厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

アクセスカウンタ

zoom RSS 「日本化」

<<   作成日時 : 2011/08/15 19:50   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 18 / トラックバック 2 / コメント 3

最近、英国のエコノミスト誌や米国のウォールストリートジャーナルなどでも欧米の「日本化」がしばしば取り上げられるようになった。日本でも多くの方がとりあげておられてこのエントリーはまあ屋上屋を重ねるようなものになりそうだが、ワタクシなりのまとめをしておきたいと思う。

7月30日付のエコノミスト誌の表紙の戯画はなかなか印象的だった。着物を着たオバマ大統領とメルケル首相が硬い表情で並んでいて、襦袢の模様はオバマ氏はもちろん米国国旗そしてメルケル氏は片方の襟がEUの★、片方がドイツの国旗となっていてかんざしにはユーロの通貨記号がちりばめられている。特にメルケル氏の今のおかれている状況を良く表した感じだが、タイトルは「Turning Japanese」。今「日本化」と訳されている言葉だ。

Turning Japaneseをネットで調べてみるといろいろ出てくる。例えば英国のチャネル5で同名のレポート番組が流されていて、人気のTV司会者が東京のさまざまな(ある意味キワドイ)場所をレポートする内容だったようだ。更にぐぐってみたら、Wikipediaではこの言葉は1980年にThe Vaporsというミュージシャンのアルバムに収録された代表曲と紹介されていて、その歌詞の内容は、「自慰を行う人の様子を揶揄したもの」とWikiには書かれている(もちろん作者はこれを否定しており「若さや不安といったものを一般的に表現した結果それは皆さんが予想もしなかったものに形を変えようとしているということだ」と述べている、とのこと。)歌詞をつらつら眺めていたら、これって「(こんなんじゃ)日本人になっちまうよー」という文脈で使われている気がするのだが・・・当時の時代背景として日本異質論が強かったことを考えると納得できる。
さらにぐぐっていくと短編映画でも同名の作品があるようだ。これはアメリカでカップルがアパートの一室を日本趣味の女性に貸したことから起こるさまざまな「奇妙な」出来事(まあ文化摩擦なんでしょうね)を描いた喜劇。

まあそんなことはどうでもいい。要するにTurning Japaneseというのはこれまでも広い意味で「日本化」「日本趣味」という風に使われていたから、今回の使われ方もまあ王道という感じだろう。

問題は今回の「日本化」が具体的にどのような意味で使われているかだ。これは既に多くの人が書いているけれど、結論から言えば「西側の政治システム(政治家たち)が危機を回避し将来の繁栄のために必要な困難な決定を行えないこと」こそ、「日本化」だといっているのある。日本のバブル崩壊後のリーダーシップの欠如と政治空白こそ80年代のバブルが生んだ害悪以上の被害を生み出したとエコノミスト誌は断じている。その後の無策により、累積債務のGDP比率は先進国中最悪の状況になったわけだが、欧州や米国が同じ轍を踏む可能性について指摘しているのである。

一方14日付のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)では金利状況の類似性にも言及している。確かに短期金利は日米ともに実質ゼロ金利だし、2年の金利差も数ベーシスしかなくなってしまっている。市場金利が経済のバロメーターだとしたら、その意味でどんどん似てきているのは事実だろう。さらに、WSJは今後の政策の方向性類似性についても言及している。つまり90年代後半に日本が歳出削減と増税に走ったことで不況に逆戻りしたことに触れ、ちょうどアメリカも同じようなことをやろうとしているのでは、という意味での日本化を懸念している。

ここから先は個人的な意見です。

やはり日本は世界の先端を行ってしまったのだと思う。先端という意味は、廃墟の状況からきわめて急速に豊かになり、きわめて急激な人口の増加とピークアウトを経験しているということだ。しかしながら、多分、人間というのは豊かになるにつれ保守的になるだろうし、既得権は手放そうとしない。高くなったレベルの生活を維持しようとすれば、当然子供の数は少ないほうがいいから、個体ベースでは違っていても全体では少子化というのは豊かな人々にとって避けられないのではないだろうか?それでも、将来にわたって安心して自分や自分の子孫が生活を続けていけるような制度設計になっているのなら、現在苦しくても子供だってたくさん生めるかもしれないし、がんばって子育てを続けていけるだろう。しかし、とりわけ日本ではその条件は完全に崩壊した。自分自身も自分の子孫も共に不安を抱える制度になっているのだから、この状態で子供など増やせるわけがないのである。

