厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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<<   作成日時 : 2009/05/14 17:30   >>

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本日の日経新聞には、監査法人が有価証券取引におけるいわゆる「ナンピン」による取得簿価の引き下げについて認めない方針を打ち出している、と報じられています。
ナンピンとは難平とも表記し、漢字に見られるように「困難な状況」を「平準化」するものです。具体的にはA社株を100円で100株買った後その株価が50円まで下落したとき、さらに100株買えば、保有200株で平均取得価格は75円となる。つまり保有コストの改善が図れるわけで、爾後株価が上昇したときに利益が大きくなること目指す取引といえます。
問題は、こういう取引は常に取得価格から株価が下落した場合に行われるのであり、その後さらに株価が下落した場合、持ち株数を増やした分だけ損失の増え方が大きくなるリスクも同時に抱えることになります。
また、新聞記事にもあったように、減損会計ルール(たとえばその他目的有価証券について取得原価から50%下落をもって実現損として計上しなければならない)の適用を免れるために意図的に平均取得原価を下げるためにも使われているようです。この場合目先の実現損(つまり損益計算書へのマイナス)を避けるためにリスクを増やす行動であり、動機としては不純で場合によってはあまり将来的にリターンの見込めないようなボロ株についてこれを行ってしまうこともありえるのです。まあそういうのはちょっといかがなものかとは思います。
トレーディングで儲けるという観点からも、ナンピンというのはあまり薦められる方法とはいえません。それは「含み損の領域」でポジションを倍にすることによるストレスの増加に耐えられなくなるからです。含み損益のしがらみがない状態で持つ新たなポジションは、きわめてフットワークが軽くなりますが、含み損がある状況ではどうしても取得原価を意識する傾向が生まれます。行動ファイナンスでいう「サンク・コスト」ですかね。したがって機動性を欠くことになって本来動くべき時に動けなくなる。経済的には同じなのですから、いったん損切りしてタイミングを見て買いなおすほうが合理的だと思われます。

ただ、ワタクシ自身そう思いつつも、この記事を読んですごく違和感があったのは、これって「経営判断」または「ガバナンス」の問題じゃないの?ということです。会計問題にするのが妥当かどうか、ということです。

たとえば、昨年度はじめからの日経平均のチャートを見ると3月はじめに底をうって反転しています。
画像

個人的にはまだまだ脆弱なマーケットであるとは思いますが、1−3月の市場は流動性危機に見舞われたおかげで基本的にミソもク●も投売り状態であり、その中で売られすぎた優良株を拾うという判断はありだと思います。
また、同じ傾向は為替についてもいえることで、明らかに決算を意識してリスク回避モードの円高になっていた外貨建て資産(特に外国の国債でさらに言えばスプレッドが極端に開いていた国のものなど)を拾うという行動はありだと思います。
ナンピンではなく、売ってから買えば?という意見もありそうですが、「その他目的」というのは基本的にトレーディングしないことを前提にしているので、買った後一定期間(たとえば5日)売らないとかあるいは売ってから一定期間買い戻さない、という縛りがかかっていることが多いと思います。この点は各社マターでルールは決められていると思いますが、少なくともトレーディングとまがうような頻繁な売買が出来ないよう金融商品会計実務指針でも定められている。この場合たまたま決算期の直前だからといってナンピンの経済効果を否認してしまうことにはちょっと違和感があります。

おそらく監査法人の立場としては、ナンピンしたからといって昔の高いコストそのものが消えるわけではないから、その分についてだけでも損を建てるべきだ、という言い分になるのかもしれません。しかし、企業は毎決算期に開示資料の中で有価証券の取得原価の定め方を注記にて開示しています。多くの企業が総平均法または移動平均法を採用していると思いますし、だからこそナンピンが意味を持つわけです。これら平均コストを取得原価として定めるやり方が株主に開示されているにもかかわらず、突然そのやり方を会計監査人が否定できるのか?それは株主に対する不意打ちではないか?(意図せざる実現損を計上した結果銀行から融資を打ち切られて会社が倒産したら、会計士は責任取れるのか?)という問題を孕んでいるように思えます。あまり考えられないとはいえ、株主総会での質疑応答で有価証券投資方針について議論が出て、会社側が明確にナンピンすると答えて承認されていた場合でも、会計士は否定できるのでしょうか?そもそも会計原則上認められているルールによる原価計算を否認する根拠は何か?それが記事だけでは良くわからなかった、というのが実情です。ワタクシは新聞記事を見てそういうことが起こっているのをはじめて知ったわけで、細かい状況の背景やルールについてはわかりません。報じられていない内容や細かい条件などあるのかもしれません。この点詳しい方にご教示いただけると助かります。

まあ、確かに地銀の一部で「過激な」ナンピンが下落過程で行われていたのは周知の事実で、それに監査法人の一部が「キレた」ということなのかもしれません。まあよほど意図的とみられるものについてはお仕置きも必要かもしれませんが、会計からのそのような縛りが常に必要かどうかははなはだ疑問というのがワタクシの今の意見です。

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内 容 ニックネーム/日時
「ガバナンス」の問題であり、「監査」は、取得した結果を正しく報告しているかの問題と、私も思います。従い、監査法人としては、注記を求めるのでしょうか?

