厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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<<   作成日時 : 2010/02/02 19:05   >>

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欧州はこのところ、ギリシャやほかの財政的に脆弱さを見せる国々への不安からやや動揺しています。きっかけはギリシャが旧政権時代財政赤字の数字をまあ悪く言えばごまかしていた事が選挙後の新政権によって暴露された事です。ギリシャはほとんど二家族で政権をやり取りしているような感じなので、もともと政敵攻撃のために効果的だろうというぐらいのつもりで暴露したら(まあ隠しおおせなくなったという事かもしれませんが)国がひっくり返るような大変な騒ぎになってしまった。問題はギリシャだけにとどまらず、もともとPIGSと呼ばれたポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインなど南欧諸国の問題全体として捉えられるようになり、ひいてはこれらすべてがユーロ加盟国であるところから、ユーロ全体の構造問題となっています。

あくまで個人的意見としては、ギリシャのデフォルトリスクは「いまのところ」ほぼゼロといっていいでしょう。欧州の銀行一つですら大きすぎて潰せないのに、ユーロ全体のシステミックリスクにかかわるようなギリシャのデフォルトをユーロという仕組みが認める事はできない。そもそもユーロを作った意味そのものにかかわる話でありユーロという仕組みが安全弁となると思います。現状ギリシャの国債にはドイツ国債(5年満期で比較)でおよそ400bpの利回り格差が乗っていますが、需給による流動性リスクを反映した部分が極めて大きいと思います。いまのところ世界の当事者も含めた専門家のなかで、近い将来におけるギリシャのデフォルトを予想する人はほぼ皆無です。ほかの周辺の低い格付けの国に比べても、現状のスプレッドはやや割安感が出てきている感じですが、いかんせん、流動性の問題なので、値段はなかなか付きづらい。それが不安を余計にあおっている感じです。

他の欧州諸国にとってもギリシャは悩みの種です。金融政策は共通なので、一カ国の問題が金融政策を通じて間接的に他国に及ぶ事になる。救済といってももちろんよその国を直接救済する事はないので、間接的にその国のファイナンスをお手伝いするという程度になってしまうのですが、結局ユーロ圏全体の国債が増えて全体としての需給に影響は出るでしょう。そして、最大の問題は、そもそもマーストリヒト条約や財政安定化協定を通じて決めた基準をまったく無視したに等しいこのような国について、他の加盟国としてどう対応するのか、ということです。財政規律と成長の確保は現在政治の統一がなされないままのユーロという仕組みにとって生命線であり、各国がそれを守らなければ、きちんとしている国の犠牲において緩い国の人々が得をするというそういう構造ができてしまうからです。そのことは長い目で見てある程度の政治的な統合を目指すべき運命にある欧州にとってもきわめて不都合な事だと思います。

残念な事に?ユーロという仕組みには「除名」がないようです。つまり他の国からいくら嫌われても強制的に脱退させられる事はない。財政規律などを守れなかった場合のペナルティーはありますが、これも本当に深刻になった場合、ペナルティーが現実的なサンクションとなりうるのかどうか、もともと懸念されていたところです。ということで、こういうずさんな国を抱えたままユーロがずるずると沈んでいくリスク、それを市場は少し織り込みつつあるのだと思います。

それと、もう一つ、過去のトラックレコードから見てあまり現実味はないのですが、一応リスクとして考えなければならないことに、ユーロのコア国(ドイツ、フランス)が自らユーロを見捨て出て行ってしまうリスクがあります。先ほど「除名」はないと書きましたが、任意の脱退はありうるのです。

トラックレコードから現実味がないという意味は、ドイツ国民はあれだけ経済的に無茶だといわれた東西ドイツ統合をやってのけたし、そもそも戦争の惨禍への強い反省からできたEUや統一欧州への強い思いをドイツの政治家や支配層たちは持ち続けていると思うからです。しかしながら、一方で世の中がますます景気の伸びが苦しくなってきて、政治がポピュリスト寄りに成ってくると、そういった理想論がかすんでしまい現実論や狭隘な自国中心主義に回帰してしまう事もあります。考えてみれば民主主義国家なのですから、ドイツ国民の大多数がユーロを見捨てて新マルクに復帰すると決めれば、それで終わりです。もちろん、それ以前に多くの議論がなされるでしょうし、いまのところ目だった話は出ていないのでまだ問題以前の状況なのでしょうが、中期的には一応リスクとしてみておく必要はあると思います。

この事を考えると、実はユーロの価値として喧伝されてきたドルの代替準備通貨性の本質部分がかなり過大評価されてきたことに気付きます。これまで多くの人々は「なんとなく」ユーロの価値をコアの国々のイメージとリンクさせてきたと思われるからです。つまりユーロの信頼性の多くの部分がドイツやフランスの信用力を背景にしていた。しかしドイツが「ケツをまくる」可能性があるとするならば、そしてどの国もケツをまくる可能性があるならば、本来のユーロの代替準備通貨としての価値(安定性や通用性など)は「最も信用力の低い国」をベースにして測定されるべきであり、ドイツやフランスが「たまたま」加盟している事によって信用力が上乗せされている、というアプローチを取る必要があるのではないでしょうか?

