厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 国家の債務と成長率

<<   作成日時 : 2013/05/01 18:03   >>

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「国家は破綻する」(This time is different)の著者、C. ラインハートとK. ロゴフ両氏の2010年の論文"Growth in a Time of Debt"(「債務を抱える国の経済成長について")は、先進諸国で国家債務がGDPの90%を超えたら急速にGDP成長率が落ち込むことを20カ国のデータを使って示したはずでした。この論旨は、とりわけ欧州危機における各国の債務削減議論のよりどころともなり、実際G20でも対GDP90%という数字をもとに議論が行われようとしてことをロイターの記事は報じています。http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE93D01B20130414
また、米国での予算の議論でも登場しており、上院予算委員会での証言もされているようで、用話頭のポール・ライアン議員もそれを引用した報告書を出しているなど、大きな影響力を及ぼしていました。
しかし、先週あたりからちょっと雲行きがおかしくなってきました。
マサチューセッツ州立大学アマースト校博士課程の学生がR.Pollin教授の指導のもとに書いた論文が、"Does High Public Debt Consistently Stifle Economic Growth? A Critique of Reinhart and Rogoff"というもの。

内容は要するにラインハート、ロゴフの当該論文を検証してみたが、どうしてもそういう結果にならないので、更に色々試した結果、ラインハート、ロゴフ論文の主要な結果である、国家債務がGDPの90%を超えた時に成長率が極端に低くなるということは証明されていない、というものです。WSJの記事によれば、アマースト校のチームはわざわざラインハート、ロゴフ論文に使われた実際のエクセルシートまで入手して、それでも異なる結果が出たことで、最終的に上記の結論を出したわけですが、どうもラインハート、ロゴフ論文では統計処理上のかなり致命的な「誤り」があったことがばれてしまいまったのです。

たとえば、根拠なくある国のデータの特定の部分を採用しなかったり、別の国では極端な値のデータのみを採用したりしており、しかも普通であれば国家債務がGDPの90%を超えた回数を平等に平均するか、国ごとにその回数で加重するかといった処理をすべきなのに、それぞれの国について90%を超えたときの成長率を「平均」した値をその国のそのケースにおける成長率とし、さらにそれを各国平等にウェイト付け(つまり1回だけ90%を超えた国も、10年以上超えた国も平等のウェイト付け)して平均値をとっているのです。この結果として、例えばニュージーランドでは90%を超えた回数が本来5回あり、それの平均をとれば2.6%という成長率が採用されるべきところ、なぜか1年分の極端なマイナス7.9%という数字が採用され、しかもそれが採用された7か国の単純平均で計算されたことで、マイナス0.1%となっています。しかしこれ以外にもオーストラリアやベルギーなど、債務対GDP比率が90%を超えたときの平均が3.8%、2.6%といった国を除外しているなどのエラーがあり、それらをすべて年数の加重平均として計算しなおすと、2.2%の成長率となる。債務比率90%未満の状況では大体3%台という結果だった(こちらの方は特に大きな違いはないようです)ことからすれば、90%を超えても屈折的に(non-linier)成長率が落ちるという風には見られないというのが、この批判論文の結論です。

実際、ラインハート、ロゴフ論文にあたってみると債務比率が0-30%、30-60%、60-90%、90%以上という分け方で成長率がどうなるか、それぞれのデータの「中央値」と「平均値」を示した棒グラフが出てきます。これを見て直感的にやっぱり変だな、と思うのは、90%を超えた場合にのみ「中央値」が「平均値」と極端に乖離するのです。0-90%のゾーンではこの二つは大きくかい離していませんしそれがまあ普通だと思うのですが、90%超えた場合には中央値と平均値が2%ポイントも乖離するのです。この段階で、平均値で語ることについて疑問を持つべきなのだと思うのです。

ところがこのラインハート、ロゴフ論文は独り歩きしたようです。米国では共和党の議員が予算の議論で利用し、欧州委員会では副委員長が利用し、最近ではG20で共同議長コメントとしてまさにこの90%を超えた債務水準の危険性をもってそうならないようにコントロールすべきだという話が出されるところでした。

実はこの批判論文が世に出たのは4月の15日で、G20で共同議長声明が出される予定だったほんの3日前です。おそらくこの論文のせいでひっこめられたものだと思います。


それにしても、よくわからないことがたくさんあります。
たしかにラインハート、ロゴフ論文は一種の研究ノート的なものであり、正式なチェックを受けていない可能性はありますが、これほどまである意味安易なエラーをどうしてこんな著名な学者さんがたちがやってしまったのか(間違いそのものは本人たちも認めているようですが、趣旨は依然として有効だと言っているようですが)、ということです。しかも間違いの内容がかなり意図的と言われても仕方ないくらいのレベルと思うのですが、これについて具体的な説明はありません。非常に意地悪にみると、こういうのは何らかの政治的な意図をもって書かれたのではないか、と疑ってしまいます。これが書かれた2010年はちょうど欧州危機の真っ最中で、この債務と成長というのが大きなテーマとなっています。とにかく緊縮をやらせたい側としてはこういう論文が恰好のネタになるわけです。

ところが今、日本が「異次元の金融緩和」をやり、事実上の国債の日銀引き受けをやって公共事業も増やし、まあ債務についてはとりあえず目をつぶろうという作戦に出ています。すでにグロスではGDP比200%を超えている国がこれをやろうとしているわけです。そして、黒田日銀の国債買い取り作戦で、保険会社などの従来の国債投資家から見れば、「おまいらもう国債なんか買うんじゃねぇ」というメッセージを受け取ったと感じているわけで、巷間言われる通り、「外債」とか「リスクアセット」とかそういうところが盛り上がる時代となっています。これは米国や多くの欧州諸国を含む債務問題を抱える国にとって非常にありがたい話となるはずです。
このビッグチャンスをわざわざつぶすのはありえない、少なくともG20で妙な話が出る前に、ラインハート、ロゴフ論文はきちんと整理しておかなければいけない、と誰かが考えたとしても不思議ではありません。

まあ、おそらくこれはあまりにも陰謀論にかたよったうがちすぎた意見でしょうが、それにしても、この論争というか論文騒ぎはどうもワタクシにはしっくりこないのです。

(追記)
さらにもう一つ、これはFTやThe Economistなどの記事でもかかれているのですが、相関関係と因果関係はべつであるということ。つまり債務が大きいことが成長鈍化の「原因」かどうかは必ずしも言えない、ということです。我々の経験でもリーマンショックのような外的ショックによりグローバルな成長鈍化がおこり、それに対応する形で税収減、政府支出増大といった債務増大要因が生じる。これが普通だと思うのです。


(追記2)
なお、東京大学の岩本教授のブログによると、2012年の段階ですでにラインハート、ロゴフ論文の訂正版が出されているということです。これによれば旧論文では付け加えられていなかったデータを付け加えて90%以上の場合に2.3%となるという結論となったようです。岩本教授はブログの中で、「これらのデータは2010年論文執筆時には整備されておらず,後から整備されてウェブに公開されたものであると,ラインハート,ロゴフ教授は応答している。両教授はデータを拡充して,2010年論文の発展形といえる論文(もう一人のラインハート氏が著者に加わる)を2012年に発表しているが,この論文では90%以上になった場合の経済成長率は2.3%(90%以下の場合より1.2ポイント低い)としている。データが追加されて結果が書き替えられたということであり,古い結果が誤りであることにこだわっていても仕方がない」と書かれておられます。
まあ研究という視点ではそうでしょうが、古い研究の結果が政治の世界で何らかのインプリケーションを事実としてもってしまったという重みはしっかりと受け止めるべきではないかとおもわれます。


一つだけはっきりしたのは、アベノミクスは日本ではともかく、諸外国からは熱いまなざしを送られているんだなぁということです。もちろん国際政治や国際交渉の場面では、自分たちの利益になることが最大のポイントであり、未知の資源開発といったテーマでない限り、一国の利益は他国のロスとなる可能性が多いものですから、海外から喜ばれる政策というのは国民としては相当注意してみておく必要があると思います。

