厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS アップル社への訴訟と国際裁判管轄権

<<   作成日時 : 2016/02/18 17:32   >>

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最近ちょっと目を引いた法律関係のネタですが、アップルの下請け(日本)がアップル本社に対して起こした損害賠償訴訟において、日本の裁判所が契約書にあったいわゆる「合意管轄」条項を無効として退け、結果的に日本の裁判所の裁判管轄を認めたというもの。
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/8365128.html
管轄に関する議論がまず争いになったので裁判所は「中間判決」というのを出してこの管轄に対する判断を下したものです。ちなみにこの中間判決は裁判をきちんと順番立ててやるために必要なこと(たとえば管轄の有無)を決めるために出すので、基本的には上訴ができないことになっていて、まず第一審は日本で争われることが確定したことになります。(もちろん上級審で管轄から否定される可能性は残っていますが)。

詳しい内容は上記弁護士さんのブログを見ていただいたほうがいいのですが、ワタクシがふーんと思ったのは今は民事訴訟法に国際管轄に関する条文(第三条の二以下)が入れられたのだなぁ、ということです。ちょっと感慨深いものがあります。

国際間の法律問題を扱う時に常に問題になるのは、「これはどこの国の法律を適用して判断すべきなのか?」という「準拠法」の問題と、裁判に訴える場合にどこの裁判所が取り扱うことが出来るのか(あるいは取り扱うべきなのか)」という「国際裁判管轄権」の問題です。「準拠法」については、日本では「法の適用に関する通則法」という法律によって準拠法が一応定められています。平成18年まではこの法律は「法例」という名前の法律(インチキみたいですが本当です)でした。ただしこれもあくまで日本の裁判所で裁判をする場合の判断基準であり、実は海外の裁判所でやる場合はこの「準拠法」そのものが変わってくるケースもある。また相続とか債券やら物権やら親子関係やらいろんなものが絡んでくると変数が一気に増えるので、どこで裁判をやるかというのはかなり重要な要素となってきます。ところが、上記弁護士さんのブログにも書かれているように、平成24年ごろまでは国際裁判管轄権について定めた日本の法律条文は存在していなかったのです。そこで研究者や実務家は様々なものをよりどころに判断をしていました。

専門家の方が見ていらっしゃればちょっと語るのも恥ずかしいのですが、日本で国際裁判管轄権の規範が大きく取り上げられるきっかけとなったのは1977年にマレーシアのジョホールバルにマレーシア航空の旅客機が墜落して日本人を含む乗客が死亡した事件に関し、日本人乗客がマレーシア航空を相手取って損害賠償請求訴訟を名古屋地裁に起こしたという事件(「マレーシア航空機事件」最高裁第二小法廷昭和56年10月16日判決)です。ここで一つ重要な訴訟法上の原則があり、訴えは相手に出向いて行う(被告の居住地が裁判管轄を持つ)というのがあります。それは、まあ訴える側は攻撃側ですしイニシアチブをとるわけですから訴えられる方にきちんと出向いてやるのが公平だろう、というのが基本だからです。ところがまあ様々な理由から例外は認められるべきだろうというのが裁判管轄の法理の発展ということです。たとえばマレーシア航空機事件では、お分かりのとおり訴えているのが日本に住む遺族であり、訴えられているのが、マレーシアに本社のある航空会社ですから、原則的にはマレーシアに行って訴訟するのが建前です。名古屋地裁はそういうわけで遺族の訴えを却下しましたが、控訴をうけた名古屋高裁は次のように判示して日本の裁判管轄権を認め、上告審で確定しました。

「思うに、本来国の裁判権はその主権の一作用としてされるものであり、裁判権の及ぶ範囲は原則として主権の及ぶ範囲と同一であるから、被告が外国に本店を有する外国法人である場合はその法人が進んで服する場合のほか日本の裁判権は及ばないのが原則である。しかしながら、その例外として、わが国の領土の一部である土地に関する事件その他被告がわが国となんらかの法的関連を有する事件については、被告の国籍、所在のいかんを問わず、その者をわが国の裁判権に服させるのを相当とする場合のあることをも否定し難いところである。そして、この例外的扱いの範囲については、この点に関する国際裁判管轄を直接規定する法規もなく、また、よるべき条約も一般に承認された明確な国際法上の原則もいまだ確立していない現状のもとにおいては、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理にしたがつて決定するのが相当であり、わが民訴法の国内の土地管轄に関する規定、たとえば、被告の居所(〔改正前、以下同じ〕民訴法二条)、法人その他の団体の事務所又は営業所(同四条)、義務履行地(同五条)、被告の財産所在地(同八条)、不法行為地(同一五条)、その他民訴法の規定する裁判籍のいずれかがわが国内にあるときは、これらに関する訴訟事件につき、被告をわが国の裁判権に服させるのが右条理に適うものというべきである。」

