厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 金融政策と資産価格

<<   作成日時 : 2009/05/25 05:25   >>

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5月号の証券アナリストジャーナルに同名のタイトルで翁邦雄京都大学教授の同名の論文が掲載されている。
いわゆるFed View(「中央銀行は物価安定に専念すべきであり、資産価格変動に直接反応するのは適当でない」)について、今回の金融危機の結果これまで圧倒的な影響力を持ってきたこの考え方への信頼が低下する一方、従来黙殺されてきたBIS View(「過度の資産価格の上昇による金融的不均衡の蓄積が金融システムの不安定化を招くことを回避するため、仮に物価が安定していても、資産価格上昇を緩和するような引き締め的な金融政策運営(資産価格に対する"leaning against the wind")を行うべき」)への関心が高まっていると述べている。

この論文を読ませていただいて、「あっそうか!」と思ったのは、考えてみたら当然のことだがFed Viewの前提の一部として「資産市場の効率性」ということがあるのだということだ。

「(資産)市場の効率性」というのは(資産)市場価格には投資家が現在知りうる情報等は即時に価格に織り込まれるため、基本的にはそうした情報を利用した将来価格の予想は無意味だということになる。一般に教科書的にはWeak, Semi-Strong, Strongと3つのレベルの効率性が考えられ、それぞれによって織り込まれているべき情報のレベル(たとえばWeakだと過去の株価といったレベル、Semi-Strongであれば企業の公開情報レベル、Strongであればインサイダー情報レベル)は異なるもののそうしたデータを用いた将来価格予想は、そうした要素を知りうる投資家などによって市場で直ちに価格に反映されてしまうため、無意味になる、という仮説である。

つまり、これによれば資産価格にバブルというのは存在しないかあったとしても事後的にしかわからない、という結論になる。また、金融政策をインフレ率というファンダメンタルズに強く反応させることで資産価格が最終的にそれを織り込みに行くので、中央銀行は資産価格など見ないでインフレなどの「ファンダメンタルズ」にだけきちんとフォーカスしてやっていればいい、という結論になる。

翁論文からの引用になるが、Fed Viewの背景にはバーナンキ議長のプリンストン時代の共著論文があるという。それは「資産価格の変動に対してはそれが期待インフレ率変動のシグナルでない限り、決して反応してはならない」、と主張しているようだ。その前提として「もし資産価格がゆがみのない効率的な資本市場で形成されていればそれは経済のファンダメンタルズのみを反映しており、それ故、資産価格変動それ自体を懸念する必要なない」、とする。その前提が崩れるとすれば、資産価格にバブルが発生し、それが経済に大きな影響を与える場合である、と議論を展開しているという。

そして、その論文ではバブルに似た状況を組み込んだ政策シミュレーションを行った結果、「政策金利を資産価格にも反映させると、GDPギャップの分散は低下するが、インフレ率の分散は上昇してしまう」という結果となったようだ。このため「人々が物価安定よりも雇用や所得の安定化に格段に大きい価値を見出している場合を除けば、資産価格に金利を反応させることは、一国経済の社会厚生の低下につながる、ということを意味し、資産価格への反応を金融政策に組み込むべきでないことを示唆する」ものとなっているようだ。

素人のワタクシは、昔からお金に色が付いていないのにその使われ方が消費者物価に影響する日常物資か資産かによって金融政策の取り扱いが違うということに違和感を覚えていた。中央銀行が基本的な部分で市場の効率性を前提に考えていると理解すれば、なんとなく納得感があった。また、前提が古い世界の枠組みであればそれは適用可能だったのかもしれない。

ただ、効率市場仮説は、それに反する多くの事実が観察されているうえ、やはりブラックショールズ式の前提と同じくある一定の理論を構築していくために必要な前提にすぎない、という印象がある。また上記バーナンキ論文ででモデルとして想定されたバブルはある時点でファンダメンタルズと無関係に発生するという1982年のBlanchard and Watson論文のモデルをベースにしているようだ。その前提もさることながら、グローバル化が進行する中でインフレ率の分散が従来より枠組みとして(ある一定時期だけにせよ)低下しているのなら、上記の研究で使われた結論の前提が問題となってくるのではないかと思われる。

翁論文でも結びの章で「もし外性的で確率的なバブルではなく、市場の行き過ぎた楽観が資産価格のバブル的上昇をもたらしている場合(ブログ主注:これが普通の場合だと思う)に、中央銀行が物価安定に専念すると何が起こるのだろうか。」とし、別の論文を引用してこの場合インフレターゲット政策が資産価格上昇の手助けをしてしまうリスクを指摘している。

一方でBIS Viewについても、「資産価格上昇の背後にある市場の見方が正しかった場合」(つまり資産価格が将来の「正しい」生産性上昇を反映していた場合)には「不必要に景気を悪化させ、社会厚生を低下させる」とも指摘している。

ワタクシも、Fed Viewが基本的な部分で資産市場の効率性を前提としつつインフレの分散を過大評価している可能性があるとすれば、さまざまな面で見直しが入ってくる余地は大きいのではないかと思える。

以上は自分の頭の整理のメモです。ほとんど引用で、すみません。

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コメント(12件)

