厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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<<   作成日時 : 2010/11/09 12:02   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 26 / トラックバック 1 / コメント 9

通貨や経済をめぐる国同士の鞘当合戦がかなり複雑になってきたようです。ひとつだけ怖いことは、経済のことしか今みんなの頭の中にないので、それ以外の大事なことが大事なことではなくなったかのような「誤解」あるいは「無視」がはびこり、気がついてみたらとんでもない結果になってしまっている、というようなことになりはしないか、ということです。言葉を変えるならば、自国経済を重視するあまり大きな世界の、あえて大げさな言葉を使えば、「正義」を無視するようなことになってはいないか、ということです。

為替の問題については、まずは中国元の問題があります。そもそも為替の自由化のアイデアは、国同士の経常収支不均衡を為替で調整できるのがウリなわけで、そのことによって不必要な政治上の揉め事を回避できる(はず)ということがメリットです。ところが、中国のように経常収支が大きな黒字となりながら意図的に為替の自由化を阻止しているような場合、それは言い方を変えると国際間の緊張を意図的に高めてしまっている、ということになるわけです。もちろん背景には中国国内の経済成長を今阻害することが内政的に不可能だということがあります。つまり内政の都合で国際的な緊張を強いている結果になっている。

アメリカも、景気悪化に対して量的緩和を推し進めています。このことは結果としてドル安を推し進めることになります。しかも多くの貿易等の決済で使われるいわゆる「基軸通貨」であって、多くの当事者は減価するドルを受け入れるしかありませんし、製品の国際競争力という点でアメリカはその立場を利用して人為的に有利にしているという言われ方をしてしまいます。これもまた内政の都合で国際的な軋轢を生んでいるわけで、新興国を中心に非難の嵐となっている。

そして、アメリカの巨額の財政赤字をファイナンスしているのは、外貨準備を溜め込み米国の国債を大量に買ってくれる中国であったりするので、為替に関してはアメリカは中国を本気で非難できない(中国が貿易赤字にでもなったら米国債の買いは一気にしぼんで金利が急騰してしまうリスクもある)。だから、為替に関してはいまの米中関係はほぼ予定調和みたいなものだと思いますが、そのとばっちりが他の国々にきてしまっている。(その最大のデメリットを受けているのが資源がなく労働コストの高い日本ということになってしまっています。)

米中は覇権をめぐる争いを続けていることに変わりはありません。とりわけ、中国がこれほどまでに「欲望」をむき出しにしてきたこのごろですから、米国としてもこれまで以上に中国と対抗する必要が出てきているのですが、すでに述べたように経済では予定調和を強いられてしまっているので、外交でがんばってしまうことになる。その一例がオバマ大統領のインド訪問を含むアジア歴訪で、今回は意図的に中国をはずしたばかりか、あろうことか、インドの国連安全保障理事国常任理事国入りにサポートを明言し、これまで非難してきた核実験について不問に付す(制裁をやめる)ことにしました。言うまでもなく安全保障理事会の常任理事国というのは「拒否権」によって世界中の国際紛争上の重要問題について自分の意に沿わないことをやらないあるいはやらせないという権能を持ちますから、外交上の実力というか「格」としては日本よりはるかに上に位置することになります。よく言われるように「国連」というのはUnited Nationsの誤訳であり正しい訳としては「(第二次世界大戦の)連合国」ということなのだそうですが、インドは旧大英帝国を宗主国としていたとはいえ、中国とは明らかに立場が違う。インドの常任理事国入りを支持したということは、今回中国をスキップした歴訪という意味でも明らかに中国に対する包囲網という意味合いを強く打ち出していると思います。そして、こうした「従来の枠組みを変え」かねず、パキスタンなどの近隣諸国を刺激しかねない政策が、おそらく経済問題の窮乏から端を発しているというところが問題で、しかもそれが米国の自国利益のみを追求する一国主義的なアプローチで行われていることが問題です。

これに対して中国も黙っていません。欧州に行って債務問題で困っている国々を訪問し、そこの国債を買ってやるからということで(米国債から乗り換えるよ、という意味で)米国へのプレッシャーを加えるとともにそれらの国々の支持を勝ち得ようとしています。しかし、こうした「ノイズ」は欧州の債務問題の本質に部外者が介入しているという意味で、問題をより複雑に(少なくとも市場参加者の観点で)しているように思えます。たとえば、(まあ今のところポーズだけでしょうけれど)中国が本当に大量のアイルランド国債などを買ってしまった場合、近い将来に債務リストラは事実上可能なのかどうか、など。中国はまた資源のためにアフリカ諸国などと積極的な協力関係を結びつつありますが、その一部としては兵器の輸出なども含まれており、そしてアフリカの一部の地域では紛争の火種はあちこちに残っているのですが、そういったことを無視して輸出する武器が人権侵害や地域紛争の原因となったりする可能性もあります。