急速に豊かになった日本が抱えた問題を「長期間にわたり」トレースしてしまうリスクこそ、「日本化」の本当のリスクであると思う。

米国は移民による人口ボーナスがある。しかしそれも限界に来ているように思える。貧富の差が開きすぎているからだ。また景気後退が長引くと、移民は逆にリスクとなる。現にリーマンショック後において女性の出生率に影響が出始めているようにも見える。

欧州ではユーロ採用という形で労働力の移動の自由をはかりそのリスクを平準化しようとしたのだが、最後は国ごとの利害が対立してしまっていて再び個別の国のリスクとしてクローズアップされかねない。ギリシャの問題はユーロといういびつな仕組みを悪用して他国のふんどしで自分たちの福利厚生をはかってしまった国の問題である。この結果、ユーロに加盟した国々が逆説的にこれまで以上にそれぞれの内政に深く向き合わなければならなくなっている、という皮肉を生み出しているように思える。

おそらく日本が第二次世界大戦の敗戦によって最も国土的、人員的にダメージを受けた国のひとつだったことは人口や経済成長の高い変動に影響しているのだと思う。ほかの先進国はスピードが緩慢だったにすぎない。金融政策で何とかする余地が多少あったのは、スピードが緩慢な分だけデフレ的要素が弱く金利が相対的に高止まっていたからだ。アメリカは別格だが、軍事力を背景に強制通用力を持つドルの威力の恩恵にあずかって赤字を増やし続けてこられたというだけだ。しかし、それも今アメリカが介入して絶対に勝てる紛争はほとんどなくなっている。それはそれでまた危険なことなのだが、ここでは議論しない。

要するに日本化というのはどこの先進国も経験してしまう避けがたい病であり、日本はそれを先取りしたに過ぎないと考えている。最近の海外の金融政策が妙に日本のデジャヴュなのもこのせいだろう。

ここから先は各国がその置かれている病状をきちんと診断した上で結論を出すべき話だろう。病気がそれほど重くなくて、モルヒネを打っているうちに体力が回復して治癒していくだろうという見込みがあれば、そのやり方でもいいだろう。しかし病巣が大きすぎて切除しなければならないとしたら、躊躇なく切除して病巣の広がりを防ぐべきだ。カラダの器官の一部を失えばしばらくは起き上がれないかもしれないが、少なくとも子孫を作ってその世代に期待をつなぐことはできるかもしれない。もしそういう診断が下されるならば、迅速にかつ大胆に「切る」べきところを切らなければならない。そのうえで、「もう大丈夫ですよ」という安心を患者に与えてやる必要がある。安心すれば苦しいリハビリにも耐えられるだろう。90年代に日本のとったやり方はしばしば批判の対象となる。それも理解できる。ただ、ワタクシの理解はやり方が中途半端だった、というものだ。中途半端にしかできないのならはじめからそんな荒療治は危険に決まっている。実際それは貫徹されることはなかった。ちょっと苦しくなるとすぐに政治を批判してクレクレの大合唱になり、そしてそれを甘やかす政治家が多かった。そして今日本がどうなったか、われわれ自身が一番良く知っている。欧米が本当に恐れ、学ぶべきはは90年代の日本のようになる「日本化」、およびそのときとられた対策ではなく、その後1サイクル経過した現在の日本の姿ではないだろうか?そして、欧米でも政治はこれまで以上に内向きになっていて、既得権の調整が難しくなり、ポピュリズムが跋扈しやすくなっている。これこそまさに世界が恐れるべき「日本化」ではないか、と思う。つまり不況真っ只中のときはともかく、その後の調子のいいときにも対策を採るべきときにとらなかった国がどういう運命をたどるか、ということだ。