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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
まーわかりますが、ドルベースの債務は幾らかとか、国債のキャスフロー別の名目割引き率はどこに置いているのかという議論は誰もわからんので、量的な議論になります。
さてこのことは、量的緩和でも同じ、調達サイドの金利構造が、経済に対する影響は難しい。
このあたりBOJが一番気に過ぎるところです。でもわからん
かる
2013/05/02 21:48
今おもしろいと思う本ひとつ 日本をだめにしたB層
題名からしていいよ。基本的にマスコミ、知識層とかいう奴らはなにも考えずに、あほな国民を参加というプロパガンタで考えることを放棄させる。
典型的な言葉は民営化、地方分権とか、みんなの参加とか、市場原理とかグローバリズムとか、個人の人権とか全部うそだろ。これん掲げた最近いいことあったか、そろそろ自分の頭で本質考えないと、ナチスとか文化大革命批判できんだろ。
まーそういう意味では最近の大河ドラマはいいな、悪者平家、会津。いいもの源氏、維新勢力じゃないな?
かる
2013/05/02 23:13
今典型的なバカNHKでやってます。国営放送が、日本の外交政策を元陸上メダリストに語らせてなーに。はーですね。まーなんとか仕分けはSMショーってあたりだよ、いっそのことタレント議員にムチ持たせてくろださんなぐるか。てなレベルの話です。
かる
2013/05/02 23:44
『統計学が最強の学問である(西内啓:ダイヤモンド社)』を読んだ直後の騒動だったので大変驚きました。欧州にいるとGDP比で60%とか90%とか120%とか根拠不明の閾値が蔓延しているのでウンザリです。イタリアの新首相は「若者に職を!!」と演説して拍手喝采を受けていましたが、きっと助平な元首相に寝首を掻かれるんだろうな。
欧州駐在@日本から本を取り寄せると高くつ...
2013/05/03 05:21
スレ主のスタンスからすれば、安倍晋三の国家社会主義は、激烈に批判されてしかるべきだと思うが?
財政を破綻させて日本を滅ぼさないでくれ!
国粋主義を吹聴して日本を貶めないでくれ!
安倍晋三は、将来国を滅ぼした大悪人と評価されるだろう。
demo362
2013/05/10 00:33
政策手段と目的。手段は金を出すこと、目的は経済成長に裏打ちされてた、国民の成長期待と整合的な経済成長。
このタイムぎゃぷを使って、市場をできる限りコントロールするということを、最後に期待させる、ことが、経済政策の基本です。
できもしない、もしくはやって失敗した構造改革は意味はないな。これは労働市場の流動化とう馬鹿な政策、の結果、賃金あがらんていう典型的な成長戦略の足かせになっていることをしてきすべき。同様な問題は公共投資は悪で財政赤字の根元ということ。実は福祉予算が一番の問題、ちなみに公共投資んやらないとトンネルは落ちるは、耐震は進みません。だからーこの30年でやった構造改革は全部失敗てわからをかな?
かる
2013/05/30 22:34
構造改革とか戦略戦略は、基本てきに破綻に際した昔のつぶれた社会主義国家の政策手段って、未だに馬鹿マスコミはわからない。黒田理論は金だすから、目先の儲けより、もっといいこと考えろよ。馬鹿きんたま無しの日本の短期的、グローバルにだまされるに考える時間をやったこと。大体馬鹿でもわかるが、成長戦略を、政府に求めること自体が民間としておわってるって、マスコミは自己矛盾しとるよ。
かる
2013/05/30 22:55
私も中にいたけど、今の日本の経営者は、みんな金メダルとることより、法令順守で安全運転だわ。
で行革、規制緩和といいつつ、てめーの当局にどんどん縛られのよ、
もっと許せないのは金融規制当局だ、こいつらは自由させて、一般市民が被害にあってから、規制強化するまーマッチポンプの二足の藁しだわ、ゆるせんな。
かる
2013/05/30 23:07
馬鹿マスコミが、長期金利の上昇に対しとか言っているので一言。日銀がやっているのは、金を市場に出すこと、なのでかわりに吸い上げる対象は何でもいいのだが、市場流動性と日銀が登録機関であるということから、国債なのだが。
さすがに、今回は吸い上げる額がでかすぎるので、一時的には鯨が池で泳いだ状態なので、ボラタイルな相場になるのはしょうがないかな。
まーその辺は黒田さんも、機関投資家の皆さんにあんもくの対話ということでしょう。
で最近の相場は世界のヘッジファンドの皆様が短期的に本邦市場を、おもちゃにしただけなので、皆さん心配しないでね。
まー生保も年金も投資比率さげたのは、日銀が吸い上げるのに先んじて売っただけです。まー出口政策は効果があがった後だし、いま期待形成で、実質金利が上がることはない、いずれ下がります。
かる
2013/06/12 00:14
ということで、今は気持ちいーい水準、14000,100,0.9さてここからが、政策効果とのせめぎ合い、基本は金融政策ですか、、消費増税をいかに辞めさせかですね、20年前にアメリカから言われたように、というか今は出来ない輸出ドライブではいかんので、内需拡大で受給ギャップを埋めること。この為には金溜め込んで何もできん奴馬鹿経営者と銀行野郎から、所得を強引に国民に移すこと。
海外のほうがとか、優秀だともっと自分の子どもたちを信じろよ。まー今の日本が悪いのは、おまえらのような似非エリートが馬鹿なだけだよ。って奴が大企業にはたくさんいるし、したり顔したマスコミと中産階級が日本をだめにする。
かる
2013/07/13 00:37

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