厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS マードフ事件の暗闇

<<   作成日時 : 2009/01/07 23:25   >>

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日本の報道は下火になってしまったが、この事件はバーナード・マードフというユダヤ人でNASDAQの会長までやった証券業界の大物が架空の投資実績をでっち上げてファンドにお金を集め、世界中の投資家から5兆円相当も巻き上げてしまった事件である。マードフ氏(Madoff)は良く見るとMad Offであり、魔土負であり、冥土府でもある。日本人から見たら不吉な名前だ。MadをOffして投資家に売りつけた人の名前としてはふさわしい。

WSJによればSECは被害者と見られる「過去1年間に直接資金を投じた」記録がある「8000人(個人法人含む)にClaim Form(被害届け出書みたいなものか)を送ったという。つまりこれだけの狭い範囲に限定して8000件あるわけだ。フィーダーファンドとして導管の役割を果たしたファンドオブファンズ経由の投資とか1年以上前からお金を入れていた人々とか入れると、なんだか絶望的な被害の大きさである。

この事件の特徴は、加害者が金融業界の大立者で被害者にもファンドオブファンズや銀行、機関投資家などプロが多かったことだ。手口そのものはいたってシンプルであるにもかかわらず、お金を投じた人々は、過去の「すばらしい」トラックレコードに目がくらみ、巨額の資金を預けていた(もちろん仲介する人々が多少脚色していたためだまされた面もある)。もう一つは、米国証券取引委員会(SEC)が、一般からの告発を受けて何度も調査に入っていたにもかかわらず、証拠がないとして見逃されてきた経緯があるということである。新聞記事によれば、次期オバマ政権でのSEC委員長はまさしくその調査の責任者だったということであり、このことがSECへの信頼性を一層失わせるのではないかと危惧する向きもあるようだ。マードフの会社の経営陣の一人が元SEC職員だったということもあり、SEC内部での不適切な行為の可能性を取りざたされたりもしている。

実は米国に住んでいたとき、ある人に頼まれてこのマードフの運用スキームを販売するファンドオブファンズのセールスの人の話を聞いたことがある。基本的な運用の仕組みは極めてシンプルである。SP100指数に属するベータ値の高い個別銘柄を何銘柄か買い持ちにする。そして片方でSP100指数のオプション取引、具体的にはカバードコール(保有している銘柄についてスポット価格より上の行使価格のコールの売り)を行う。これだけでは、市場が上昇を続けてしまうと、コールオプションが行使されそこで売らされてしまうため、それ以上の現物の値上がり益を取れないためアンダーパフォームしてしまうものの、少なくともプラスは確保できる。問題は市場が下落するときであるが、彼らの言によれば「状況に応じて」プットオプションを買うのだそうだ。それではどういうときにプットを買うという判断になるのか、と聞くと、マーケット状況の総合的判断だという。

本当はもっと複雑な説明もあったのだけれど、極めて単純化して言えば、彼らの言っていることは「マードフ氏は天才であり、相場の動きを極めて正確に読み切ることができる」ということだ。つまり、このパフォーマンスはマードフ氏の属人的能力に100%依存しているということになる。これぐらいは誰でもわかるだろう。そして天才相場師という人がいま絶滅したこともみんな知っているはずだ。

ヘッジファンド一般に確かにブラックボックス部分が多いのはわかるけれど、ここまではっきり「個人の勘」を全面に出した投資手法に巨額の金を突っ込んでしまうというのはワタクシとしてもかなり疑問を感じざるを得ない。損益曲線を描いてもらえば簡単にわかるが、この戦略は市場が上がり続ければプットを買いすぎない限り基本的にはマイナスになることはない。ところが下げ相場が続くと、逆に確実にマイナスになる。にもかかわらず過去20年ぐらいの間にわずか数ヶ月だけしかドローダウン(リターンがマイナスになること)がなかったこと自体、普通は疑わなければならない。実はこの投資手法に関してワタクシはいくつか質問をしたのだが、結局わかったことは「この数字が本当ならマードフ氏は神様に違いない」ということだけだった。

