厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」

<<   作成日時 : 2013/10/09 01:14   >>

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と、長いタイトルを付けましたが、東大の伊藤隆敏先生を座長とする市場関係者や有識者の会合で、一言でいえばGPIFの年金運用の改革についての提言を取りまとめるものです。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/koutekisikin_unyourisk/houkoku/seiri250926.pdf

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MU9Y1E1A74E901.html
ブルンバーグのヘッドラインでみておや、と思ったのですが、金利が上昇することで、年金基金に損がでるので、これらの金利上昇局面を想定したポートフォリオの見直しを提言しているようです。まだ中間報告のようなので結論ではないとしても、ちょっと気になる内容が含まれていたので手遅れにならないよう一応書いておきたいと思います。

このブログでは過去に何度か説明しました通り、金利上昇は年金などの負債をかかえる主体にとっては損失とは断言できないと思います。いわゆる現行会計では金利上昇で負債が原価、資産が時価で評価される結果金利上昇による損失だけが顕在化してしまうため損失となります。ところが、いま欧州のソルベンシIIやIFRSなどで検討されれているように負債も時価で評価されるとなれば、金利が上昇すれば割引率が上昇する結果として負債の現在価値が小さくなる。その影響度はざっくりいえばデュレーションによって大きく左右されるので、負債のデュレーションが資産のデュレーションよりも長ければ金利上昇(まあカーブの変化の形にもよりますが)によって負債の時価の低下が資産の時価の低下を上回るので、バランスシート上は資本が厚くなる、つまり「良くなる」方向になるのです。中間論点整理にもあるように年金の負債の方が資産よりデュレーションが長いので、金利上昇は時価ベースでは年金会計を好転させることになります。

もちろん話はそう単純ではなく、年金の負債側のフローが極めて不安定であるということは大きな問題です。たとえば極論すれば年金制度をやめてしまう会社があったり、かりに続けたとしても、受給権が発生した人が「一括受取」を選択したりすると、当初予定していたデュレーションと前提が異なるわけで、金利の感応度は大きく異なります。さらに厄介なことに、民間の年金商品であれば、「解約」というオプションもあり、これは金利が上昇すれば解約して他の有利な金融商品に乗り換えるインセンティブが生じるという意味で、かなりダイナミックなものです。こうしたダイナミズムのメカニズムや確率的な把握は十分に行われていません。その意味でいま負債のデュレーションが長いからと言ってもそうした負債側のオプション性を考慮すれば、調整後のデュレーションというのはかなり短くなることが予想され、なかなか管理は難しいと言えます。その点を考慮すれば一概には言えないのですが、ただ単に金利商品が多いからという理由だけで巨大な金利リスクを抱えている、という言い方は、実際はかなりミスリードだと思いjます。要するに「リスク」というのはただ単に資産側の価値が毀損することを指す場合もありますが、年金として受給権者にとって不確実性が増すことも「リスク」です。

話を元に戻せば、表記会議の議論は負債の評価というのをあまり考慮していない点でやや深みが足りない気がします。結論としては金利が上がった時にも損をしな言うように固定金利商品からエクイティ商品へシフトさせよということのようです。いまのアベノミクスの方向性にしっかりと適合した形となっていてある意味微笑ましいのですが、ターゲットとなる負債水準を達成するために必要な想定運用利回りが高すぎることなどもっと本質的な議論が必要なのだろうと思いました。負債が十分に市場金利で調達され(つまり運用可能な予定利率や予定割引率が適用され)ているなら、金利が上がっても(オプション性の問題を別にすれば)方向性としてのリスクはありません。今問題として顕在化しているのはむしろその逆のことが生じてきたからであって、最初のころは運用可能とおもわれた予定利率や予定割引率を、金利低下局面で(運用ができないにもかかわらず)十分に引き下げることなく帳尻合わせだけをしてきたことの結果としての積み立て不足です。株やリスク性資産が不調のときもそれがよかった時の運用実績をベースに利率計算をして、最後には耐えきれなくなって予定割引率を落としたら積み立て不足は顕在化します。

年金のリスクというのはむしろそちらなのであって現状金利商品が多すぎることではない。固定利付で運用していればある意味逆ザヤという形で損は確定します。逆ザヤが固定化してしまっているのであれば、しかるべき責任主体(企業年金であれば企業が、公的年金であれば国)がきちんと補てんする、それが必要な手段です。補てんできないのであれば実質的な年金の削減を提言する。それが筋です。それをせずに将来にわたっての確たる相場の見通しもなしに(そんなもの誰も作れないことはわかっているはず)「リスク性資産への配分増加」を提言するのはちょっと行き過ぎというかあまり適切な提言とは思えないのです。

とりわけ違和感を感じるのが次のくだり

「収益目標については、資産と負債の関係を考慮して設定する必要があり、
当該目標を達成するためのポートフォリオの構築が、「安全かつ効率的な運
用」に繋がることになる。こうした中、投資の期待収益率とリスクの関係を
示す有効フロンティアを投資対象の分散等により上方シフトさせることを
含め、リターンを最大化する努力が、十分に行われていないのではないか」

