厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 証券化商品の「ずさん」評価

<<   作成日時 : 2008/04/30 18:32   >>

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日経新聞の一面でドイツ証券さんが証券取引等監視委員会から処分勧告を出されそうなことが書かれています。あくまで記事に従えばですが、「容疑」として上げられた証券化商品の不適切な時価算出の事例として
@ 同じ証券化商品の時価(同一時点)であっても顧客によって異なる価格を示していた。
A 同じ証券化商品の時価(同一時点)で複数の価格を示し、投資家にどの時価を使うか判断させていた。
B 時価評価の基準日を誤ったり、時価の増減を取り間違えたりした。

などが示されています。

業界の外の人にはちょっとピンと来ないでしょうが、複雑な証券化商品については、今回の事例で非常に明らかになったようにセカンダリーマーケットでの取引事例が極めて少ないものが多く、取引に基づく時価形成というのは机上の空論でしかありません。ところが、多くの投資家にとってそれでも「時価」を把握する必要に迫られるのは、会計や当局のガイドラインに沿って、一定の格付けを持ち「時価」の把握できるものは簡易な資産査定で決算作業を終えられるからです。

ところが多くの投資家にとって、自社で独自のプライシングモデルを開発するのはコストパフォーマンスが極めて悪い。最近信金さんレベルでも証券化商品への投資が取りざたされましたが、いくら意識が進んでいたとしても、やはり規模の利益がそれほど働かない主体にとって、コストをかけてまで自社モデルにこだわる必要はないと考えます。その結果多くの投資家は購入した証券会社から「時価」を取得しそれを決算の数値として使っています。このやり方は(あくまで自社で何らかの検証作業をしているという前提ですが)会計的にも当局的にも認められてきたものです。

まあ投資家サイドは有体に言えばこういう方法に安住してしまっていたのですが、そこで起こったのが今回のサブプライム騒動とそれに引き続く時価評価厳格化の動きです。もともと複合金融商品会計ではデリバティブ部分と根っこの資産部分を分けて評価し、デリバティブ部分だけは常に時価評価(毎期P/Lヒット)するのが原則でしたが、一定の安全性を満たすと考えられた仕組みについては各社が合理的な基準を設けることを前提に、「その他目的保有」として全体について含み損益の増減は資本直入(P/Lノンヒット)出来るようになっています。ところが本来の安全性基準で定めた時価変化のレンジを外れる事態があちこちで生じたはずです。本日も農中さんの損失が膨らんだことがニュースになっていたとおりですが、これは通常PLヒットしていなかった部分が規定上ヒットせざるを得なくなった(あるいは減損規定にひっかかった)ということにほかなりません。農中さんぐらいのソフィスティケイトされた規模の大きいところはきちんと自社で評価されているでしょうけれど、多くのところはこういう評価の数字として証券会社さんからもらった数字を原則として使っていることはすでに述べたとおりです。したがって証券化商品を積極的に販売した証券会社は(まあある意味当然のことではありますが)その後こうした時価算出作業に毎月末、毎期末追われることになります。今回など特に神経を使うわけで、実はほかの証券会社にもいろいろ聞いてみたのですが、上記のBに書かれたようなミスが頻発しているということです。ただ、結局のところ証券化商品の時価なるものはその程度のものだということも言えるわけです。元本のキャッシュフローが生じない限り、時価というのはどこまで行ってもバーチャルなものでしかありません。そのバーチャルなものの価格を出すために投資家から依頼され圧倒的な事務量を預けられ、挙句ミスして叱られる証券会社やその事務方の方々には同情すべきところも多いと思います。本来投資家の仕事であるべきことをやらされているわけですからね。

で、今回の記事でやや奇異に思ったことは@のところ。複数の投資家に対して異なる価格を提示することは3月26日付の会計士協会から出た文書によるとむしろOKではないでしょうか?なぜなら、以前に取り上げましたように当該文書は実際売却可能な価格を時価として扱うように指示しているからです。ある特定のCDOについてかたや200億買っている投資家と2億しか買っていない投資家があったとして、厳密な意味での売却可能価格はそれぞれの投資家で違ってきて当たり前でしょう。(もっといえば株式市場でついている時価だって流動性の低いものもいくらでもあり一定のボリュームを前提にしか成り立っていないわけであり、本来すべての投資家にこれを適用するのはおかしいということになりかねません)。@の書き方がそのとおりの指摘だとすると、会計士協会の言っていることとすでに矛盾している感じがします。

ただ、Aについては背景をもう少し詳しく知りたいという感じがします。モデルによって異なる算出が可能なので、投資家にゆだねたのか、あるいは投資家の「お化粧」の片棒を担いでしまったのか?後者ならちょっと問題ですが、まさかそういうことはないと思います。