冒頭の1980年代のThe Vapors の歌詞の理解のとおり、日本のシンボルが外界との接触をたってふける自慰行為だとすれば、彼らは相当に先見の明があったということではないか?時々The Economistの見出しは記事の凡庸さを補って余りある深みを示してくれる。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 18
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い 面白い 面白い 面白い 面白い
ナイス ナイス ナイス

トラックバック(2件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
ロンドンの暴動の原因は?
Tweet ...続きを見る
ロンドンで怠惰な生活を送りながら日本を思...
2011/08/15 22:31
なぜ人は移動しないのか?
人が自由自在に住居を移動できれば、失業率は大幅に減るだろう。なぜ?当然ながら地域ごとに失業率は違うし、経済の状態も違う。今までは好調だった地域が不景気になり職が減り、 ... ...続きを見る
「小さな政府」を語ろう
2011/08/15 22:32

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
>ちょっと苦しくなるとすぐに政治を批判してクレクレの大合唱

仰る通りです。テレビの街頭インタビューなんかだと「政府に期待するのは景気回復です」と真顔でいいます。
日本政府の力で好景気にした実績はゼロなのに、どうして期待するんでしょうか?
そういう他力本願で筋違いな要望ばかり政治家にするものだから、ポピュリズム政治が横行し、景気対策という大儀名分の下、巨額の資金(借金の)が動き出し利権政治の温床に発展する。
最も効率性や生産性から離れた官僚や政治家が財貨の配分をするものだから、市場経済を歪めまくる。
無秩序な空港や港湾開発などがその最たる例で、ハブ戦略をもたずに経費垂れ流し・・・

最近ではネット上で庶民も経済政策を熱く語っていますが、リフレだろうが金融緩和だろうと根本的に市場経済を歪めまくることに全く配慮が見受けられません。
市場が理想ではありませんが、官僚や政治家による分配よりは遥かにましです。
政府はこうすべきだあ〜すべきだと喧々諤々ですが、「インフレ=好景気になる」といった浅はかな論調が多く、実物経済をRPGゲームのパラメータのように考えているとしか思えない人が跋扈しています。
『地道に財・サービスの質を高めて頑張るしかない』
などと言おうものならもうフルボッコですw
もう手遅れですが、バブル崩壊後に勤勉な日本人に戻って、貧しくても頑張ろうとなっていれば今の巨額政府債務は抑えられたと思います。
(もちろん高齢者の年金・医療も我慢してもらい抑制する)
コナン
2011/08/16 17:19
なお、世界が日本化するとは、なるほどです。
先を行っているというか、斜め上を行っているというか・・・
>廃墟の状況からきわめて急速に豊かになり、きわめて急激な人口の増加とピークアウトを経験しているということだ

歴史をみるに、日本以上に栄枯盛衰を経験しているイタリアなんかに学べることがあるのではないかと個人的に考えています。
人口は日本の半分以下でも一応先進国の端くれで、生活はマネー的に豊かではなさそうですが、非マネーで充実しているように見えます。
日本も国土としては非常に豊かで価値があるものですから、そういった「中堅国又は小国」になれれば、それはそれで子孫は幸せかな〜などと思いを巡らしたりします。
マネー面の事情だけで下手に移民政策などとらずに、日本の半減的価値を見失わないようにしてもらえればありがたいのですが・・・

<長文失礼しました>
コナン
2011/08/16 17:19
非常に納得のいく記事でした。
おっしゃる通りでピークアウトを迎えた先進国は、人間の性質上どうしても日本と同じ構造的問題に様々な形で悩まされるんですね。
日本がそれに対してできる事は、移民による労働人口の補填でなく、現在の人口構造に見合った制度設計にあると思います。それを考える上で将来世代への負担転嫁の削減はそのファーストステップであると思います。世代会計的に見て、我々将来世代が大きな損失を被るのは目に見えていますからね。笑
jun
2011/08/17 00:16

コメントする help

ニックネーム
本 文
「日本化」 厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる