厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 東京電力と「総合特別事業計画」

<<   作成日時 : 2012/05/18 17:51   >>

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4月27日に東京電力から「総合特別事業計画」が発表されました。いろいろな意味で東京電力がいまおかれている状況が凝縮されているので、ご興味のある方はぜひご自身でご覧くださいということですが、ワタクシ的にも金融機関の立場から自分のメモとして簡単にまとめたいと思います。

東京電力「総合特別事業計画」プレスリリース

東京電力としては、事実上原子力損害賠償支援機構(以下「機構」)からの資本注入(裏は政府保証による調達)による(一時)国有化が既定路線ですが、そのことを前提にしつつ今後どうやって(一応私企業として)商売していくか、そのことをまとめたのが今回の「総合特別事業計画」(以下「事業計画」)です。これの主な目的は、国(議会)に対し事実上の公的資金導入を行うための説得であり、一方で金融関係の利害関係者に対し継続的な支援を要請するための材料です。一応被害者への賠償についての取り組み姿勢なども鹿爪らしくかいてありますが、まあこの事業計画の本来の目的はそこにないことは当然です。

まず重要な大前提ですが、この事業計画でも「廃炉費用」や「損害賠償」の額の全体像は全く見えておりません。たとえば「廃炉費用」などそもそも廃炉の技術が確立していない以上30年ぐらいたってようやく答えが出るものです。一応スリーマイル島事故のときの収束の費用を参考にして1.15兆円とおいて計算していますが、今回のように爆発してしまったようなケースでは全く異なります。現状9000億円あまりを計上しているものの「総額見積もりは困難」と正面から評価を投げ出しています。また損害賠償についても中間指針第二次追補(3月16日)などをふまえ要賠償額を2兆5千億円余りとおいていますが、今後生じる風評などの被害拡大が読めず事実上青天井になっていることを認めています。したがって、既にこの段階でもはや合理的な計画の体をなしていないのです。(東電を批判しているのではなく、そもそも詳細な計画を立てるのが無理ということです。)それならなぜ計画など必要かというと、やはり議会や金融機関への「説明」が必要だからでしょう。

あまり細かいことを言ってもアレなので、金融機関の側からのポイントを幾つか述べます(特に4(5)の「財務基盤の強化」というあたり)。
まず借り換えによる与信の維持が要請されている点です。
  この意味は、今後3年程度(=3年後ぐらいに債券による調達が再開できると見込んでいるので)のあいだに弁済期限を迎える借入金について、貸し手である金融機関が同額(以上)を一定の期間さらに貸し付けて欲しい、という要請です。また、細かいことですが、昨年の3月から9月の間に満期を迎えて金融機関に返済された借入金がありますが、この分は「復元」してほしい、すなわちそれらの金融機関はそこで返済を受けた金額(以上)を再び貸して欲しい、という要請も加わっています。

ところで例えば今東京電力の3年程度の社債を取引しようとすると5%台の利回りになると思います。何のしがらみもない投資家であれば東電に3年の融資をすることも3年の社債を買うことも、細かい点を除けば信用リスクという点ではそれほど変わりません。むしろ社債のほうが一般担保付であり市場で取引が出来る分有利であるといえます。
もちろん融資の借り換えも、金利を5%とかそれぐらい出してくれるなら文句は出ないでしょうが、当然東電を生き延びさせるための融資ですから、そんなものは払うつもりはないでしょう。せいぜいLiborプラス二桁程度の金利にしかならないと思います。

で、本来は金融機関は自由な経営判断でそのような投資をお断りすればよいだけなのですが、今回の「総合特別事業計画」というのはちょっと重みが違うようなのです。関係者から聴いた話では、「融資債権者が全員同意しなければこの計画そのものが宙に浮く」という説明がされているとのことです。つまり、機構による公的資金注入もこうした同意がセットになっているということであり、例えば昨年震災後に融資の返済を受けた金融機関も、「また同額貸してくれますよね、そうしないとほかの債権者ごとふっとびますよ、それでもいいんですか?」という恫喝を受けていることになります。ナンダカナー、という感じを受けますね。

まあ、本当に吹き飛ばすことはないとは思います。しかしながら、借り換えを承諾する債権者にとってみればもう少し悩むべきことがあります。というのは、東京電力のいまの信用力の実力というのは社債のスプレッドといえるわけで、実際取引が全くない中での気配ならともかく、一応3年程度の社債は取引が成立しているようでもあり、まあそれが文字通り「時価」である。それが5%台つまりLプラス500ぐらいということです。ところがそういう相手先にL+二桁で融資したら「金利減免」じゃないの?とい疑問がわきます。

業界以外の方には良く判らないと思うので、ちょっとだけ解説しておきますと、金融機関ではかならず毎期「資産査定」をやります。つまり自分たちですべての(本当にすべての)資産について一個ずつ価値を見直し、その実態的価値のあやしい資産についてはその評価を切り下げて損失を計上するかそれに見合った引当金を積むという形でやはり損失を計上するかしなければならないのです。融資という資産の場合、相手の債務者の信用度に応じて「正常先」「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」という形で区別されます。このうち要注意先まではまあたいしたことがないのですが、一般には要注意先のひとつのカテゴリーである「要管理先」から先は「不良債権」と呼ばれ引当額が大きく膨らみます。ちなみに今のところ多くの貸し手金融機関は東京電力は「正常先」のままだと推測します。

この「要管理先(要管理債権)」の定義ですが、金融庁のマニュアルにもちゃんと定められていて、3ヶ月以上延滞しているか、「条件緩和貸付金」(債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他債務者に有利となる取決めを行った貸付金)であることです。しかも金融庁のマニュアルには「実質的な延滞債権となっているかどうかは、返済期日近くに実行された貸付金の資金使途が元本又は利息の返済原資となって」居るかどうかも見るということなので、今回の特別事業計画のようにとにかく残高維持を要請されていてそれがないと公的資金注入を軸とした経営が出来なくなるという「脅し」まで受けて、なおかつL+二桁で融資をする金融機関の立場は微妙だと思います。いずれにしても市場の評価がL+500ぐらいのときに、借り換えのタイミングとはいえ、L+二桁で貸すことが実質的な金利減免に当たるのではないか、という議論が出てきそうです。要管理先となったら、引当率は大きく上昇しますし、実質上新規の貸付は不可能になるところが多いと思いますから、考え方次第ではかなり危険なのです。

とはいえ、ワタクシは多分この辺最終的には問題にならないだろうと踏んでいるのですが、その理由はJCRの格付にあります。以前のエントリーで書いた内容ですがJCRの内海社長(元財務官)は今年の年頭にこのようにおっしゃっています。
http://www.jcr.co.jp/top_cont/report_desc.php?no=2012010410&PHPSESSID=a213d0243dd4fe4a999491694415a73a
「格付会社としてのあり方をその根底から見つめ直す必要があると痛感していたとき、米国のMITグスターヴォ・マンソー教授の論文を読む機会があった。
その論点は、「格付会社は格付対象となる国や企業の信用力を的確に評価しなければならない(これは当り前のこと)。しかし、同時に、その国や企業が生き続けることに考慮を払わなければならない。」もし、格付会社が、その格付先の存続(Survival)におかまいなしという風土が拡がった場合は、危険な格下げ競争を招き、国や企業の破綻で死屍累々という状況を現出する恐れがあると指摘しているのである。現在のユーロ圏諸国について起きていることは、まさに、その指摘の通りの状況であり、我々は改めて襟を正さなければならない。
格付会社は、格下げによって国や企業の資金調達を困難にし、その命運を絶つことができるという意味で、慎重な上にも慎重な配慮が必要である。少なくとも、市場の動きに便乗したり、これを徒に加速したりすることは厳につつしまなければならない。
その意味で、格付会社は私企業であるが、公共財としての側面を併せ持つという認識に立って行動することが求められる。」
(引用おわり)

少なくとも現在の時点で東京電力はJCR格付でA格に据え置かれています。日本のもうひとつの大手格付会社R&IでもBBB格ですし、外国の格付会社はすべてBB以下に落としているなかで、JCRの堂々たるA評価は目立ちますが、まあ内海社長のコメントからは十分理解できます。そして格付のA格という点だけを強調するならばL+二桁というのも説明が何とかつけられます。つまりそういうことなのです(笑)。だからとくに問題とされることはないのだと推測しているのです。

もちろん、この計画が承認されるためには「株主総会」での承認が必要なんですが、自治体などを除き大口の株主(債権者でもあることが多い)はおおむね承認するのだろうと思いますが、公的資金で希薄化され融資で実質的に不良債権化させられ果たして黙ってるのかどうかが見ものです。

事業計画でもうひとつ興味を引いたのは、変動費のボラティリティーの大きさです。特に為替や原油価格の変動に対するエクスポージャーが大きいことが見て取れます(p96。なおここで言う原油価格はWTIではなくドバイと推測される)。もしリスクオフのマーケットで為替が10円円高に向かい、原油が10ドル下落し、それが同時に起きたらそれだけで4800億円も浮くのです。もともとの値上げの前提となる原価計算に基づく不足額は年平均6700億円ですから、かなり埋まるように思えるのですが?

で、しれっと原発のこと。今回の事業計画では柏崎刈羽原発が7基とも(順次)動くということが前提となっています。それ、ちょっと無理じゃないかなぁ。だってその一部は中越地震でヒビが入って止まったんですからすなおに自治体の了承が得られるかどうかですね。ちなみに1基うごけば780億円のコスト減だそうですが、7基動くことを前提にしているので、動かない台数x780億円がコスト増になりそうな気がします。

まあ、最初に書いたように所詮はこういうのは言い方は悪いですが「目先の何かの課題をクリアするための形式」を整えているに過ぎません。要は、この計画を見て金融機関の稟議がとおり、出来れば大口利用者が値上げに納得してくれれば、答えがあっていようが居まいが、それはどうでもいいことなのだと思います。そもそも本質的なコスト要因(廃炉、賠償)については全く良くわかっていない状態で出されていて、原発も良くわからないし、長期的にはこの計画を見ても東電がどうなるか良くわかりません。ただ、ひとついえるのは、これが公的資金注入の前提であり、これをクリアしないとギリシャ問題みたいに混迷を深めるだけなので、まあそこはきっと皆さん(一部格付会社も含めた)阿吽の呼吸ですすめられるのでしょう。

とはいえ、どなたかがレポートで書かれていましたが、東電の問題で最大のリスクは政治の「人気取りリスク」であり、これが政治家も国民も時々ふらふらしてしまうこともあって一番読みづらいということが問題なのですけどね。

勝手に読んだので誤解に基づく点があれば平にご容赦ください。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
>>つまりそういうことなのです(笑)。

当事者さん(当該企業、融資している金融機関、格付け機関、政府・・・)も「(笑)」とかって言ってたらぬっころしたくなりますね。
大人の事情と言うか他に解がないから仕方ないと言うか、でも非常に怒りを感じます。だからといってどうすればいいとも言えないんですけども。
kon
2012/05/21 12:51
金融機関の側にも「人気取りリスク」の高い経営者がそこここにいるような気がしなくもありませんが・・・
「人気取りリスク」分かりやすい表現ですね。
banwa
2012/05/22 21:42
ま格付けは?格下げになる瞬間と後の分析なんて誰も真剣にやらんので。後はjpさんのように。セカンダリーマーケットとプライマーマーケットの非対象だの、この世界残念なが、社会科学的な定量分析が今一なんですよ。価格形成はあたかも神の領域なんていうところからはじまって、錬金じゅつの領域にはまりました。みたいな?
かる
2012/05/25 23:29
いやー東京電力に国家的危機を全てなすりつけても、ナンも成らんでショ。ってみんなわてるくせに。ちなみは原発使えないから、貿易赤字って言ってるジャン。これはいわゆる市場の失敗的なところに議論があるので、市場が介入する余地はない、なので国有化だよね、経済政策論の常識だよ。
もともと、石油代替として原発という国策から始まっていることを抜きにしちゃいかんよ。そのリすくを全て官僚と大企業のせいにするアホな社会党的経済似非がくしゃはあーあー。って
軍事政権のミャンマーとかだって極悪非道国家で、経済制裁やるべしなんてアホマズ込みがいってたが、今じゃどうでもいい。日こうも国賊企業で、いまはまたいいふるされたインサイダーってばかじゃない。
のど元すきれば、暑さ忘れて、アホマスコミは無視して国民のためにがんばれ、東京電力。
いや何、リーガルハイってドラマはよかったから見てくれ。この朝ドラ野郎諸君。
karu
2012/06/28 00:01

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