かんぽ不正営業問題のNHK報道にみる問題点

郵政の副社長(元総務省事務次官)がやたら強気で、事件を報道したNHKに対して恫喝まがいのことをやっていた(立場が異なれば違う言い方になるかもしれませんが、ワタクシにはそう見えました)というのも、背後にこういう事情があったのですね。まあなんとなくわかっていたけれど。現職の事務次官と先輩の天下り元事務次官がツーカーですから、そりゃ強気にもなれようというもの。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53616720Q9A221C1EE8000/?n_cid=BMSR2P001_201912201715

NHKとの関係でいえば、NHKがクローズアップ現代という番組でかんぽ生命の募集問題を取り上げたのは、2018年4月で、SNSで広く情報提供を呼びかけ、寄せられた情報をもとにさらに取材を深めていく手法を取り入れ、公平性を期すため、取材に応じた日本郵便株式会社や株式会社かんぽ生命保険の幹部のインタビューも放送した、とされています。更なる情報提供も動画などを使って呼びかけたとのことです。
https://www.nhk.or.jp/gendai/kiji/169/index.html
しかしながら、これらの映像に対して郵政側が強く抗議し、結局二回目の放送予定は当初同年10月だったものが2019年7月に続編となり、それ以降大きな問題となったことはご存知の通りです。上記リンク先のリリースではNHKからは、番組制作について圧力がかけられゆがめられたことはなかったこと、郵政の副社長の主張するような反社会的な(暴力団のような)脅迫めいた取材強要はしていないこと、経営委員会が2018年10月にNHK会長に対し、編集権の説明に誤りがあったことなどによるガバナンス体制の不備を理由に「厳重注意」処分を行ったこと、などが淡々と記載されていますが、ワタクシレベルの貧しい日本語の読解力をもってしても、その行間に込められた現場の無念さ、無力感というものがひしひしと伝わってくる文章となっています。要するに結果的には郵政側の強烈なクレームに屈する形で続編が先延ばしされ、さらには会長に対する(いわばどうでもいいような話に関して)経営委員会からの形式的な処分が出て、どうみてもNHKが郵政側に全面敗北したような形となってしまいました。最終的には続編が放送されましたが、報道機関としての使命に燃えて取材や調査をしていた人々の無念さはいかばかりだったでしょうか?で、その結果として、先延ばしになった分だけ悪質な営業が続けられ被害が拡大したとしたらひどい話です。

しかも、実際には、おおむね当初よりNHKのとらえた問題は間違っていなかった。悪いことをしていたのはかんぽ生命・郵政の側です。前にも書いたように、世間的に評判の悪い民間保険会社でかつて仕事をしていた立場からみてすら、かんぽ生命の事案は相当悪質な事案であり、それを報道機関としてきちんと取材し報道するというのはその本質的かつまっとうな役割です。NHKの少なくとも現場ではそれを遂行しようとした。しかし最終的には追加情報を得ることを妨害され、2度目の放送は大きく延期され、逆にNHKトップが処分を受けるという、一連の話としては釈然としない状況が生まれたわけです。

かんぽ生命には行政処分等が出るようで、郵政3社のトップの辞任がまもなくでるようです。そちらはまた改めて考えるとして、それ以外にもいろいろな意味で重い問題をたくさん明らかにしてしまった事件だと思います。ワタクシの感じるところを整理してみたいと思います。

幸いなことに経営委員会の議事録や、会長に対する注意に至った議事の経緯もきちんと公表されています。
https://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/giji/shiryou/1339_iintyou01.pdf
(なおもともとこうした議事録などが公開されていなかったことが問題視されていてその批判に応じて公開されたようですが。https://www.jiji.com/jc/article?k=2019093000480&g=eco