しかもワタクシに説明してくれた人は、投資されたお金がマードフ氏に預けられることははっきりと説明していない。その人の説明ではマードフ氏の勧める戦略に従って売買を執行する、ということなので、その説明に従えばお金そのものは手元にあるはずだが、実際はお金ごとマードフ氏に預けられしかも外部信託ではなくマードフ証券のカストディに入っていたから、まあ持ち逃げされることになったようだ。ここはまさに今回のフィーダーファンド経由の投資において大いに問題になるところで、SECの調査でもフィーダーファンドがきちんと説明していなかったとして問題になりそうなところである。

多くの場合、投資家のほうでもともとヘッジファンドなんてブラックボックスだから、という「判断停止」があるように思える。詳しく調べたって最後は企業秘密とやらで詰められないなら(本当はそんなこともないと思うけれど)「人」で判断しましょう、という行動様式が一部に見られる。光背効果(ハーロー効果)といわれるやつだ。ワタクシも人を見て判断することに異論はないけれど、ここまで説明が疑わしい場合は、いくら元ナスダックの会長でも疑ってかかるべきなのである。大体において詐欺事件で共通しているのは「信頼に足る(と勝手に思う)」著名人が使われることを忘れてはならない。

ところで、この事件の不気味さは、これだけ巨額の詐欺事件であるにもかかわらず、その集められたお金の行き先が全くわかっていないことだ。マードフ氏の手元にのこった金額はせいぜい300億円程度で集めた金額からすればほとんどないに等しい。この詐欺の手口が極めて「幼稚」で(そんな手段なら騙されるなと言いたいところだが)単に新規投資の金を既存の投資の償還や配当にまわしていただけだとはいえ、それにしても5兆円と300億では差が大きすぎる。すでにこの事件では自殺者が何人か出ており、事件の闇はかなり深いものがありそうに思える。


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
いつも楽しく拝見しています。
実は私も過去このファンドの話を聞く機会があり、「うそだろ!」と思いました。でも同時にヘッジファンドの世界は広くて深いので、こういうすばらしいパフォーマンスのファンドが、実はまだまだ隠れているのかも、と思ったものでした。その後、デューディリしていく中で胡散臭さを感じ、結論として何かInsider Tradingチックなポジション構築がなされているから、こんなに儲かるんだ、という自分なりの結論になり投資しませんでしたが、それよりも、いくら大物といっても、日本人からすると、よく分からない世界の大物だったのが、結果的にはミソだったのかなぁ、と思っています。(雑感ですいません。)
tatsu
2009/01/08 09:01
tatsuさんコメントありがとうございました。直感的な胡散臭さは意外に当たってしまうものですね。
厭債害債
2009/01/09 17:33
この人以外のマードフ氏に失礼すぎ
たここ
2009/01/09 21:02
ちなみに、発音はメイドフのようです。WSJにも(Made-off)と発音の仕方が書かれていました。CNN等でもそう発音していますね。
意外と、金の行方ってのは、発覚するまでに解約した投資家に返金されて行ってたのではないかと。毎年12%のパフォーマンスを上げていて、2008年末に50bioだったと仮定すると、1980年まで逆算するとたったの2mioが元手なんですよね。このスキームは投資家Aから投資家Bへの資金の受け渡しの高速回転を行っていただけみたいなので。たしかイェシバ大学も損失額を当初発表より減らしたような気が。投資家は過去のタックスファイリングをブレークすれば、払いすぎた税金ぐらいは回収できるかもしれませんね。

SPXのオプションにしても「OTCでやっていたからCBOTの出来高には反映していない」と説明していたようですが、そのカウンターパーティーだってそのポジション持ち続けるわけないですよね。でもそれを信じさせるマーケティングはある意味すごい。また、こういうのは5年もやればほとんどばれるんだろうけど、20年も維持出来たのもある意味すごいと思います。
みーちゃん
2009/01/31 07:49

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