厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS トヨタのAA型種類株に思う

<<   作成日時 : 2015/06/17 11:36   >>

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トヨタのような企業がAA型なる新型種類株を発行したりするのを見ると、世の中変わりつつあるなぁと思います。この株式はいろいろな意味で考えさせられるものです。まず、このAA型株式は、どちらかといえば議決権付きプットオプション付き永久劣後転換社債という性格のように思えます。5年間は売れないという点では証券ではなく劣後ローンに近いかもしれない(ローンも一定の条件を満たせば譲渡できるが)。配当が固定で元本保証(5年後以降発行額での買い取り請求をトヨタにできる)である点も株というより固定利付に近いですね。もちろん普通株に転換請求することもできるが、基本的に証券そのものがなくなるわけではなく、転換前でも当然普通社債に返済順位は劣後するであろうと思われることから、期限付き劣後債のようなものと考えるべきなのでしょう。発行価格も通常の普通株の時価と異なる価格で発行されるようですから、今の株式とは同じものでないことは明らかです。

要するに全く別のクラスの投資家層に議決権を与えたというのがわかりやすいのではないか、と思います。配当年率は毎年0.5%ずつ上がるものの、普通株に転換するまでは5年目以降2.5%になるのが最高であると思われます。転換するまでは業績によって増配をうけるメリットを享受する余地はないし、発行価額が普通株の時価の2割増しということであれば、少なくとも希薄化という批判は当たらない。期限付き劣後債による調達と考えれば、文句の付けどころはその発行コストが高いか低いかの問題です。そして少なくとも当面5年間は転換できないとすると、この間には性急な増配要求等を出すメリットはないため、基本的に株主権の行使の具体的なエリアは限定される。いうならば、より長期的な視野に立ったコミットメントや提言がなされることが期待される。そしてその後も持ち続けることを前提にするなら、初期の段階から会社に対して一定のものを申して、長期にわたってそのコミットメントの果実を享受するという両者にとって理想的な展開となることを期待した仕組みだと思います。

詳しくは知らないが、おそらく格付け会社との関係でもAA型の資本性については多少は詰められているはずです。基本的には5年でプットが可能なので、もし買い取り後消却などを予定しているとすればかなり限定した資本性証券となろうかと思います。逆に言うと5年プッタブルの劣後社債だと考えると、トヨタのクレジットからはややコストがかかっている感じはしなくもないですね。ISSなどが反対した理由も希薄化うんぬんよりも、本当はコストの問題(=費用の使い方の問題)だろうと思います。

むしろ、今回の仕組みは、もし5年以降つねにプッタブルで配当が2.5%でフィックスされるのであれば、単に売却制限のある転換社債の転換前(つまり債券保有者)に議決権が付与されているという状況なので、実はこのクラスの転換前議決権保持者は株主としてではなく債権者として行動する可能性はないのか、という疑問があります。債権者の立場としてはちゃんとお金が返ってくることが最優先なので、議決権行使や会社へのエンゲージメントもそのような視点でなされる可能性があることには留意が必要でしょう。(通常の転換社債には転換前にはもちろん議決権はありません)。

なお、安定株主を増やすことが経営の規律を失わせるという批判もあるようですが、安定株主こそ、少なくとも建前上今はスチュワードシップコードによって意味のある長期的な提言をしていかねばならないのです。スチュワードシップコードは機関投資家や年金基金などのアセットオウナーに対し、企業との目的を持った対話、あるいはエンゲージメントと呼ばれる関係によって企業価値向上などにかかわっていくことを求めるものです。これはある意味長期的な保有関係を前提にしていると言えます。しかも今の政権の政策のなかでかなり強いテーマとしてうたわれていて、すでに金融庁が絡んだことで「規範」になっている。今回は個人が対象のイッシューだとおもいますが、個人でもそのような取り組みを期待することは、少なくとも「べき」論では正しいと言えるのではないでしょうか?要するに「安定株主がよくない」という立論そのものが、実はスチュワードシップコードの登場で変わってしまった可能性があると考えています。

先日ある人と議論した際、そもそもスチュワードシップを意識しなければならないのはパッシブ運用だよね、という話になりました。アクティブは気に入らない会社は売ればいいというか売るべきなのですから、スチュワードシップなど本来気にしないのが筋なのです。パッシブはそうはいかない。ベンチマーク構成比の高い銘柄であれば必ず保有しなければパッシブにならない。売れないのです。否が応でも「安定株主化」してしまう。投資一任勘定では議決権行使は一任された運用会社の仕事だから、パッシブこそ、この売れない会社に対して長期的なパフォーマンス向上を目指して議決権行使を行っていく必要があるとおもわれます。

そうであれば、パッシブこそ個別企業に対して十分な調査をし、個別企業に対し知見を有しておらねばならないことになります。その意味でスチュワードシップコードは、これまでパッシブのメリットだった「コストの安さ」に多少なりとも影響を与える可能性があるのではないか、との疑問がわいてきます。そもそも調査コストをかけないというのがパッシブのメリットで(フリーライダー問題は生じますが)あったのに、スチュワードシップ責任を果たさなければならないとしたら必然的にコストはかかります。逆に本来アクティブは気に入らなければ「売るべき」なのですから、対話だのエンゲージメントだの本来関係ないという突き放した見方もできるかもしれない。そうなるとパッシブとアクティブとで調査コストが逆転しかねないのではないかとの疑問があります。パッシブとはそもそもコストをかけないものだ、と言い放ってスチュワードシップを放棄するという開き直りもありえますが、最大とは言わなくても相当な比重で「安定株主」と化しているかもしれないパッシブの運用主体がスチュワードシップ責任を果たさなかったら、いったい誰が果たすのか、という問題を生じるわけです。

もちろんISSのような議決権行使評価会社に賛否を丸投げしてコストをセーブすることも可能だろうと思いますが、実際に利害の絡まないISSのような会社の判断をうのみにすることが許容されるのかという別の問題もありそうです。受託者責任としてパッシブはもちろんベンチマークをトラックするというのが仕事ですが、基本的にパッシブも長期的に株価指数全体が上がっていくことが大前提だからやはり株価全体の足を引っ張るようなことはできないし、そんなことをすれば「受託者責任」には反するのではないか、と思います。今後のパッシブ運用の在り方に対しても、今回のスチュワードシップコードが一石を投じる可能性があるだろうと思います。

トヨタの種類株に関連して、いろいろ考えさせられました。

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