厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 日本版スチュワードシップコード

<<   作成日時 : 2014/05/01 12:47   >>

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今回のアベノミクスの成長戦略において、金融庁つまり金融監督の力を使ったものを含め官邸主導での「制度的な」市場への積極的な介入がめだちます。

はっきり覚えてないですが、金融庁が出している監督指針だったかなんだったかにいまの成長戦略を側面からサポートするといった文言が入っていたように思いますし、それに関連してたとえば、中小企業にたいする資産査定について検査であまり詳しく見ない(意訳)とかそういう対応が実際に明示されているようです。

また、25年6月の閣議決定で日本再興戦略を打ち出し(三本目の矢だそうですが)、その中で、最近話題になっている「公的・準公的資金の運用のありかた」を検討することとし、「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化に関する有識者会議」が設置され、年金積立金管理運用独立行政法人(いわゆるGPIF)のアロケーション変更でマーケットが盛り上がっているのはご存じのとおりです。

ところでもう一つ注目すべき「介入」に「日本版スチュワードシップコード」があります。これはもともと平成24年12月に内閣に設置された「日本経済再生本部」において本部長である内閣総理大臣(つまり安倍さん)が「内閣府特命担当大臣(金融)(つまり麻生さん)は、関係大臣と連携し、企業の持続的な成長を促す観点から、幅広い範囲の機関投資家が適切に受託者責任を果たすための原則のあり方について検討すること」という指示をおこなったことに由来し、上記の日本再興戦略において「機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップコード)」について検討を進め」ることが閣議決定されたわけです。
(「日本再興戦略〜Japan’s back~」より抜粋)

「株主等が企業経営者の前向きな取組を積極的に後押しするようコーポレートガバナンスを見直し、日本企業を国際競争に勝てる体質に変革する」

Bコーポレートガバナンスを見直し、公的資金等の運用の在り方を検討する
(@)会社法を改正し、外部の視点から、社内のしがらみや利害関係に縛られず監督できる社外取締役の導入を促進する。 【次期国会に提出】
(A)機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップコード)について検討し、取りまとめる。 【年内に取りまとめ】
(B)公的・準公的資金について、各資金の規模・性格を踏まえ、運用(分散投資の促進等)、リスク管理体制等のガバナンス、株式への長期投資におけるリターン向上のための方策等に係る横断的な課題について、有識者会議において検討を進め、提言を得る。 【本年秋までに結論】
ということで公的年金運用のリスクテイク方針見直しとスチュワードシップコードは「コーポレートガバナンス見直し」施策の重要な二つです。これらがいずれもある程度形を持って登場してきたということで、もともと予想されていたとはいえ、運用の世界にも影響を及ぼさざるを得ません。

この動きは経済産業省の側からも側面支援がなされています。
http://www.meti.go.jp/press/2014/04/20140425007/20140425007.html
伊藤レポート(あのタカ トシさんではない)といわれるこのプロジェクト(「持続的成長への競争力とインセンティブ」)の中間論点整理では、経営が長期的視点にたって企業価値を伸ばしていくために不足しているものとして企業と投資家の間で「開示と対話」が不足していると指摘しており、その対策の一つとして日本版スチュワードシップコードが挙げられています。(この中間報告はまだたたき台であるとはいえ、インデックス運用とパッシブ運用を混同しているのではないかなど突っ込みどころは多いように思いますのでまた別の機会に取り上げる予定)。

いうまでもなく金融庁がこの促進の主体となります。今回のスチュワードシップコードについては、金融庁は保険会社も含めた運用主体について、早い段階でこれを「受け入れるかどうか」表明せよと迫っているようです。しかもコンプライオアエクスプレイン、とか意味明瞭だがなぜ英語とかいう言い回しで、受け入れないならその理由をちゃんと説明せよ・・・これは金融庁担当者にとっては「受け入れろ」と同義です。受け入れればもちろん、金融庁の監督のもとそれに従った行動が要求されるということになります。

しかも、公的・準公的年金の運用等についての提言とセットになっていることも相まって、公的・準公的年金の運用については「スチュワードシップコード」を受け入れる運用機関しか採用されなくなるものと考えられます。公的・準公的の商売をグループとして完全にオミットして生きていけるところはそうないでしょうから、ほとんどの保険会社も含めた運用主体はこれを受け入れざるを得ないのではないか、と思います。

