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zoom RSS 米朝首脳会談実現の含意

<<   作成日時 : 2018/06/13 12:45   >>

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米朝首脳会談がついに実現しました。前のエントリーで、一旦中止したのは相互にとっての「ディール」であるみたいなことを書きましたが、結果として実現しました。これはある意味(あくまで「ある意味」です)両首脳にとって(両国とか世界にとってではないので念のため)当面win-winの事実を作ったと思います。

北朝鮮にとっては、もともと長い間「米国との直接対話」を求めてきたのであり、それが実現できたことで現在の金委員長の立場を強化したことになります。そして今回の会談でも「完全なる検証可能な非可逆的非核化」は共同宣言には出ておらず、空手形であるということで、いいディールでした。米国についても一応「非核化」という言葉を引き出した点で、まあ最低限の形は整えた。実態はなにもありませんが(これからの進展が注目されます)。

これが出来た背景は、逆説的ですがトランプ大統領が暴走気味であることと表裏一体です。トランプ政権はここに至るまで人事面でも政策面でも迷走を続けており、ロシア疑惑、セクハラをはじめとし、重要閣僚ポストがなかなか決まらなかったり、公約通りとはいえ、エルサレムをイスラエルの首都と認めたりするなど非常に物議を醸す決定を続けてきています。関税問題やG7での振る舞いなどもそう。おそらく金委員長との直接対話に踏み切ったのも、トランプ流のプレゼンテーション術の一つでしょう。もともとアメリカは直接対話を拒否してきたわけで、本来はこの場が用意されたこと自体は北朝鮮の勝利であり、米国にとっては本来この場で完全なる非核化(言い換えると全面降伏)が約束されないならば負け、という位置づけのはずです。それでもその確約がないままこの場が用意されたというのは、実はアメリカがすでにそういう安全保障の視点での責任ある立場をおりようとしていることに他ならないと思っています。

人間というものは、というか一般的にそうだと思いますが、目の前に新たな動くものが出てくるとそちらに目を奪われてしまい、それまでのことを忘れてしまう傾向にあります。日本でも、あれだけモリカケ問題(いくら不起訴になったとはいえ、公文書である決裁書類を勝手に忖度して変えるような官僚の慣行がそのままスルーされるってねぇ)が騒ぎになっていたのに、タレントの強制わいせつとかなんだか社会面ネタがいろいろ出てくるとすぐ忘れてしまう。それがまあ人間でしょう。トランプ大統領は意図的にそれをやっていると見えなくもない。本来はロシア疑惑とかセクハラだとか、それこそ疑惑のデパートみたいな人物が大統領をやっているのですが、派手な行動を次々と打ち出すことで、それを視野から消してしまっているのです。ある意味、大統領が行える権限をフルに生かしてやっているわけで、中間選挙対策としてはなかなか大したものだなぁと思います。したがって、両首脳にとっては今回会ったこと自体が非常に意味のある事であり、内容は(おそらく大方の予想通り)それほど中身がないということでお約束通りで、めでたしめでたし、ということでしょう。

しかし、トランプ大統領は、自分の保身と存在誇示のためには平気で既存の枠組みを変えてしまう人物です。良い面でも悪い面でも、これまでの流れにとらわれない人です。東アジアのパワーバランスとか、ある程度取り巻きがサジェスチョンしても、そういうのを無視してやってしまうでしょう。だからこそ今回の首脳会談が実現したわけですが、その帰結について深い洞察のもとに行われているわけではない。もっと言えば米国のためでも世界のためでもなく彼自身の保身と名声のために行われているということは忘れるべきではない。彼が開き直るとしたら、アメリカの大統領なんて最長で8年ですし、トランプ氏の場合それよりもっと短い可能性もある。その短い機会を自分の名前を残すいい機会だと考えるのは十分に人間的にもあり得る事です。

そのうえ、残念ながら、これまでの言動を見る限りにおいて私はトランプ氏が明らかに国際関係面での洞察に欠けまたモラルに欠ける面がありかつすべてを商売のロジックと交渉術で進めていくタイプであるという風に思いますし、結果的に有能なブレインに恵まれていないことを考えても、今回の首脳会談の先を見通しているとは思えない。まあ彼の中では今後の交渉についてはまったくフリーハンドで臨機応変に考えていけばいいだろうと思っているとは思いますが、東アジアが戦前戦後にたどってきた国と国、民族と民族あるいは同じ民族間の歴史みたいなものをすっ飛ばして、最大のパワーである米国の大統領がこのようなスタンドプレーに走ることの恐ろしさは、関係者の中でもっと共有されてもいいのではないかと思います。

トランプ氏が今回の首脳会談を決行したということの意味は、突き詰めればアメリカファーストであろうと思います。彼自身も言うように、朝鮮半島の駐留米軍の削減は、ビジネスマン的に言えばコスト削減でありやるべきでしょうが、それはアメリカの立ち位置を根本的に変えることになる。もちろん過去の大統領だってそれはやりたかったことに違いないし、クリントンも軽水炉提供でそういうことが可能になると夢想していたのだろうと思います。しかし、北朝鮮とのトップ会談がいままで行われなかった意味は、やはり大統領が直接会って話すこと「ファイナルアンサー」となるからです。外交のなかで決めた話とは重みが違う。つまりトップ会談がなされていないということで、最後は「攻撃するぞ」という脅しが効く状態が維持できていた。だからこそ、中国などもそれなりに気を使っていた。

しかし今回みたいに大統領が出て行って「安全保証」をやってしまい、朝鮮半島Disarmamentみたいな方向性を言ってしまうと、東アジアのパワーバランスの変化が顕在化してくるわけです。このパワーバランスの変化が顕在化したこと、これがこれまでになかった最大の結果だろうと思います。日本が最大の敗者である、という意味はそこにあります。結果的に今回は日本の拉致問題も(伝えただけで)無視されました。国際関係では、力がないと取り戻せないことは自明のこととはいえ、アメリカが今回新たな首脳会談という場を設けたことで何らかの結果が引き出せると甘い考えを抱いた人もいるでしょうが、まあ無理だとワタクシは思っていました。そこに義理立てする必然性がアメリカにも北朝鮮にも全くなかったからです。取り返したかったらたっぷりお土産をよこすか力づくで取り返す。日本は自前で力づくでというのはできないから、アメリカの力をうまく使おうとした。しかし今回の共同宣言で全く無視されたということは、アメリカはもはやあてにならない、という現実を突き付けられたことになります。安倍首相がどうのこうのという以前に、日本としてこれからこういう隣国とどう対峙していくのか?本当に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持」(憲法前文)できるのか?その前提はあるのか?ということをきちんと問い直すということです。憲法改正の是非はともかくとして、実態としてどのような力を持つべきか、日米関係、日中関係を含めたどのような関係を目指すべきなのか、国家や民族存亡の危機ぐらいの意識で、真摯な議論が展開されることを望みます。

ちなみに、今回の首脳会談の市場への影響はリスク資産にとって若干ポジティブであろうと考えられます。少なくとも、これで当面アジアでミサイルが飛び交う事態はなくなりました(まあもともと両方とも脅しがエスカレートしていただけですが)から、そういう事態が起きた場合の潜在的な損害見込額(発生確率x発生時の損害額)が減り、その分リスクプレミアムが落ちるということだろうと思いますので。まあ今週はそれ以外にもいろいろありますからそちらの方が重要でしょう。

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