厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS IAS39の改正公開草案(ED)について

<<   作成日時 : 2009/07/27 09:07   >>

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http://www.iasb.org/NR/rdonlyres/D1598224-3609-4F0A-82D0-6DC598C3249B/0/EDFinancialInstrumentsClassificationandMeasurement.pdf

IASBが7月14日付で改定案の公開草案(Exposure Draft=ED)を出し、これが今証券関連ビジネスの世界では大きな話題になっています。新聞でも取り上げられていますが、それはとりわけ日本における金融機関の投資行動を変える可能性があるものと思われ、今後どのような議論が進むのか注目されるところです。

会計の専門家ではないので誤解もあるかもしれませんが、投資家としての立場から思うところをまとめておきたいと思います。(誤解誤認があればなにとぞご指摘を)。


証券投資の面から最大の変更点は、従来の保有目的区分(売買目的、満期保有目的、その他目的など)の再編につながる評価方法の変更があるということです。具体的には「すべての」有価証券を二つだけに分類するという提案です。
・償却原価(Amortized cost)で評価すべきもの
・公正価値(Fair value)で評価すべきもの

このうち償却原価で評価すべきものとできるための要件として次の二つをともに満たさなければならないとしています。
1.基本的な融資の性質(Basic loan feature)を持つものであること
2.契約上の利回りベース(Contractural yield basis)で管理(Manage)されていること。

今回は「目的」がどこにも入っていません。つまり客観的に利回りが固定(Liborなどに対するスプレッドが固定されている場合も含むと解されます)しているもので融資的な性格を持つもの(ほとんどの債券は含まれると思います)が償却原価の対象になりそうです。さらに今回単純化の余波として複合金融商品(組み込みデリバティブ)についてもこの二つの基準で償却原価を使える場合が出てくることになります。また目的の概念が消えた結果、これまで「満期保有目的」に分類した証券のうち一部を正当な理由なく途中売却(または他の目的に変更)した場合、それ以外の「満期保有目的」証券すべてを「その他目的」などに時価で洗い替えて変更することが要求されたのですが、今回のEDではそれは不要だと明記しています。つまり償却原価を使いつつ途中売却できる範囲が広がったということになります。

(もちろんその時に出た利益はそのまま当期純損益に含まれるのではなくその他包括利益(OCI)として資本の部に入りそうな気はしますが)。

なお、証券化商品などの劣後部分(その犠牲においてほかのトランチを保護しているようなもの)はレバレッジがかかっている形であり、基本的な融資の性格を逸脱しており、償却原価は使えないだろうとしています。

償却原価を使うのが原則の場合であっても、企業はその利用によってAccounting Mismatchの解消に大きな意味があるのであればFair Value Optionつまりそれらの金融商品について損益計算書に反映させるような公正価値評価をとることができます。

また次の二つの場合については公正価値での評価を認めるものとしています。
1.一定のグループの金融資産が文書化された投資方針並びにリスク管理方針のもとで公正価値で評価されていること
2.組み込みデリバティブがあるいくつかの金融商品

こうした単純化の結果、Amortized Cost評価対象とFair Value評価対象のあいだで保有銘柄を移し替えることは一切できなくなるようです。(必要ないでしょ。って感じで)。


株についてはデリバティブも含み原則「すべて」公正価値での評価とするようです。例外は「市場価格がなくかつその公正価値が信頼性を持って測定できない場合」です。株式には減損処理ルールがありましたが、それができるんだったらどうして公正価値をはじめから使わないのか、という批判が前からあったようで、今回はその批判にこたえる形となっています。

当然議論になるのはいわゆる「売れない株式」、とくに日本の場合「持ち合い」や商売上の理由での保有が残っているためそれらを公正価値評価することが議論になります。今回のEDはこれについて、投資する側が最初にそういう目的であることを撤回不能の意思表示によって示した場合に限り、それの公正価値変化分(つまり時価の変化分)を損益計算書ではなくその他包括利益の中に入れることができるとしています。まあこれは現在のその他目的とほぼ同じ扱いです。しかし問題はこうした株の配当金も同様に損益計算書上ではなくその他包括利益に反映されること。もっと具体的にいえば、持ち合い株の配当が当期純損益に反映できませんし、その他包括利益から損益計算書への組み戻し(リサイクリング)はできないと明記しているわけで、これらについては売却等で実現するまでは損益計算書には出てこない形となりそうです。