(ガバナンスって何)
NHKの経営委員会は会長に対しガバナンスの点に関して「厳重注意」をした、とされています。一種の懲戒処分をイメージさせる言葉です。しかし、「最終的な編集権がどこにあるかという判断に対する誤った説明」だけが理由ならば、会長が懲戒というのはこれもまたおかしな話です。一般に企業の懲戒の仕組みは行為者(実際に悪いことをしたりミスをしたりした人)が第一に責任を負い、その監督者(上司など)がその監督者責任を問われるという構造ですが、大体行為者が最も責任が重く、同罪ぐらいの共同性がなければ監督者はそれよりも軽いというのが普通です。上記のリンクにあるNHKの説明が本当ならば、誤った説明を行った行為者は会長ではありません。番組の統括チーフプロデューサーであるとされています。経営委員会の委員の発言のなかに「会長が郵政からの申し出にきちんと対応していないこと」をあげた意見がありました。でもそれってガバナンスなんでしょうか?トップなんだから、ある意味トップの判断の責任として郵政からのクレームには対応しないと判断したならそれで片づける話です。さすがに経営委員のなかからも「一職員の発言を、ガバナンスの問題にまで結びつけて本当によいのか」という極めてまっとうな意見が上がってきているのですが、問題の発端は単なる口頭での誤った説明であり、しいて言えばクレームをつけてきている郵政に攻撃の口実を与えたこと、ぐらいが問題だと思われます。公式には放送法の規定で編集権が定められているので、これは現場の人間の「単なる言い間違い」あるいは「法律の無知」というレベルに過ぎません。これがどうして会長を処分すべきガバナンス上の欠陥といった大げさな話になるのかよくわかりません。

奇妙なことに、議事録にも記載されていますが、NHKの監査委員会では本件に関する会長の処理に特に問題はなかった、と結論付けています。監査というのは、原則として一定の定められたルールにのっとり企業内での活動に問題がないか、あるいは将来問題となりうる事項ではないか?という視点でチェックを行い、問題があれば是正するよう役員会(ここでは経営委員会)に報告します。要するにガバナンス体制も含めたルール上の不備はなかったという結論を監査委員会が出していて当然その結論は経営委員会に報告されています。そこで問題なしとしているものがなぜ経営委員会でことさら蒸し返されたのか?ここにある程度恣意的な力が働いたと考える余地が残ります。
(このような背景の考察をしている方もいらっしゃいます。https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67506


こうした背景の下で現事務次官と元事務次官(郵政の副社長)が裏で情報交換をしていたわけです。言うまでもなく郵政グループ全体がもともと総務省の牙城ですから、各社のキーパーソンは郵政の副社長だけではなくおおむね総務省からの天下り組です。そしてご存知の通り総務省は放送や電波の扱いの主務官庁です。NHKの経営委員会には総務省を介在して郵政側の事情を斟酌する力が働いていたのではないか、と考えるのが自然だろうと思います。そして、NHK会長に対する一定の形式的な処分によって白黒をはっきりさせ問題の幕引きを図ろうとしたという構造があるようにも想像できます。

この「注意」を決めた経営委員会は2018年10月開催でまだこういう決着でうやむやに幕引きができると思っていたでしょうか?しかし、その後もあちこちに対しても内部告発は止まらなかったんでしょう、結果的には2019年7月、NHKの二度目の報道と同じような時期に大きな不正がスクープされ、かんぽ生命自体が不正が多数あったことを認めざる得ない事態に追い込まれます。
https://www.jp-life.japanpost.jp/information/press/2019/abt_prs_id001460.html

結果的にNHKの報道の内容は大筋で正しかったということです。郵政の経営陣はいったい何に対してどういう理由で抗議していたのか?かんぽの現場でそういうことが起きていたのを郵政の経営陣は知らないまま、抗議していたのか?ということになりますが、知らないで抗議していたとしたらいやー、恥ずかしい。責任ある立場にいる人間としてこれほど恥ずかしい話はないと思います。誰もが感じる通り、郵政・かんぽのところのほうがよっぽどガバナンスが問題だろう、という突っ込みを百倍返しで甘受すべき事態となってしまいました。

