厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 震災後の市場について

<<   作成日時 : 2011/04/03 12:23   >>

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原発の問題が行き詰っているようで、重苦しい雰囲気が立ち込める世の中です。そのなかでまだまだ避難所などで御苦労が続く方々も多いと思います。首都圏住民としては、寄付や受け入れなどでできるだけ協力すると思いますが、同時に経済をきちんと回すために必要以上に縮こまらずに仕事をし生活していきたいと思います。冷静に判断して風評被害としか思えないような買い控えとか買いだめとか行われている中では、根拠のないうわさに惑わされず野菜を食べお肉を食べるつもりです。

為替相場はまあ当然のごとく円安になりました。ECBはおそらく今月利上げでしょうし海外金利がむしろ上昇傾向にあり米国でも量的緩和解除から利上げも視野に入れる人が出てきたなかで、金利差という点でも自然なことです。ヘッジ付き外債を多く持つ保険会社などでは、そろそろお尻がむずむずしてくる水準かもしれませんね。

あの有名な(何で有名かはご想像にお任せしますが)ムーディーズという格付け業者が3月31日に3ノッチ格下げという随分なパフォーマンスをやってくださった東京電力は、社債の値段もそれなりに下がっているようです。一応の現状コンセンサスとしては、東電はそれなりの責任を負わなければならないと思われるものの、社債権者としての権利はそれなりに守られているようです。すなわち、株主の責任は問われることがあるだろうし、損害賠償で通常の営利企業としてやっていけないような事態になる可能性はあるかもしれないが、社債の償還については当面は問題ないと考えられることです。

当面は、という意味は、色々な不確実性が政治面も含めて大きいし、なによりも人々の気持ちのうえで完全な免責というのが通用するのか、という疑問があるからです。免責というのは、原子力損害賠償法(原賠法)に「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない」(3条1項)とあり、要するに「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」の場合は東京電力が賠償責任を負わないと明記されているからです。今回の天災地変はマグニチュードの規模や日本の歴史でもきちんとした記録がないぐらいの規模だったことにかんがみれば、「常識的」にはこの但し書きにあたるだろうと思われます。
しかしながら、先日枝野官房長官が「免責しない」と言明してしまったように、感情論としてそのまま通るかどうかはなかなか微妙と言わざるを得ないと思います。

ところでこの賠償の問題は社債権者との関係ではさらに微妙な問題をはらみます。というのは電気事業法に次のような規定があるからです。

(一般担保)
第37条  一般電気事業者たる会社の社債権者(社債等の振替に関する法律(平成十三年法律第75号)第66条第1号に規定する短期社債の社債権者を除く。)は、その会社の財産について他の債権者に先だつて自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2  前項の先取特権の順位は、民法(明治二十九年法律第89号)の規定による一般の先取特権に次ぐものとする。


ちなみに民法の一般の先取特権とは次のようなものです(面倒なのでWikipediaから)

一般の先取特権

以下に掲げる原因より生じた債権を有する者は、一般の先取特権を有する(306条)。
1.共益の費用
各債権者の共同利益のためになした、債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用をいう(307条1項)。
共益の費用中、総債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する(同条2項)。また、共益費用の先取特権は、その利益を受けた総債権者に対して優先の効力を有する(329条2項但書)。

2.雇用関係
給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権をいう(308条)。

3.葬式の費用
債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額及び債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額をいう(309条1項、2項)。

4.日用品の供給
債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6か月間の飲食料品・燃料及び電気の供給をいう(310条)。

一般の先取特権の順位(329条)
一般の先取特権が互いに競合する場合においては、その優先権の順位は、上に掲げた順位による。
一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合においては、特別の先取特権は一般の先取特権に優先する(329条2項本文)。


というわけで、通常の一般債権となってしまう損害賠償請求権に対して、社債権者というのは先取特権を持っており、端的にいえば電力会社の一般財産に対して優先的にかかっていける(財産から優先的に弁済を受ける)権利を持つことになっています。変えればいいではないか、といっても原賠法も電気事業法も法律なので、変えるためには国会の議決が必要ですし、そもそも法理論的に後からできた法律でその発生当時(社債購入、あるいは原発事故)の法律の効果を変えられるのかは大変疑問になります。

もちろん、東京電力がこれからお金がかかることによって会社自体が傾くことは考えられますが、社債権者の権利が危うくなる場合は「東電から」は損害賠償をとることはもっと難しくなります。つまり5兆6千億円(H12末)に上る社債の償還を損害賠償より優先しなければならなくなります。