今回の改正が今適用されたとしたら、たとえば債券の含み損益は一気にゼロになり(償却原価に戻るため)、株の含み損益の多くは損益計算書に反映され、それを避けるならば配当金が当期利益に計上できなくなるということになりそうです。また、組み込みデリバティブのある複合金融商品についてはモノによっては償却原価に戻る結果時価評価分との差額が当期の損益計算書に計上されてしまったりします。それなりに影響はあります。

保険会社は、基礎利益という概念の中での利差益の計算上「利息配当金収入」が重要ですが、政策投資株(つまり売りにくい株)の時価評価による損益計算書のぶれを避けようとするならばそれらにかかる損益をすべてOCI(その他包括利益)に入れなければならないため、それらの銘柄について利息配当金収入として当期利益に計上できなくなる可能性があります。まあこの辺は技術的なところなので今後生保特有のルールとの兼ね合いで議論されることでしょう。

債券をやっている人間としては、「保有目的」のルールが消えることは朗報です。これまではこのルールのために本当にくだらないことをやってましたから。また、従来売れなかった銘柄が自由に売買できるようになることも自由度を増すものとして歓迎されそうです。ただ、途中で債券を売却した場合に出る金利の変化による売却損益部分は、満期まで持った場合の金利差を先取りしている面があるわけで、その損益は当初予定された満期までの間で期間配分するのが今回の変更の趣旨にはかないそうな気がしています。
あと、永久債とか永久劣後ローンとか、こういったものはローンの性格を持たないものとして時価評価対象として扱われることになるのでしょうか?ちょっとはっきりしませんが、改正趣旨からはそうなりそうな気がします。
また、償却原価適用の要件は二つだけであり、「格付け」とか評価といったものは取り上げられていません。これは信用リスクが現在高いとみられている商品について、大きな評価の変更をもたらす可能性があります。金融機関の社債やカバードボンドなどを含む多くの信用リスク商品が現在市場で取引されている価格よりも高い評価をバランスシート上得られることになるのではないかと思います。これは「組み込みデリバティブ」があってもローンと同様の性格を持っていれば一体として償却原価が使えるわけですから、レバレッジのかかっていない最上位シニアのCDOなんかはもしかしたら償却原価の対象になるかもしれません。(もちろんクレジットリスク部分などによって減損にかかることはありえそうですが)。
債券のマネージャーとしては「売却の自由度」が増しつつ(確かな銘柄であれば)評価損を気にしないで投資することができるわけですから、基本的に今回の改正は歓迎ということになるのではないかと思います。


やはり影響は株のほうに大きく出そうな気がしています。原則時価評価(P/Lヒット)でそれ以外は配当が当期利益計上できないとなると、銀行や保険会社などにおいて保有の在り方を巡る議論がさらに深まることが予想されます。


ところで負債の時価評価との関係では、今回の改正は当然金融負債にも適用されると解されているようです。負債を時価評価した場合、資産サイドの多くが債券やローンなど今回の償却原価適用対象で占められる会社(たとえば保険、年金)などはどのようになっていくのか?まさにFair Value Optionを資産サイドに使用すべきことになるのか。生命保険負債などは一種の組み込みデリバティブもあるし配当みたいなものもあるので、公正価値評価が必要となると思われるのですが、この場合はそれこそFair Value Optionの適用を余儀なくされるかもしれない。結果的には保険会社の債券ポートも公正価値評価ということになってしまうかもしれません。(これが日本に適用されたときということですが)。(追記、修正しました)。


以上ざっとみただけですが、雑感ということで。一応広く意見を受け付けているようですので、いずれワタクシなりの意見も送ってみたいと思います。

(追記)本件は一度アップしましたが、nobuさんのコメントをうけて改めて考える時間をとるため消しました。で、結論としては、今回償却原価対象となるものについて従来の保有目的に関する説明がきちんとなされているところをみると、やはり、債券を対象にしたものと考えられます。(本来的な融資には保有目的区分はありませんので)。という理解の下あらためてアップしました。

新日本監査法人さんによる説明もリンクしておきます。
http://www.shinnihon.or.jp/knowledge/global/IFRS_Supplement_200907.pdf
まあプロの方がちゃんと説明してくれているので、ワタクシのエントリーなどあまり役にはたちませんことをご承知置きください。