さらには、郵政の狙い通り、NHKの報道はお蔵入りとなり、その後もかんぽの募集活動が続けられ、さらに被害を拡大した可能性があるということです。繰り返しになりますが、これほどの悪行というか不正募集活動を「知らなかった」では済まされない。企業の経営者として知らなかったらそれは即刻辞任するレベルです。だって組織ぐるみの「詐欺」じゃないですか。文字通りの反社じゃないですか。また知っていて止めなかったとしても全く同罪といわざるを得ないです。そして郵政のトップが意図的に報道に介入を行った結果としてそれが助長されたとしたら、もはや会社としての体をなしていない。前にも書いたように即刻営業をやめて既契約を他の民間生保に譲渡すべきレベルの事案だと思います。いやー、恥ずかしい。

(NHKの受信料問題)
また、NHKの番組放送の流れと郵貯からの抗議との関係性についての推測が正しいならば、NHKは報道という次元においても役所やそれをバックとした勢力に負けたことになる。そのよりどころとなるべき経営委員会がきちんと防波堤にならなかった、という別の意味でのガバナンス問題についてあらためて議論していただく必要があろうかと思います。実は問題になっているNHKの受信料徴収の最大の根拠は「独立性」なのです。独立性が失われたNHKが、自分たちだけ特別に受信料を徴収できる正当性が失われてしまうのです。このことは当事者はもっときちんと自覚したほうがいい。NHKの独立性に対して重大な疑問符を突き付けた今回の事案に対し、NHKは一刻も早く背後にあった経緯を明らかにし、真の意味で独立性が守られているのか、受信料を収めている視聴者にきちんと示す必要があると思います。上記リンクにあるリリースは全く重要なポイントに触れていないという点で、非常にお粗末に感じます。

もちろん、今回の問題の根っこが総務省の高級官僚とその支配下(天下り先)の企業との関係にあることは明らかです。その根っこの根っこである高級官僚にずばりと切り込んで処分を敢行した高市大臣はちょっと見直しました。ワタクシ的には(個人的には存じ上げませんが)全くゆかりのない方ではないため、ちょっと嬉しく思います。もちろんこれで終わったわけではありませんが。

(追記)
どさくさに紛れて、ちょっとこれだけは言わせてください。今回重大な不正を行ったかんぽ生命について、その取締役会の構成は実はある意味ガバナンスのお手本のような構成です。10人の取締役のうち過半数である7名が外部の社外取締役。その職業も多岐にわたり、有識者枠っぽい弁護士先生も混じっていて、さらに女性が3名ということで、とっても美しいです。ルックスという意味ではなく形として本当に美しい。そしてこれだけ美しい構成をもった取締役会が監督する企業の業務執行がこれほどまでにえげつなかったということのギャップについて、特殊事例として割り切って考えていいのかどうか、改めて議論が必要だと思います。機関投資家においては最近は保有株式に関する議決権行使の基準に一定の社外独立役員とか場合によっては女性の比率とか要れるところもあると思いますが、そうしたことが本当に意味のあることなのかどうか、形式的基準や外部助言会社の意見をうのみにするのではなく、しっかりと自分の頭で考え抜いて行動しなければならないのではないでしょうか。そもそも取締役会の形をいくら美しくしたとしても、「社外取締役」ができることなど限られています。ケースバイケースとはいえ、本当に意識の高い社内の人間のほうが、問題を早く察知して適切なガバナンスを及ぼせることもあるのではないか、ということを感じざるを得ません。
そしてその不祥事の全貌が明らかになっておらずNHKに続報を放送しないよう圧力をかけて延期させていた期間において、日本郵政がかんぽ生命の株も含めて売り出しを敢行したことは、投資や資産運用の世界に携わる者として、決して忘れてはならないことだろうと思います。郵政の役員さんたちへの株主代表訴訟までいくのかな、とか思ったりしますが。ようわかりませんが。

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この記事へのコメント

2019年12月27日 09:51
洞察の鋭い解説を楽しみに、毎回、拝読させていただいております。今年の投稿はこれで最後になるのでしょうか?少し早いですが、健康には留意されて良いお正月をお過ごしください。来年も楽しみにしております。

厭債害債
2019年12月30日 11:36
犬さん、コメントありがとうございます。来年もよろしくお願いいたします。