もちろん、これは会社財産の清算の場合に重要になる規定であり、毎年会社側が償還をこなしながら損害賠償をやっていくことは全く問題はない。つまり、枝野さんが意図したかどうかはわかりませんが、損害賠償を払わせるということは政府として東電をつぶさないあるいは社債は保護される、と言ったのと同じことなのです。

一応、こういう一般財産で保全されるのは社債だけで、融資はその対象に入っていません。メガバンクなどが行った2兆円の緊急融資は、現在の理解では社債に劣後する一般債権となるはずです。通常はそれでは巨額の緊急融資はなかなか出せないでしょうから、何らかの無形の「信用補完」があると考えるのが普通です。
いいかえると、「暗黙の政府保証」みたいなものかな、と推測しています。

確かにこれまでも政府系と言われた某航空会社も破綻しましたが、某航空会社の場合は最悪の場合飛ばなくなっても国民生活上深刻といえるほどの大きな不都合がなかったのに対し、東京電力の場合は、資金繰りに行き詰ってオペレーションが止まることを許容できるかなんて想像することもできないし、そもそも倒産させて損害賠償をほったらかしにできるとも思えない。つまりToo important to failなのです。どちらかといえばアメリカのGSE(ファニメ、フレディマックなど)に近いのではないかと思います。彼らが「暗黙の政府保証」を持つといわれ実際それが現実のものとなったことを踏まえると、社債というのはきちんと償還され続けざるを得ないし、今後も必要な調達をバックアップする仕組みを維持せざるを得ないと思います。

余談ですが、水俣病で巨額の賠償責任を負うと予想されたチッソは国の管理下とはいえきちんと存続しています。やはり公害は大きくなるとその当事者をなくしてしまうのが逆に困難となるということかな、とも思います。

というわけで、話が長くなりましたが、一連の事象を冷静に考えるならば今回の事件において東京電力の信用力が落ちるのはやむを得ないですが、社債という点では「暗黙の政府保証」ができたと考えてもいいのではないかと思うのですがどうでしょうか?そのなかでまあ格下げもいいけれど、国の信用バックアップも考慮した上での格付けとかわざわざ付け加えて必要以上にしかも期末の最終日に3ノッチも格下げをするのは、やっぱりヤ●ザなみの強引な言いがかりとしか言いようがありません。大体において、最終的に国が面倒みるだろうみたいな書き方をしているのだから、言っていることがそもそもおかしいんですが。

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コメント(12件)

内 容 ニックネーム/日時
hikaruさんどうもです。前のエントリーにも同じコメントを頂戴したようですが、今回は特に関係なさそうなので削除させていただきました。悪しからずご了承ください。またこのようなコメントの出し方は今後お控えください。
厭債害債
2011/04/03 14:16
”今回の天災地変はマグニチュードの規模や日本の歴史でもきちんとした記録がないぐらいの規模だったことにかんがみれば...”