(それにしてもEDという略語をみてどきっとしたのはワタクシだけですか、そうですか・・・)


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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
厭債害債さん、さっそくのIASB改正草案につきまして、雑感をアップしていただきありがとうございました。素人なもので、全部を理解できたわけではありませんが、わかりやすく解説していただいたと思います。

株式に関しては、大体イメージできましたし(していいたとおり)、それなりに影響もあり、今後の展開に注目ですね。

ただ、債券をやってる方については朗報とありましたが、各報道によると国債は持ちにくくなる、みたいなコメントが多かったですよね。
国内の機関投資家の多くが国債で運用しているため、時価評価が毎期P/Lにヒットするのは変動が大きくなると。また、「時価評価しない」にすると、売却益が損益に計上できず機動的な運用ができない(突発的な益出しができない)とありました。

仮に現保有の債券を2分類に分けるとしたら、割合的には何対何に振り分けるのでしょうか?業態や規模によって異なるのでしょうが、基本的にどちらを選好するのでしょうか?
現在の保有債券は、たいていが「その他」で、一部が「満期目的」ですよね?
ハピクロ
2009/07/27 18:22
続編?、有難うございます。
リンク先の監査法人のメモはとても分かり易いですが
その他包括利益(OCI)で処理できる商品に
債券が含まれていなかったかと思います。
同メモでも言及されている通り、
「契約上の利回りで管理」=「売却を予定しない」
であるとすると、満期保有を前提としない債券については、公正価値(時価)が適用されることになり兼ねないですね。。。
緩和措置・抜け穴?が政治的にも出てくるとは
思いますが、世界的に国債発行が増える中、
恐ろしい限りです。
nobu
2009/07/28 07:06
ハピクロさんどうもです。今回保有目的による分類をなくしたことで売却によるペナルティがなくなるということは、債券が償却原価適用の2要件を満たしている限り償却原価で持ちつつ売却できるという風に解釈できると思ったのです。ちなみに新日本さんの解説を見てもIASBは「単純な貸付金にみられる特徴」を金融商品のキャッシュフローが、元本の返済と利息(貨幣の時間価値と信用リスク)に対する支払いからのみ構成される場合を想定しているようです。また、同じパラグラフで資産担保証券についての言及があり、債券的な証券にも償却原価が適用されることが前提とされているものと考えられます。

なお保有目的の割合ですが、会社によってかなり差があると思います。経営方針の問題や会計ルール変更への取り組み方、そしてデュレーション管理の必要性と能力に依存すると思われます。

nobuさんどうもです。上にも書いたように債券一般に償却原価が適用されうると理解できないでしょうか?また契約上の利回りで管理も「当面の将来において売却する予定がない」と理解するようであり、しかも売却したことによるペナルティーがない(もしかしたら頻繁に同じ銘柄を売買したら違ってくるかもしれませんが)のですから、原則的に償却原価適用かつ売却可能と理解しているのですが。
厭債害債
2009/07/28 23:07
難解な話を分かりやすく解説頂き有難うございます。
幾つか疑問があったので頭の整理を助けて下さい。
生保・銀行は負債を時価評価するので、資産の太宗を占める円債はFV評価を選択すると思います。ALMリスク大きいですものね。その際、円債という資産をFV評価すると選択したら一律FV評価の対象となるんでしょうかね?
あと、外債も償却原価法を選べるように読めますが、そうすると時価変動にさらされることなく市場リスク量を抑制できるのかなとも思ったのですが。でも為替リスクや償還差損リスクは思いっきり負いますよね。ヘッジ処理の仕方もよくわからないし。
うーんと、すみません、こんがらがってきた。。。
ToM
2009/07/30 21:35
ToMさんコメントありがとうございます。ALMをきちんとやろうとすることと負債の時価評価を前提にすればおっしゃる通りほとんどの生保などがFVを選択することになると思いますが、負債の時価評価がまだふらふらしているので結構今後予断を許さないテーマかと思います。外貨建て債券も償却原価を選べると思いますが、これは現状の満期保有外貨建て債券とおなじく為替については時価評価が強制されるとみていますがどうでしょうか?
厭債害債
2009/07/31 00:12

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