「ナンピン」は、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式には有効でないから、その他有価証券にのみ意味があるように思える。強制評価替えの際に、「ナンピン」をすると、損失が株主資本に計上されずに、評価換算差額に計上される。財務諸表は、それで済んでも総会で問題にされる可能性があると思いますが。
ある経営コンサルタント
2009/05/14 12:53
会計の時価評価原則を緩和すべきなんでしょうね。企業の場合、余程余裕があれば別でしょうが持合と言うかお付合いの一種の意味もあるのでしょう。株主さんだからがお互いの関係をスムーズにする為のメソッドとしての意味合いが強いはずですから原価会計で何の不都合もないはずです。
素人の場合は持っている株でこそ自身で判断材料を沢山持っていて、手持ちでない株の情報をそこまで入手する手間隙から言えばナンピンと言うのは評価すべき行為と思います。
証券会社もプレイヤーですから、言うが侭にすれば損にならざるを得ず(証券会社も株を買い儲けるプロ)、ナンピンは無難な手法でしょう。
時価会計は諸刃の刃であるから、やめた方が良いでしょうね。
hbar
2009/05/14 13:18
経営判断の会計処理からの中立性を維持する(しっぽが犬を振る状態の是正)という意味では合理性を認められるものではないでしょうか。
健太
2009/05/14 17:34
ちょっと疑問に思ったのですが、「ナンピン買い」そのものを否定してる訳ではなく、「ナンピン買いしても取得価格を下げたと見なさない」のですから、決算期直前に割安な銘柄があれば買えば良いんじゃないでしょうか?
株主総会で投資方針を説明して、了承されて、監査法人は別にそれを否定してない気がします。買うこと自体は禁止してないから。
そもそも減損処理なんて「損失が表に出るかでないか」だけの違いで経済実態は変わらないんだから、おかしなインセンティブを持たせない方向に議論が進む方が正しいんじゃないかぁ、と素人考えで思いました。
的外れだったらごめんなさい。
タバコ
2009/05/14 19:22
ある経営コンサルタントさん、コメントありがとうございます。評価換算差額(損)は資本直入で結局は自己資本のマイナス要素となると思いますから、むしろ損益計算書を繕う目的になると思います。最終的に株主への説明責任があることはおっしゃる通りですね。
hbarさんどうもです。ナンピンそのものは、個人が自分のリスクでやるのは自由ですが、少なくともほかに対する説明責任を負う立場であれば、損失実現を防ぐためにやったとみられることはマイナスになりそうです。やはり説明責任をきちんと果たせるかどうかが問題です。
健太さん、コメントありがとうございます。ナンピンに合理性があるというご趣旨でしょうか。会計と経営判断は独立である、というのは全くその通りだと思います。
タバコさん、コメントありがとうございます。ワタクシもタバコさんのおっしゃることは全くその通りだと思うのですが、問題は現行のルールの下でしかも継続的に貸借対照表の注記で示されている取得原価の計算方法(たとえば移動平均)を会計士の判断として一部の銘柄について否定する根拠はどこにあるのかが(皮肉ではなく)よくわからないということです。
厭債害債
2009/05/15 01:24
ご無沙汰しております。
仰る通り、あんまり意味が分からないことを監査法人はやってきますね。債券の投資家からすれば、そんなことしなくても「その他有価証券」の時価評価額を別途出してもらえれば、それで十分なのですが。
ナンピンすることの是非なんてネタこそ内部統制監査のほうでしっかり議論して欲しいところであって、決算を作る上で問題にするのは違和感があります。
a-kun
2009/05/16 13:06
a-kunさんこちらこそご無沙汰です。ちなみに知り合いの企業監査をやっている会計士も(まあ新聞記事見ただけの話だと思いますが)「あほちゃうか」と言ってました。とくに、会計年度終わるころにそんなことを言い出したのなら、後だしじゃんけんで論外だとも。
厭債害債
2009/05/16 15:03

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