このことを前提に今回のドイツ証券の事件を見ますと、現段階で(取引停止とまで)非難されるべきかどうかの判定を下すのはかなり困難だということが出来ます。今回の事案は立入検査で見つかったとの事ですから、最終的にいろいろ明らかにはなってくるでしょうが、少なくとも「ずさん」という評価もちょっと厳しすぎるかもしれないと思います。いずれにしても、時価というものについてまた一つの議論のきっかけを与える事件となりそうです。

このことはワタクシが以前にエントリーを上げたMarkit社とかほかの時価サービス提供会社のビジネスにとってプラスの影響を与えるのではないかと思っています。ただ、そこでも書いたように時価評価を通じて証券化商品市場の一つのスタンダードを握ることになるわけです。格付け会社がスタンダードを握った結果市場に慢心が生まれ信用バブルが暴走したことに鑑み、そしてそれについての反省から一定のレギュレーションが必要だという機運が高まっていることに鑑み、この辺のWar of Standardsについては注目していく必要があると思っていますし、決してそれが「お墨付き」にまで高められることがないように気をつけなければならないのではないかと思います。要するに投資家がもっとしっかりせねばならない、ということなのですね。自戒をこめて。

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コメント(9件)

内 容 ニックネーム/日時
厭債害債さま、こんばんは。
小生も、前後の文脈まで聞かないと
「杜撰」という言葉を使うのは酷だなと思います。
特に事例Aなんて、誤解を恐れずに言えば、「所詮、理論価格なんですから、前提条件変えれば、時価も変わります」というお話ではないかと・・・
もっとも、この時価なるもので減損処理が出たり、赤字が出たりもするので、「B時価評価の基準日を誤ったり、時価の増減を取り間違えたりした」は勘弁願いたいものです。
北の書生もどき
2008/04/30 22:40
おはようございます。
昨日の日経1面でしたね。ヘッドラインからは、Aのお化粧の片棒かついでいた事が発覚したのかと、びっくりしたのですが、必ずしもそれだけではないようですね。 休み明けでネタに事欠いた訳でもないでしょうが、処分検討をしているとの段階で1面記事ですか(笑)
おっしゃるとおり、投資家自身がしっかりしなくてはいけないですね。 また、同じ裏方としてBの作業に関わってる全ての方へ、これにめげずに頑張ってもらいたいです。
フレッド
2008/05/01 08:34
今仕事しながらふと思ったのですが、毎日お客さん宛に出してるマーケットクローズ&レポートの類も上場商品を除きうかつなレベル出せませんね。
くわばらくわばら・・・・
フレッド
2008/05/01 17:48
何度もいうように、仮に同じ時点だって同じ商品で違い価格なんて存在するでしょう。ガソリン見てみろよ。仮に同じ会社だって、ブローキングしたとたんに二つの出来値が存在するでしょう。
でノービットでどこが適正価格かなんて債券ではありえないですよ。だから金融債の時にやったあだかな。外資はなめてますから。そういう意味ではK有庁あらい・
k有町は未だに規制金利です。
2008/05/02 00:06
北の書生もどきさん、どうもです。まさにおっしゃるとおりで、モデルが複数あってそれによって時価が異なることは、とりわけ流動性のない証券の場合は十分ありえると思います。それはモデルそのものが現実には外れることのおおい前提を基にした仮説に過ぎないことの裏返しでしょうね。
厭債害債
2008/05/02 02:54
フレッドさん、どうもです。そういうお仕事だったのでしたか、失礼しました。忙しいお立場と推測いたします。がんばってください、としか言いようはありませんが。
厭債害債
2008/05/02 02:56
k有町は未だに規制金利です。さんどうもです。一物二価はどの世界でもありますが、評価という問題が絡む金融商品では、それをおおっぴらにはいいにくいのでしょう。だから上場有価証券はワンプライス評価になりますね。
厭債害債
2008/05/02 02:59
二種類の価格提示ってのは、
マーケットの薄い会社型投信で、NAVとビッド、
よくありましたけどね。
M&Aの「存続価格と清算価格」のように、
目的に応じて二種類提示ってのは、
間違ってるとは思えない、というより、
実は昨今の時価評価の流れに合致している気がするのですが。
元IB現PB
2008/05/02 15:43
元IB現PBさんどうもです。会計という性格上ある程度画一性を保つ必要はあるかもしれませんが、こういう硬直的な会計ルールというのはある意味判断者の負担を軽くする以外のどれだけの意味があるのか、という疑問は持っています。時価が複数あることは別に問題でもなんでもないと思うのですけれどね。
厭債害債
2008/05/05 17:24

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