「正義」などという言葉をそれほど軽々しく使うべきではないことは重々承知の上ですが、それでも、最近あちこちで「自国のため」なら「なんでもあり」みたいな風潮が目立つうえ、それを積極的に推し進める国がそれぞれGDPと人口でそれぞれ最大の国だったりするわけで、やはりここは弱小国民としては彼らの「なんでもあり主義」へのアンチテーゼを「正義」という強い言葉で表現したくもなります。非常時対応のはずが、なんだか他国の犠牲のもとに自分たちだけが生き残るための手段として大国がどんどん質の悪い政策や外交を繰り広げていくことへ、もっと警戒を強めていくべきではないか、と思います。

もちろん、現状認識として米国との関係を重視しなければならないのは当然としても、だからこそ「同盟国」として世界の構造を変えるようなイッシューに対して何らかの口を挟めるようにしておきたいものです。グローバル化した経済の下では、これまで「自分たちの不始末」として自分たちで解決すべき問題が、その国力ゆえに、直接または間接に、他国の犠牲のもとに解決しうるのです。我々を含む弱小国の国民もこれを看過するのではなく、自分たちが使いうる強みを正確に把握し、どのような形でそういったプロセスに楔を打ち込むことができるのか、できるだけ早くきちんと議論していかないと、取り返しのつかない事態が進行してしまうような気がします。

もっとも、本当に力があれば、日本も米中のような極悪同盟に加わっていてもいいんですけれどね。


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コメント(9件)

内 容 ニックネーム/日時
いつも、明快な絵柄を示してくださり、ありがとうございました。やはりリーマンショックというのは、戦前の大恐慌に近いインパクトを持つ出来事だったということが徐々にわかってまいりました。日本国内に戦前の軍部のような集団や、極端な窮乏層がいないのが救いですが。

厭債害債さまが仮に宰相の地位にあったら、どのような打開策を実行に移されるのでしょうか。ご教示いただければ幸いです。
Naniwa no Nagori
2010/11/09 12:23
通貨安競争の文脈で他国を非難するのであれば、昨年夏の「協調利下げ」を日本が蹴っ飛ばした経緯を外すべきではないと思います。それも、内政的なドタバタが原因であります。
また、通貨安競争は固定相場時代(為替レートを公的に設定していた時代)の用語であると思います。自国経済安定化のための金融緩和策は、別段他国に非難されるいわれはない行為です。むしろ、貿易の下支えとなるため、他国からしてみたら「どんどんやって欲しい」話であるはず。
中国は為替管理国であり、輸出主導のために自国通貨の交換レートを意図的に低めに設定していますので、批判の対象のなるのはわかります。が、米国まで批判する意味がわかりません。
日本の為替介入は、冒頭に書いたように、同一政権が1年前に協調介入を拒否した経緯があったわけで、その上で、一貫性の無さが批判されているのではないでしょうか?また、日本において政権に近い人は、過去の失政を批判しづらいために、「通貨安競争」などという捻じ曲がった表現に飛びついてしまっているのではないでしょうか?
通公認
2010/11/09 13:39
米中は、「本気の外交」をやっているということでしょうか?
それに比して我が日本の外交ベタは、何も現政権に始まったことではありませんね。
>「同盟国」として…何らかの口を挟めるようにしておきたい
全く同感です。日米同盟というと、まるで米国に無定見に従うことだと勘違いしている自称「保守」の人たちが多いですが、わが国と米国の国益がすべて一致するわけではありませんからね。
KT111
2010/11/10 19:55
極悪同盟は言いえて妙です。しかしこいつらというか、自由とか人民のためとかいって、戦争の種をまき散らして挙句の果てに、経済的なアドバンテージを取るために、自国通貨安戦争ってこいつらにこれからの世界を任せられないのは明白な事実ですね。
どちらもというか日本もそうだが、圧倒的な指導力を持てない為政者が支配していることが問題、尖閣での日中首脳のみっともない対応、マーアメリカもロシアも同じように、きわめて局所的な問題なのに、自国のあほ国民相手にパフォーマンスをしなきゃいけないのかね。あまりにも内向きな矮小化された指導者に各国国民はいかってじゃない。
かる
2010/11/10 22:39
Naniwa no Nagoriさんどうもです。ワタクシは結構悲観論者ですので実のところ解決はかなり暴力的なものになってしまう、と思っているのですが、日本は世界的に見て生活水準が高い平等社会を実現しているという意味では(物事の表裏はありますが)素晴らしい国であり、その価値を積極的に訴えていくことでしょうかね。(そして間接的にその相手国の国力を長期的に落としていく・・・・おっとまた陰謀史観が出てしまいました)。