つまり「当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理に従って決定する」こととして、場合により当時の日本の民事訴訟法上の管轄規定に引っかかるような要素を持っていれば裁判権を認める、という画期的な判断を下したわけです。

マレーシア航空の場合日本に支店はありました。その上、日本に飛行機を飛ばしていたので、状況によっては飛行機を差押えできる。
実は国際訴訟でもう一つの大きなヤマは、実際の判決執行です。せっかく管轄権が認められ、裁判で勝訴しても、相手の財産が国内に全くない状態では、相手が進んで払ってくれない限りその判決を国内で執行してお金にすることが出来ません。また相手が資産等を持つ本国で執行が自動的にできるかというと必ずしもそうではなく、お互いに外国判決の執行については国同士でいろいろ取り決めを行っていたりして、なかなか素直にいかないケースもあるし、そもそもその判断は相手国にゆだねられるので、結局せっかく国内で裁判をした意味が薄れてしまうこともあります。多分、この辺の要素自体も裁判管轄を認めるか否かの一つの要素になりうる気がします。

その意味でも、飛行機や事務所が国内にあるということは、執行できる可能性が高いということで、判決が有効に機能しやすくなるから、わざわざ国内で裁判する意味が増す。一番重要なのは、原告である遺族にとって有効な解決を提供できるすなわち(表立っては書けないでしょうが)自国民保護という視点でも重要な要素であろうと思います。とにかく、被告の居住地主義という裁判管轄の原則を「条理」によって変更させた画期的な判決であろうと思います。

その視点で今回のアップル事件をよく見れば、何となく新しく見えてくるものがありそうです。詳しくは専門的な解説に待たなければなりませんが、今回のケースでは「合意管轄」があった。基本的に契約書には国内であれ国際であれ準拠法条項や裁判管轄条項が含まれていて、両当事者は何らかの形でそれらについて合意している建前となっています。今回の合意管轄条項はしかし、あまりにも広すぎた、ということのようです。改正民事訴訟法で「一定の法律関係」についての合意管轄が有効であるということが明記されており、逆に言えば「一定の法律関係」かどうかが争点になるわけですが、合意管轄条項が契約書の条文に含まれているのであれば、当該契約の解釈や不履行などの紛争については、その合意が有効になることは明白です。今回の中間判決はそもそも裁判管轄合意が無効であるという結論なのでおそらく争う内容と「一定の法律関係」とがリンクしない事案だったと思われます。さらによく見れば債務不履行ではなく「不法行為」による請求なので、契約外のことであるという風に慎重に構成したともいえます。判決文を見るとき注意すべきは、その書き方にあまり拘泥せず「本当の判決理由」(ratio decidendi)を見るべきだという風に学校では習いますが、本件はあらゆるケースでこういう決め方が無効であるというより、本件では契約内容以外のところで起きた内容だったからこういう結論になった、という見方もできるので、実際の判決文の研究が待たれるところです。

ともあれ、結論を導くに際し影響したのは明らかにアップルに対する日本の下請けの立場との公平性だと思います。力づくで値引きをさせる下請けいじめはけしからん、と。判決というのはやはり人間社会の紛争解決であり、最後は公正とかそういうものに資するものでなければならない。もちろんどうあがいても無理な解釈とかはできないでしょうが、ある程度判断に導かれる形で法律構成ができるということは法律家のみなさんの頭の中ではかなりあるのではないかと素人ながら勝手に推測しています。まあ、当然の結論のようにも見えますし、まだ最終決着でもないのであれですが、やはり背後には「条理」をベースにした様々な考慮があったと思いますのでやはり詳しい判決文に興味がわきますね。

すみません、ちょっと個人的メモでした。

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