GPIFの貸株中止

ちょっとマニアックな話ではありますが、GPIFの貸株中止の決定が議論を呼んでいます。
理由としては「スチュワードシップ原則に抵触する恐れがあるため」ということのようです。
ワタクシとしての印象は、かなり微妙です。

貸株というのは、機関投資家などが保有している株式をブローカーなどを経由して借りたい人に貸し出してフィーを受け取るという仕組みです。この場合借りたい人と言うのは、端的に言えば自分が相手方に渡さなければならない株式があるのだけれど、実は手元にない。だから借りることによって決済をクリアするための人がほとんどでしょう。プロ的にわかりやすいのは「空売り」している主体です。株式取引の受け渡しは市場取引なら何日後ってきちんと決まっているので、空売りした主体はその受け渡し期日に株式をどこかから調達して、買い手に渡さなければならない。だから借りる。そのための手数料を払うわけで、貸した側は手数料を受け取れるわけです。多くの株式を保有する機関投資家は、当面売る予定のない株式を他人に貸し出してフィーを受け取って、リターンの向上を図ることができます。もちろんダウンサイドとしては、貸している間は自分は売ることができなくなりますから、その間の価格変動リスクはもろにかぶることになります。

今回のGPIFの貸株中止決定は、端的にはその意味で手数料収入(運用収益)の減少を意味します。
すでに多くの方が指摘している通り、GPIFを含む年金基金は受託者責任があり、受益者の利益を最大化する(つまり金銭的に最大限の利益を得る)責任を負っています。おそらくすべての年金基金が貸し株をやっているわけではないでしょうが、まあやらないことについては体制が整っていないとかいろいろ理由は成り立つとは思います。あるいはもっと大きな意味で、貸し株のリスクを大きく評価してやらないという判断はありだと思います。しかしやっていた(できていた)ことを、スチュワードシップ原則を理由に止めるとなると、受託者責任との関係でかなり議論となるでしょうし、実際いろいろ指摘している人も多いようです。

ではそのような議論を巻き起こしてまで貸株を止めさせるスチュワードシップ原則とは何なのか?
英国でもともと制定された原則です。いくつかの原則が明示されていますが、一言で言えば、運用者やアセットオーナーが投資先企業との間できちんと対話をして、その企業が株主に対しての責任をきちんと果たせるよう(株価が上がるよう)、あるいはESGなどの視点での社会的な責任をきちんと果たす(そのことによって相対的評価を向上させてパフォーマンスにつながる)よう導いていくという責任があるという原則です。金融庁が中心となって2017年から運用会社や機関投資家にその採択を慫慂しており、多くの主体が導入を表明しています。もちろんGPIFもスチュワードシップ原則にしたがうことを表明しています。
スチュワードシップ活動とは、その会社の株主として積極的な目的をもった対話を通じて、つまり株価を上げるためにはどうするかとか社会から評価されて長期的に株主利益をもたらすためにどうするかとかを目的として、会社に対してあーしろこーしろということです。その主体が貸し株をやるということは、誰かほかの人に対して「空売りに協力します」と言っているようなものですから、まあ確かにスチュワードシップとは概念的にはあまり整合的ではないでしょう。

でもまあ、冷静に考えてみれば、空売りに協力する貸株はもともと受託者責任との関係でも微妙だったのではないでしょうか?たしかに目先のフィーは入るとしても、だれかがそれを使ってカラ売りをすることで株価が下がるリスクがある。もちろんカラ売りなんてファンダメンタルズに基づかなければ一時的なインパクトしかなくて、長期的にはその保有判断を揺るがすものではないかもしれませんから、そうであれば、短期的にフィーを受け取れるなら総合的にプラスになる。つまり受託者責任との関係では、せっかくそういうことをしているのならなぜやめるのかという意見が出る可能性があるわけです。

これまで見てきたツイッターなどの論調からは、今回の貸株中止の決定について、やや批判的な意見が多いかもしれません。せっかくこれまで得てきた数ベーシスのフィーを失うことが受託者責任に反するかもしれない。スチュワードシップはそれを正当化するぐらい大きな価値なのか、ということです。

最初に書いたように、ワタクシとしても結構微妙なところだと思います。ただ、一つ考えなければならないのは、GPIFというのがある意味アベノミクスの市場経由の株価上昇策の先兵としての機能を担う主体だということです。そのことを踏まえれば、GPIFとしてカラ売りに協力するような貸株を通じて得る数ベーシスより、スチュワードシップの原則を重視するという価値判断は十分にありだと思います。もっといえば、これまで無批判に貸株などやってきたことがそもそも受託者責任都の関係でどうなのか、という検討があってしかるべきだろうと思います。要するにGPIFという主体の特別な位置づけによって、今回の決定が行われた可能性があり、それは正当化できる可能性はあるとは思います。

いずれにしてももう少し検討してみたいですね。

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