通公認さんコメントありがとうございます。協調利下げ拒否は確か2008年だったとは思いますが、いずれにせよ当時はまだ物事の重大性をよくわかっていなかった時代ではないかと思います。いいかえると「仲良くやればみんな何とかなる」という理解だったのですが、いまはそれぞれが自分の事大事で人のことなど構っていられない、ということでしょう。もちろん、各国の金融緩和はそれぞれの事情でやればいいのですが、為替を人為的に操作することにつながるようなやり方はやはり非難の対象になります(いかに本人がそういう意図を否定していても)。そしてアメリカは基軸通貨国なので影響が大きいのだと思います。過去に例のないくらい大規模に通貨の供給を増やすことがどうしても意図的に為替レートを引き下げる(あるいは当然下がることを前提にしている)やりかたと見られるのですが、基軸通貨の特権を持つ国がそれをやるのはいかがなものか(だからみんな管理通貨制度について不安になって、金が買われてしまう)ということでしょうね。あと、昨年協調介入を拒否したとの記述がありましたが、ワタクシはちょっと記憶がありません。
厭債害債
2010/11/11 06:27
KT111さんコメントありがとうございます。米中ともしっかり本気だと思います。しかもよく練られている感じですね。少なくとの我が国とはかなりのレベルの違いがありますが、これはやはり血をもって経験値を高めたかどうか、という違いでしょうね。

かるさんどうもです。有権者がこれまで以上に力を持ってしまったということでしょうね。
厭債害債
2010/11/11 06:30
一昨年の2008年でした。間違いのご指摘ありがとうございます。申し訳ありません。昨今の流れが将来に悪影響をもたらす可能性については、僕も同様に心配しております。TPPなども、表向きの理由とは裏腹に内容的には戦前のブロック経済に近い匂いを感じております。

ただ、米中の覇権争いについても、基本的な流れがそうなっている事は理解した上で、アメリカの量的緩和がこの文脈で批判される理由が僕にはまったくわからないんです。低インフレと高失業率の対策で金融緩和をしたら副作用で為替レートが下落した。それを否定したら、金融政策そのものが成り立たないですよ。そもそも過度のインフレを許容してでも金融緩和を継続する国なんてジンバブエぐらいでしょう。アメリカはニクソンショック以後金兌換という意味での機軸通貨としての地位を放棄しております。為替レートの過度の変動は、プラザ合意のような相当なリーダーシップと協力関係が無いと実現できないわけで、そういう変動は望まないけど暫時的な役割分担の低下は米国も望んでいると思います。むしろ米ドルを後生大事に抱えているのは、他国の都合だと思います。

また、米中の問題は米国と中国との経常収支バランスの問題が根底にあって、基本的にアメリカ国内の下院レベルの地域経済の問題だと思うんですよね。昔の日米構造協議みたいな。

繰り返しになりますが、それを金融政策の話と絡めて批判する意味がわからない。どことなしに、関係者の自己弁護的な誘導が隠れているように見えて仕方がないのです。
通公認
2010/11/12 12:23
久々のコメントです。先回は2009年上半期の米銀のあまりに、あまりな決算に対するものでしたので1年半ぶりです。ブログはずっと読んでいましたよ。
多くの識者が、CDOの乱脈ぶり、米銀の決算等々に、これで米国は終わりだ、世界は破綻だというような過激なコメントを発信していましたが、厭債害債さんは冷静な意見をずっと述べられていて、また世界がその通りに動いていたので関心していました。
でも今回はさすがに米中の横暴に辟易としている様子が感じられて、厭債害債さんもやはり普通の人なんだと変に感心しております。

アイルランドの事実上のデフォルト、先の見えないギリシャでユーロの終焉は秒読み、外国にとって魅力のない低金利国債を自ら買わねばならないところまで追い込まれた米国は時間の問題、元切り上げは保有資産の巨額損と貿易黒字の消滅でにっちもさっちも行かない中国。
私にはこのように見えるのですが、ECBは、バーナンキは、共産党政府は何とか乗り切れるのでしょうか?
それとも何か悪知恵をたくらんでいるのでしょうか。
Eishin
2010/11/14 20:51
通公認さんどうもです。アメリカが批判されるのはそれだけアメリカの力が強いことの裏返しだと思います。管理通貨制度が基本的にドルを中心としており、国際的な決済などを通じてドルがそれなりに特権を持っているのが現実なので、その責任において多少がまんせよ、と諸外国も言っているのだと思います。おっしゃる通り、一国の金融政策なので本来は批判される性質のものでもないのですが、これだけ相互関連が強くなった国際的なお金の動きの中で、あきらかに過剰流動性の原因となることを米国が行うことで諸外国の経済に直接影響が出るので、それに対して周りがいろいろ言うのはいたしかたないことかと思います。日本だったら誰も何も言わないでしょうね。

Eishinさんどうもです。普通の人です(笑)。実のところ、こういう状況は力関係においてしかたないこと、と思っています。この状況に対する究極のオブジェクションは結局のところ金買いになるのでしょうね。
個人的には、ECBもバーナンキも中国指導部もみんな必死で筋書きのないドラマをアドリブで演じ続けているのだろうと思っています。だからこそ怖いのですけれど。
厭債害債
2010/11/16 06:23

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