厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS マイナス金利の一側面

<<   作成日時 : 2016/06/28 17:16   >>

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このブログでも、これまで国債金利のことについて何度かとりあげています。市場金利の上昇や下落についてはそれが「資産」(たとえば国債)価格に与える影響というのはモノの一面だけをとらえているにすぎず、特に金融機関に対する本当の意味での影響を理解するためには「負債」の価値に与える影響も同時に見る必要があります。以前、生命保険会社のバランスシートを表面的に見ただけのコメンテーターが国債金利が上がったら保険会社が大変なことになる、といった評論をしたとき、ワタクシが顔を真っ赤にして(といっても見えなかったでしょうけれど)怒っていたのはついこの間のような気がします。

あれから、さらに年月がたち、市場金利は今年からついにマイナスに入りました。なにせ「未知の世界」なので、いろいろなところで試行錯誤状態が続いています。最初の段階では、短資会社を含むいろいろなところでシステム対応が間に合っていないという話を良く聞きました。しかしまあそれはある意味技術的な問題に過ぎません。本当に恐ろしいのは超長期の負債の割引率問題です。この問題はもちろん超長期の負債の担い手である「企業年金」(基金を含む)、「生命保険会社」などで非常に大きな問題となります。

たとえば生命保険会社の負債は長いもので100年ぐらい先までのキャッシュフローを計算しています。厳密に行うなら、今現在のバランスシートを時価ベース(業界では経済価値ベースと言います)で作るなら一つ一つのキャッシュフローを対応する期間のリスクフリーないし市場金利で割り引いた現在価値を求めてその合計を今現在の負債として見る必要があります。(あとで書くようにあまり厳密にはやっていないところがほとんどで、それは長いところの「市場金利」が存在しないことにも原因がありますが)。したがって、長いところの金利が下がれば下がるほど負債の価値が高まり、資本を毀損する。生命保険会社の多くが現状の資産価格や営業面で損失を被っていないにもかかわらず資本調達に必死になるのはそういう理由もあります。

株式会社の場合は、開示のために保険会社もEV(企業価値)を使いますが、この計算はまさに経済価値ベースのバランスシートの計算とほぼ重なります。EVの計算では先ほど書いたように数十年から百年以上のキャッシュアウトフローをリスクフリーないし市場金利で割り引いて負債の経済価値を推定するわけですが、市場で観測されない超長期金利の推定手法は必ずしも確立された方法がなく、一定の範囲でやり方を任せられてはいます。これまでは、一定の長いところ(たとえば観測可能な30年とか40年金利)から先は金利はフォワードベースで一定と仮定することが多かったようです。しかしあまりにも急激な長期金利低下にともなって、まともにやればEVが急低下してしまう可能性が出てきているようです。そこで株式会社の一部で「終局金利:Ultimate forward rates(UFRs)」を使うところが出てきているようです。終局金利とは長期的に収斂する均衡的なリスクフリー金利のことで、観測可能な期間から先、一定期間の間(たとえば60年先まで)の期間でその観測可能な最終期間の金利から徐々に「終局金利」に向かって収斂していくという形をとるわけです。この終局金利の水準をどう決めているかですが、結局は(多分)「えいや」って決める金利になります(たとえば某社は3.5%としているようです)。3.5%が十分な根拠を持って説明できるかと言えばかなり困難でしょう。

これの経済価値ベースの負債に与える影響は、会社の商品構造および終局金利の決め方によってもだいぶ違いますが、経済価値ベースの負債を軽くし、経済価値ベースの純資産を大きく見せる点でかなりの効果があるものと推測されます。

なんだかインチキくさいなぁと思われた方も多いと思いますが、もともとマーケットのない世界の金利を置きに行っているわけであり、実際に残りの期間が短縮されれば(たとえば負債の残存が30年以内になってくれば)市場金利が観測され、それによってきちんと割り引かれるので、その時考えればいいという考え方は一理あります。所詮は仮定しかも良くわからないけれど仕方ないから置かねばならない仮定の話です。但し、問題は、こうした経済価値ベースのバランスシートやEVは金融庁の監督の対象となり(またフィールドテストやるみたいですね)同時に上場保険会社にとっては株価を動かす大きな原因となるということです。

言いたかったのは、マイナス金利が深まれば深まるほど、超長期の負債の受け手にとってはプレッシャーがかかるということ。それはそういった主体が「終局金利」と言ったテクニックを使わざるを得ないほど資本が圧縮圧力にさらされているから、「よりリスク回避的」にならざるを得ないことに加え、長期の貯蓄性商品(たとえば一時払い終身保険)の販売が困難になり、それらの窓販によるフィー収入に期待している金融機関の経営を圧迫し、老人を中心とした消費者にとってもインフレだけ上がって自分の貯蓄が増えないという事態を巻き起こします。年金(基金)も同じ立場です。公的年金などがアベノミクスで無理やりリスク性資産にシフトさせられたのは、セオリーからは例外と考えるべきで、本来は金利が下がれば下がるほど年金ALM的には「リスク回避的」になってもおかしくないでしょう。(もちろん金利がここまで下がると、さすがに債券の期待収益率がマイナスとなりがちなので、その分リスク資産に行く可能性はありますが、現実にはそういったポートフォリオリバランスは公的年金を除き大規模には観測されていない)。そして企業年金にとっては、企業が最終的にそのコストを負担することになるため、二つの点で悪影響が出ます。一つはシンプルに企業の業績を悪化させること。1%の金利低下で企業の負債は10兆円増えるとの試算もあります。その分は企業のコストとなり収益を減らします。もう一つは、年金受給者の期待を大きく損なうことです。これまでも景気が悪化したり業績が悪化した企業では給付開始後の受給者にもお願いして年金の削減を行うケースが見られました。金利が極端に下がるということは、個別企業の業績を超えて国全体で同じようなことを起こしてしまう原因となりえます。そんな中で消費者が消費を増やそうとすると考えられるでしょうか?そんななかでマクロ的に企業が設備投資を増やそうとするでしょうか?

もちろん金利を下げれば、株価のフェアバリューは上昇するでしょう。そして金利収入と配当収入との相対比較で株式投資のほうが魅力的にはなります。ワタクシが株式にそれほど弱気ではない理由はそこにあります。しかし、それもあくまで「裁定」が働くというレベルの話であって、国の経済の中期的な将来にとって何かポジティブな影響がでるのか、というとそうではないと思います。本来成長のために必要な根本原因に正面から取り組まない限り、金利の操作やマネーの操作だけで乗り切ろうと思う限り、問題は悪化こそすれ良くなることはない、特にこういう人口構成を持つ国においてはそのことが十分に明らかになってきているのではないでしょうか?


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