東北電力の女川原発が同程度の津波で稼動してますから、果たして東電が免責されるかどうか。政治的には免責される可能性が高いでしょうが、心情的にはちょっと、といったところです。
通りすがり
2011/04/04 11:03
僕は、復興需要の配分形式(?)に興味があります。
「適切な額で、適切な期間の予算配分」
が望ましいと思うのですが、
長期的には需要が無いのに、短期的に供給増やす事になると
※例えば、建設業
正社員で固定費増やすわけには行かないんだから、
「日雇い派遣な雇用を増やして、
 何年かたって、転職できないくらい年とってから雇い止め」
になるか、小規模な下請け建設会社を一杯作る事になりそうで、
予算処置する期間を不必要に延ばす事にインセンティブがある人間
を大量生産しそうだからです。
学生
2011/04/04 11:27
支払い不能原因による倒産がないとしても、賠償金による債務超過を理由とする倒産事由を無視されていませんか。
1.賠償金は不法行為債権ではないか?->手続きで免責カット不許可債権。
2.社債->カットされうる。
すなわち賠償金は全額保護されるが、社債は全額免責されうる?
久永眞
2011/04/06 16:39
発電・送電事業の譲渡or当該事業だけを切り離した新設分割or新設会社の株式移転を計画するにしても、賠償金だけは切り離さないと資金の出してがいない。賠償金支払いで社債権者が危険に晒されて、受託者?が担保権を行使した場合、事業運営継続が不能になり、譲渡・分割・移転ができなくなる。社債を限りなくカットし、CF資金を捻出して、組織再編の収益で、旧会社は賠償に応じるしかないか。
賠償金は確定すれば、分割払い合意により支払い不能ならなくても、評価では債務超過認定になるでしょう。
久永眞
2011/04/06 16:50
上に誤りがありました。失礼。
一般担保であるので、特定財産に担保権が設定されておらず、受託者は担保権行使して個別の執行が許されず、優先弁済を主張しうるのみで、何も先取りがない。したがって、ご主張のように、支払い不能となる賠償金弁済は許されないことになり、先に社債の返済が求められる。しかし倒産処理になれば、個別資産担保がなく減免可。清算では、別除権行使できる資産がない。とすれば、再生手続きを申し立て、リスケして、事業譲渡、事業分割、株式移転を図るしかないのでは。
久永眞
2011/04/07 06:50
あのーやっぱ東京電力は「国策会社」なので、つぶれません。デ誰でもわかっているのにさー。そもそも電源開発やら、原子力推進という国の事業にのっとり、その法的基準を守った結果、完全に想定外の事象に見舞われた状況の責任を、1事業体に負わせることが、妥当であるかどうかなんて、日本はじまって以来のお話で、法的責任を問えるかなんて誰も判断できないでしょ。そんなことよりまずは現場復旧でしょ。社債リスクで調達できずに東京電力が倒産して、みんなで停電を甘受なんてねーでしょ。常識で考えましょう。国鉄とか電電公社はつぶれなかったよね。どこに譲渡するのかな。まーいいとこ電力会社大統合でしょうね。
karu
2011/04/09 00:50
基本的理解を共有しないと検討ができません。
東電は法律上、倒産しうる会社です。しかし停電とは関係がない。
更生法なり再生法を申請して、財産処分禁止と弁済禁止の保全命令を受けて、担保処分と社債・借入の返済を停止するだけで、発電・送電事業は継続される。適用処理手続きのなかで、債務カットを伴って、事業譲渡、会社分割はありえるでしょう。譲渡するには、譲渡事業と債務を切断しないとネットしたら対価が低くなる。不法行為の賠償金は処理手続き上、法的にカットの対象にならない。
リップルウッド=新生銀の事業譲渡、分割・譲渡のないりそな型減資か。
久永眞
2011/04/09 09:28
本業はアダルトビデオで副業が格付けでしたよね確か(笑)
アナル大好き
2011/04/09 20:49
通りすがりさん、どうもです。場所が違うので一概には言えないものの、確かにほかのところに比べて古い福島の対策にやや甘さがあったことは確かでしょうね。

学生さん、コメントありがとうございます。懸念されるようなことは確かにあり得るでしょうね。現状では目先の問題優先で中長期的な優先度は度外視されやすいのだと思います。

久永眞さんどうもです。おっしゃる通り倒産処理となる可能性はあります。その場合どうしても社債が優先となるので損害賠償がやや後回しになる可能性があるという理解です。それゆえに倒産処理は国として避ける、というのがワタクシの想像です。

karuさんどうもです。この点については久永さんのおっしゃる通り、停電を伴わない倒産は理屈の上ではありえると思います。とはいえ、その前にJALの時のように債権者が安心して取引を継続できるような仕組みが必要になりますが。国鉄のような処理も考えられますね。

アナル大好きさんコメントありがとうございます。本業がAVだとは知りませんでした(笑)
厭債害債
2011/04/11 05:56
”場所が違うので一概には言えないものの”のコメントは、普段、事実関係を正確に把握している厭債害債
さんらしくないですね。東電の福島第一原発と東北電力の女川原発の概略は以下のとおりです。

東北電力 女川原発 想定津波高さ9.6m 原発立地高さ15m
東京電力 福島第一 想定津波高さ5.7m 

両原発とも実際には14mの津波の津波に襲われましたが、女川原発は地震により1m沈降したにも関わらず、被害が僅少で済みました。東北電力(女川原発)は貞観地震を考慮に入れてた一方で、東電は無視したようです。
http://megalodon.jp/2011-0411-1405-07/mainichi.jp/select/weathernews/news/20110327k0000m040036000c.html

このような状況で、果たして東電は免責されるでしょうか?
通りすがり
2011/04/11 14:08
通りすがりさん、どうもです。福島についても貞観地震について警告していた学者もいたようで、それを無視したのはちょっと痛いですね。とはいえ、女川の海面からの高さという立地が多少有利に働いたこともあるのではと思ったのですが。
厭債害債
2011/04/12 00:53

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