まず前段と後段が繋がりません。いまだにマーコビッツの有効フロンティアみたいな話を実務の世界で堂々とやる度胸にも感服しますが、前提として「収益目標については資産と負債の関係を考慮して設定する必要があり」と書いておきながら「有効フロンティアを投資対象の分散等により上方シフトさせる」というのはよく理解できません。年金の負債って基本的には最低決められたCFを受給者に約束通り渡していくことであり、それについて最も確実な方法はそれぞれのCFに見合った固定金利資産を持つことだからです。かりにアロケーションでリスクとリターンの最適化を図ることができるとすればそれは、その年金ポートフォリオが「リスクを取れる主体」であることが大前提です。つまりたとえば企業年金であれば、リスクとリターンん最適なフロンティアポートフォリオを組み、適度なリスクを取りながら最大のリターンを目指すのですが、万が一失敗した場合は年金として約束したものを企業が負担する。そういう覚悟があればいいのです。しかし、公的年金は必ずしもそうなっていない。かけ始めた時期には想像しなかったことが起こる。年金開始年齢はどんどんひきあがる。つまり、制度設計や運用の失敗は受給者のリスクとなっている。

公的年金の負債というのは本来国家の構成員に対する老後の安心を保障するもので、基本的に受給権があとから消えたりするものであってはならない。これが普通のポートフォリオと異なる点です。右肩上がりの時代には考えてもいなかったでしょうが、そのリスク許容度はきわめて小さいと考えるべきだと思います。そこには、有効フロンティアをみてリスクとリターンの関係から配分をもっとも有利なように変えるという思想はなじまないだろうと思うのです。

もちろん上記で引用した部分で「上方シフト」と書かれているということは、これまでのポートフォリオと同じリスクで期待リターンの高いポートが作れるという意味であり、それはオルタナティブ投資などを含めた分散投資などで可能だという話になっている。それはそれでわかるのだけれど、

絶対に損をさせてはならない負債に見合う運用資産はリスクを取れません。現実に保険会社などでは確定年金など確定したCFの負債については大部分を「責任準備金対応債券」のみで運用することが主流だと思います。それはその負債にふさわしい資産、つまり年金受給権者にとって最大の利益である、「期待されたCFが期待されたタイミングで支払われること」を確保するためにふさわしい資産が固定利付の金利商品だからです。年金というのは基本的にはなくなっては困るので、リスク許容度はそれほど大きくないと考えるべきなのです。もちろんこれと異なる考え方はあります。しかし一番大事なのは受益者である人々がどういったリスクプロファイルを望んでいるか、どういうリスクの取り方とリターンの姿を望んでいるかです。今回の「有識者」たちはそれを確かめたのでしょうか?

いまだに「長期投資」「長期の視点」という言葉が平気で使われていることも恐ろしいです。いまや「長期投資」というのは職業投資家にとっては「無責任」、個人投資家にとっては「損切のできないチキン」の代名詞でしかありません。株式市場の長期低迷というヒストリーが現実にあります。アベノミクスは確かにいま事態を好転させていますが、長期的にそれが好転する保障はないどころか、日本の制約条件(人口、高齢化、国際的プレゼンスの低下、財政の悪化)はまったく解決していないのです。どうやったら「長期」で株が上がるという見通しが立つのでしょうか?そして読みようによっては、年金のお金を株にぶち込むことで株価を上げてアベノミクスを支援するんだ、という本末転倒とも思えるようなニュアンス(「各資金の運用について、日本再興戦略の一環として検討していることに鑑
み、日本経済に如何に貢献しうるかを考慮すべきとの意見があったが、…」など)で議論している委員のかたもいるようで、非常に浅薄なものを感じます。


今回の提言は年金の運用でさらにリスクをとれ、という内容です。しかしすでに年金が苦しい状況になっているのであればやるべきことは、提言の別の場所にもあるように、無茶な運用利回り(予定割引率?)の是正であり、それに伴う積み立て不足を正面から認めた、責任ある立場の主体からの財源補てんであり、それができないのであればその主体が頭を下げて、支払い条件の変更(年金減額、あるいは開始時期の繰り延べなど)を潜在的受給者に訴える必要があります。そうした正統的手段ではなく、リスクをとることによる帳尻合わせを進めるのは決して筋の良い議論とは言えないと思います。

業界関係者なら、かつて多くの中小保険会社が破たんしたのが、高い予定利率を約束した結果の逆ザヤそしてそれを埋めるためにリスクテイクで失敗した結果であることは常識です。いまこの提言は同じことをせよと言っている。どうみてもアベノミクスの息のかかったウエから提言によってそのようなことが行われて、結果的にうまくいかなくなった場合(個人的にはその可能性が高いと思っていますが)誰が責任をとるのでしょうか?民間の保険会社ではだれも責任が取れないからそういう事態にならないように慎重に運用します。妙な政策的なバイアスのかかった意見で国民の重要な老後資金を軽々にあつかうことは非常に危険です。

最後に一言。タイトルに「リスク管理等の高度化」という文言が入っていますが、中間論点整理を見る限りにおいて「リスク管理の高度化」は全く取り上げられていません。通常いまリスク管理関係者が用いている意味でのリスク管理の高度化とは似ても似つかぬ内容なので、まあメンバーの顔触れをみると畑違いの方々ばかりでやむを得ないのですが、紛らわしい言葉は使わないでもらいたいと思います。

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