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BISビューも恐らくはそううまくはいかないように思います。まあ、バブルの規模次第のところはありますが。イエレン総裁の講演が参考になります。予防しようと思っても、ご指摘の件も含めて色々難しいことが指摘されています。市場経済上の永遠のテーマです。
本石町日記
2009/05/25 21:22
資産市場に影響を与えない=長期金融市場は関知しない。では足元だけか、懐中電灯は足元しか照らせない。そこから3M先をなんとか見よう見せようという勇気と努力がないと、金融政策は行灯、提灯の世界から抜け出せません
分断化された市場
2009/05/26 00:03
本石町日記さんどうもです。おっしゃるようにBIS Viewも問題は多いとは思います。中央銀行が一定の役割は果たすべきだとしても、結局タイミングを外して景気が落ち込んだ時に引き締めてしまう(実例はだれの時とは言いませんが)こともあったように思います。実はかなりの部分は政治の世界なのかもしれないとは思います。ただ、行き過ぎたFed Viewもそれなりに危険があるというのは最近の反省だろうと思います。

分断化された市場さんコメントありがとうございます。中央銀行の使えるツールが原則としては限られていることで、結局足元しか照らしていないように見えるのかもしれないとは思います。
厭債害債
2009/05/26 05:52
〜n個の政策目標の同時達成には、独立な政策手段もn個なければならない。〜
「日銀アカデミー」代表選手翁教授の割に、Fed /BIS View比較は意外と(昔の「マネーサプライ論争」に比べて)公平な分析と思いました。でもどちらのViewが妥当な回数が多いんでしょう?
「ティンバーゲンの定理」からすると、時にアンビバレントな2つ(一般/資産物価)を管理するには2つの手段がいる気が。その意味でこの論稿は「金利政策と資産価格」の方が分かり易いのかも。大方の中央銀行は金融調節と信用秩序維持の2命題があるはず。資産価格はプルーデンス政策で対応し改良を図る道もあるのでは?
”禁欲的”なBISも自己資本規制において景気循環を助長したとの批判がありますよね。日本は株含み益を一部算入しているのでバーゼルU以前からその傾向は明白。今回の世界的増資も次の危機には「ダブル・ギアリング」が心配。個別は健全でもマクロでのリスク過大をどうするか?システミック・リスクの教訓からマクロ・プルーデンス規制とか言われてますよね。この点は翁教授夫人の方が造詣が深かったりして…。
お伊勢参り
2009/05/26 10:51
事後的に見ると,ずいぶんと翁教授がFed Viewから歩み寄ったようにも思えます。それだけ現実の事態はグローバル化・複雑化しており政策論争のレベルも上がったと見たほうがいいのでしょうかね。
EURO SELLER
2009/05/27 00:46
ツールとしては提灯、懐中電灯しかおまえに配備しないよといわれても、今の時代コントロールされる側はサーチライト、はたまた赤外線センサー装備してるのに、これで対抗するのはないささか無理がある。なので、少なくとも懐中電灯しかもたせないよといわれても、中身の電球をLEDにするとか、赤外線暗視装置付に変えていけないと。誰も自衛隊の装備のように憲法違反だとはいいませよ。あとは自信のプライドの問題でしょ。
分断化された市場
2009/05/28 01:03
お伊勢参りさん、どうもです。まさにティンバーゲンの定理が問題となる事例ですが、少なくとも日銀はまだ手段を明確に用意しているかは別として、気配りがあるように思えます。
BIS規制については、まさにBIS規制導入によって80年代末あたりから多くの人はバブル崩壊の足音を感じていましたが、あのへんはかなり政治的な背景と理解しています。

EUROSELLERさんどうもです。勘違いかもしれませんが、もともと日銀はFed Viewからやや距離を置いていたのかもしれません。

分断化された市場さんどうもです。おっしゃるとおりです。まあ日銀はそれでも状況について目配りしているほうではないかと思います。問題はその際の武器の使用権限でちょっと整理が必要なんだと思います。
厭債害債
2009/05/28 11:56
>バブルというのは存在しないかあったとしても事後的にしかわからない、という結論になる。

馬鹿だな!バブルと言うのは金融業者が傲慢に成った時のことだよ。
ようは人間が人間のみのことしか考えられなくなって追い詰められた時のことだね。
多分今後増えちゃうだろうね。
kazzt
2009/05/29 01:05
kazztさんどうもです。バブルがおっしゃるように人間の心理の産物であることは否定できないとは思います。
厭債害債
2009/05/29 06:25
>心理の産物であることは否定できないとは思います。

えーっと心理じゃなくて、正しく記号化できると信じ込んでいる人には、バブルは存在しないのは当たり前なんです。
何故なら始めに記号ありきですから・・・・
ですが、現実は正しく記号で表現することが絶対に不可能なんです。
その現象の顕著なるモノがバブルでしょ?
kazzt
2009/06/01 00:32
日本のバブル崩壊後も、カネ余りという、投資資金過剰というか貯蓄過剰が、文明の問題になった、という認識が起きませんでした。もう資本主義ではない方がよいのでしょうが、代替案がラビ・バトラしかないんじゃ、冗談にもなりませんよね。
その他
2009/06/03 05:14
kazztさんどうもです。まあそうかもしれませんね。
その他さん、コメントありがとうございます。慣れ親しんだ状況を変えて代替を探すのはいつも困難です。
厭債害債
2009/06/08 09:07

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