さて、この日本版スチュワードシップなるものの中身を見てみましょう。よく言われるように基本的には英国版の焼き直しです。
英国版スチュワードシップコードについて
http://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/siryou/20130918/01.pdf

実は英国版ではその目的は明確に「最終受益者が有する価値を保全、増大するため」と記されているのですが、日本版はその成り立ちがアベノミクスの第三の矢ですから、思い切り曲げられています。平成26年2月26日付の報告書『「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップコードについて≫』
http://www.fsa.go.jp/news/25/singi/20140227-2/04.pdf
では「企業の持続的成長を促す観点から」本件の検討が支持されていると明記されているので、たとえ受益者の利益と企業の持続的成長は車の両輪であっても、アプローチが異なる可能性は強いと思います。

この日本版の中身ですが、原則1〜7までという項目数は英国版と同じですが、やはり中身はアベノミクスの第三の矢を受けたものであることが色濃く出ています。たとえば第三項目、英国版にはない「投資先企業の持続的成長に向けて」という文言が入っています。

また第4項目は日本独自のともいえるもので、「投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業との認識の共有を図るとともに問題の改善に努める」とあります。目的を持った対話、って一体なんだよ、といぶかしく思われた方は機関投資家としてのセンスがおありだと思います(笑)。機関投資家というのは原則として投資先を選別するのが仕事で、これまで企業の経営にまで口を出すことは少なかった。もちろん議決権行使の仕方とか明確な基準をもって企業への行動を示していくことはこれまでも要求されてはいましたが、これほどまでダイレクトに「目的を持った対話」を要求されるとは・・・(しかも鍵カッコつきですぞ・・・)

この場合の目的とはどういうものが考えられるのでしょうか?機関投資家のお仕事は、受益者に利益をもたらすことですが、たとえば生命保険会社では、お客様には予定利率と競争力ある配当金などをお返しすることに加え自らの支払い能力(ソルベンシー)をきちんと整えておくことです。その意味では従来だって逆ザヤだからと言って予定利率を払わないというのは(破たん企業を除き)株が暴落したときでもやらなかったし、配当だってそれなりの競争があって、ある程度市場のリターンを上回るものを用意してきたわけです。

その前提で、さらに投資先企業と「建設的な目的を持った対話」をしろというのですから、それはもう、各投資家の責任において投資先の経営に口を出して配当や自社株買いで株主価値を高める活動をせよ、ということにほかならないわけです。まあそれは機関投資家として当たり前だろう、と言われればそれまでですが、もともとの英国版に比べて、こういうことが金融庁の監督を後ろ盾としてかなり強い事実上の強制を伴って行われるということは理解しておいたほうがよいと思います。

こういったルールが株式市場あるいは経済にとってどういう影響を及ぼすのか、正直言ってよくわかりません。政権の立場としては、企業が内部留保をため込んでリスク回避的なビヘイビアになっている状況から大きく脱却させるための手段であり、明確な成長戦略として位置付けているようですが、実際に投資する側や企業の側からみれば、「コスト要因」でしかないかもしれません。企業の側は「目的を持った対話」をしに来る機関投資家にいちいち対応しなければなりませんし、投資家の側も投資先である限り(たぶんパッシブであっても)目的を持った対話をしにいかねばなりません。投資先が多いと大変ですね。保有の比率なんかで一定の除外をしてくれるといいんですけれどね。

政策株とかはどのようにこの対話を行うのか、商売をもらっていることも含めて「目的を持った対話」とできるのか、など興味津々です。一つだけ言えることですが、以前から企業の内部留保あるいはキャッシュポジションについてはいろいろ議論があったのですが、今回政権側でかなり強引に答えを出してしまった(しかもかなり姑息なやり方で)という感は否めないですね。また成長を求める投資家にとっては無借金経営も場合によっては「無能な経営者」という位置づけで「目的を持って」「対話」していくことになるのかもしれません。スチュワードシップコードは示されたものの、その具体的な行動内容についてはこれから投資家が決めていくことになりますが、そこでお上がさらに統一的な指針でも示せば支配はかなり強まり市場の自由が失われかねないですし、各投資家の自由に完全に任せれば、対応する側も相当混乱すると思うんですね。そういった利害の調整のために建前として「株主総会」ってのがあるような気がするんですが・・・やれやれ。





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