ギリシャも独立国ですし、加盟国から別の加盟国への直接の支援は考えづらい。またECBがギリシャだけ特別に支援することも平等という観点から難しいと思います。結局ギリシャがきちんとファイナンスできるよう周りがサポートするというのが当面の対応となります。先日ギリシャが5年の国債を出しました。当初30億ユーロといわれていたものが「申し込み過多(oversubscription)」によって80億ユーロに増額されたといいます。しかも、申し込み自体は240億ユーロもあったとか。ご丁寧に中国の中央銀行が買っているといううわさも(すぐに否定されましたが)流されていました。実際は前日になぞの空売りが相当出ていたようで、この人気沸騰度はかなり「やらせ」っぽい感じがしました。買っていたのも欧州の各国中央銀行が結構いたようです。まさにユーロの死命をかけた発行という感じでした。

格付けも一つの大きな問題となりそうです。今のところムーディーズがA2を維持しており、フィッチとSPはBBB+に下げました。いずれもネガティブウォッチと成っています。BBB格なのでまだ多くの機関投資家や年金などにおける投資基準はクリアしているようですが、投資家にとって格付けは今でも重要で、年金基金などでは処によってはシングルA格がミニマムというところもあります。すでにシングルA格をミニマムとするところが大量に売ったおかげでここまで下げが加速した面があります。最初の大きな下落は格下げによって「グ●ソブ」が投げたことが大きな要因だったようです。万が一ダブルB格にまで格下げされたら、世界中の年金や機関投資家がさらに投げてしまうかもしれません。ムーディーズがA2を引き下げなかったのはもちろんユーロというシステム的なサポートを重視しているからですがもともと政治的なインプリケーションを重視するムーディーズにとっては、それほど違和感のあるものではないとはいえ、それ以上の要因がありそうに思います。

当面、ギリシャはEUの厳しい監督に服します。まず2月3日にECが「成長と安定のプログラムに関する勧告」を出し、ギリシャはそれに対し承認するかどうか国会で決めなければなりません。承認すると厳しい増税や歳出カットが必要になります。アイルランドも危機が起きたのですが、国民に増税と歳出カットをのませて今は何とか落ち着いています。ポピュリスト的政策に慣れたギリシャ国民がこれらをきちんと受け入れられるかどうか、が注目されます。

諸外国では意外にギリシャ問題のリスクを大きく見ているような気がします。オーストラリアのRBA(中央銀行)は本日利上げを見送りましたが、大方の予想は利上げでした。中国のPMIの下落なども理由として想像されるもののギリシャを含む外部環境の不透明さが大きな要素となったというのがもっぱらの評価です。

ちなみにギリシャの財政赤字は単年度でGDPの13%弱と大きいですが、債務残高はようやく100%を超えたところです。そういえばどこぞの極東の国では200%というところがありましたっけ?個別国の財政の問題に不安が一杯な状況ではそもそも統一通貨なんて危うい存在になるだけだという、貴重な先例として記憶にとどめておくべきでしょう。

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
本当に勉強になります。
「除名」はないけど、「任意の脱退はありうる」というのは全然知りませんでした。

>>本来のユーロの代替準備通貨としての価値(安定性や通用性など)は「最も信用力の低い国」をベースにして測定されるべき
まったく仰られる通りだと思います。そうでなくては安定性や通用性が担保されませんもの。

>>最初の大きな下落は格下げによって「グ●ソブ」が投げたことが大きな要因だったようです。
「グ●ソブ」ってすごいんですねえ(^^)
40歳無職
2010/02/03 21:10
いつも拝読させて頂いております。
最近のユーロのラリーはすごいですね。
どこぞの極東もようやく通貨高から解放されそうなのですが、次の円安は恐ろしいと思います。
為替屋
2010/02/04 02:37
40歳無職さん、どうもです。ギリシャ救済はようやくECレベルでまとまったようですが、今後も為替には下方圧力がかかると思います。

為替屋さん、コメントありがとうございます。円安になるためには、まだいろいろな条件が満たされる必要がありますね。
厭債害債
2010/02/12 06:23
実にすばらしいご意見目がうろこです。機軸通貨という考えの発想まさに中央銀行は何故ひとつなのだということで、そこがだめなら脱退して別の通貨作れば的発想は、香港なんかと同じでいいですね。何故一国に中央銀行がひとつでないといけないのか、中銀がだめなら脱退すればという考えで、アメリカは連邦準備銀行なので、NY連銀がNY$は発行する可能はあるわけです。
karu
2010/02/13 01:33
karuさんどうもです。連邦という形での政治統合ができるなら、通貨を別にする必要はないのだろうと思います。
厭債害債
2010/02/19 01:07

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