドも多く、そういうところは微調整を繰り返しながら高いリターンを継続的に上げるように努力を続けるのだが、ノーアルファ・ノーペイだとそうでない方向へのインセンティブを持ってしまう、すなわちこれまで以上に短期で稼ごうとするヘッジファンドが増える可能性は否定できないのではないだろうか?ヘッジファンドはマーケットの歪みのようなところから超過収益を上げているのであって、結局のところキャパシティーには限界があるといわざるを得ない。少ないキャパの分野へのアロケーションを大規模な年金基金が増やしていけば、それこそサブプライムローン問題の本当の原因である「投資家からの要求があまりにも強くて無理やり証券化商品を組成するためサブプライムローンをかき集める(もしかしたら作った?)」というのと同じ事態が生じる可能性がある。つまり本当は収益機会のキャパシティが少ないのに無理やり運用させようとする状況で、マーケットがオーバーシュートする可能性があると思う。

パッシブにしても市場を完全に代理するようなベンチマークを作るのは困難だろうし、いずれにしてもミソもくそも一緒くたにした指数を構成するすべての株に投資することになりかねない。ミソかくそかを判断するのは単年度では難しいことは多くの人が理解しているはずだ。積極的にいい企業を選ぼうとしてアクティブを目指しその結果フィーがもらえない可能性があるとすると通常のアクティブは生き残れなくなってしまい、結局社会にとって非効率な企業を温存することにもつながるかもしれない。きちんとしたアクティブファンドが持つ資源の最適配分機能というのもあるはずだと思う。

「ノーアルファ・ノーペイ」が極端な意味で使われていなければ良いのだが、西海岸の年金基金さんは運用技法の進歩という点では結構貢献されていると思うのだけれど、時々自分のパワーを知りつつ振り回してしまうことがある。運用技法の進歩イコール社会的厚生の増大とは限らない。そのうち社会にとって迷惑な存在になるんじゃないかという懸念がどうしてもぬぐえないでいる。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
職業柄この話題はいろいろ聞くのですが、某ファンドマネージャのコメントとしては「アルファは有限でゼロサムゲーム。あなたの資産規模では実務的に望むほどの金額のアルファは存在しない」<ヘッジファンドへのあてつけ?でした。
ttori
2007/11/14 21:11
ttoriさんいつもブログ拝見しております。コメントありがとうございます。なかなかきついですね。有限なところから無理やりアルファを作り出そうとするとまずいですねぇ。
厭債害債
2007/11/15 08:04
はじめまして。いつも楽しみに読ませて頂いています。運用機関の方々も中々大変そうですね。ワタクシは委託者サイドなのですが、最近運用機関の方々に会うたびに次の3つ質問をするようにしています。

1) 本当に儲かる(ベンチマークに勝てる)なら、他人に投資機会を与えるよりも、(運用機関の)株主のお金を投資した方が良いのではないか?
2) ゼロサム・ゲームでは、儲ける人がいる反対側で必ず損をする人がいます。一体誰が損をするのでしょう。
3) ワタクシを含めて投資家が「事前に」良いファンドを選ぶことは可能なのだろうか?アクティブ・ファンド(HFも含む)に投資するのは、投資家のオーバー・コンフィデンス以外に理由があるのだろうか?

中々納得できる答えに出会ったことはありません。
ちゅう
2007/11/15 09:45
アルファーテイカーって難しいですね。
他人のまねでは前に進まない。
ゲームを変え続けないと存続出来ないですよね。
高給と引き換えなのでしょうが。
ゲームを変えるのは簡単ではないと思います。

訳の分からないアクロニムが消えつつありますので、陸サーファーはしばらく冷や飯状態でしょうか。
マスオカ
2007/11/15 22:43
ちゅうさん、コメントありがとうございます。痛いところをつく質問ですが、2)のゼロサムかどうかという点については必ずしもそうではないかもしれない、つまり運用者の資源再配分機能がうまく働けばそうでないときよりも大きなリターンを皆で配分できることもあるだろうし、少なくとも株は経済成長の分だけ名目値ではゼロより上になるような気がします。3)については「事前に」というところがみそですよね。きちんとした安定したリターンを目指す委託者としてパッシブに特化しアロケーションだけで勝負するというのはそれなりの合理性もあるとは思います。
厭債害債
2007/11/16 06:36
マスオカさんどうもです。ゲームを変えるというのは一種のスタイルドリフトみたいな感じになるので、大手の委託者では継続的に採用することが難しいだろうとおもいます。要するに個人などのお金を預かる自由度の高いファンドということになりますかね。といって、そういうことをしてアルファが継続的に取れる保証もないし、説明が難しくなりそうです。まあそういう運用者はどちらかというと絶対リターンベースを見るということでしょうけれど。
厭債害債
2007/11/16 06:40

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