厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS バブルと時価主義

<<   作成日時 : 2008/10/18 17:27   >>

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困る人が増えてきたみたいで会計ルールの一部見直し(解釈の柔軟化も含む)が議論され始めているようです。個人的にはこれまでからあまり厳格な時価会計はむしろ有害だろうという意見を持っていました。時価会計というのもバブルやレバレッジを前提とした経済といった時代の風景の一部ではないかと思います。つまり時価主義を極端に進めることはレバレッジを通じたバブルの生成と崩壊において重要な触媒の役目を果たしたと思います。いま崩壊局面で時価会計が取り上げられていますが、実は生成局面で果たした役割にも注目しないと片手落ちだろうと思うのです。

経済が膨らんでいく過程で株価が上昇する流れが出来ると、その株を市場で処分することなく、自分の成長に使うために「時価」を損益や資産評価に取り入れ、その仮の交換価値をほかの目的に使えれば、これほど楽なことはありませんね。じっさいLBOとか一部の株式交換によるM&Aなどはそのやり方で成長してきたわけです。そして更に買収先の資産の「時価」評価が上がればますます大きなビジネスに発展していく。こうやって評価をベースにして新たなバーチャルな取引階層(前のエントリーで書いた、「高層階」ですね)が積みあがっていくわけです。
そして、これは逆転するときに破壊的に縮小するのも当然のことです。

こうした局面での時価会計で一番メリットを得られる人は誰でしょう?それは長期のステークホルダーではなく短期の投資家あるいは投機家であり、それを仲介してビジネスを行う業者です。企業買収の局面を考えれば一番明白です。買収する側は自分の会社の株価を吊り上げることで、その時価の上がった株式をお金代わりにして買収がしやすくなる。買収相手のバランスシートは時価主義を強制することで把握が容易になり、その頻度を高めれば(おろかにも日本は四半期で最近やるようになりましたが)よりビビッドな時価がつかみやすくなる。法律で一定のレベルまで強制されているのだから、あとは細かいデューデリをすこしやれば大きな価値の読み違えがなくなる。取引のスピードが上がる結果、当事者は機会をえることが容易になり、仲介業者は回転が上がることでフィーが大きく増える(元の時価も上がってますし)。イギリスやアメリカといった金融立国が時価会計にやたら熱心だったのはそのためだろうと思います。

ところが、この結果有価証券が世の中に大きく積みあがってしまっていて、それに価値があると信じていた人々はこれまで以上にたくさん抱えてしまっている。しかし生身の人間の経済の拡大をはるかに超えるペースで伸びてしまったため、肝心の人間の活動がついていけなかった。で、サブプライム問題などをきっかけに改めて見直せば、足元には紙の束がいっぱいあるだけ。処分に走る人々が殺到して市場は現在のような状況になっている。

もちろん時価主義は悪い面だけではないでしょう。たとえばこういう危機のとき現状認識が早く進み救済を早くできると言うメリットもあります。ただ、そもそも極端な時価主義が進んでしまった結果、企業のやり取りが容易になりすぎ、そのための借り入れなどを通じ経済のレバレッジが高くなりすぎたと言う面は否定できないと思います。

時価会計なんてやかましく言い始めたのはここ25年ぐらいのことに過ぎません。すでにアメリカの経常赤字が維持不能といわれ始めていた時代から、偶然にも時価会計の流れが加速してきました。これが本来維持不能だったアメリカ経済を20年も長持ちさせた一つの理由ではなかったかと。時価主義のおかげでアメリカは実力以上に自分を大きく見せることが出来ていたのではないかと。ペーパーマネーがどんどん生まれることで、金融システムのレバレッジを上げ、資金をジャブジャブ流すことで、経済の名目価値を上げることが出来る。レバレッジの元となる種銭は日本とかが出してくれる。それをベースに、発展途上国への進出をすすめ新たな権益を拡大し、バランスをとっていくというモデルです。しかしながら、結局のところ一時的に単年度財政黒字は達成したものの、アメリカの政府部門も民間部門も貯蓄をすることが出来なかった。問題がより大きなレベルで先送りされたに過ぎなかったともいえます。その中でアメリカを支えてきたのが金融セクターだったとおもいます。お金をちゃんと引っ張ってきさえすれば、フローさえ増やせれば、アメリカの金融資産の値段は下がることはない。その結果見た目はどんどん大きくなっていき、成長を続けることが出来る。しかしレバレッジがどんどん大きくなる過程で、バーチャルマネーに依存する部分が膨らんでいったのでしょう。バーチャルマネーは、必ずしも流動性のあるものではない。不動産などまさにその典型例です。そもそも流動性があることが時価主義の原点のはずなのですが、最近は流動性の問題を無視してローンも時価評価すべきだとか言う議論まで出ていましたね。アホか、と思いましたけれど。我々だって優良な企業にいくつも貸し出しを行っていますし、たとえば世銀クラスのところへも貸し出ししてますが、これを市場価格で把握すると・・・ほしがる人がいなければゼロ円ですかね。

結局流動性の問題がクローズアップされた結果、一部の資産クラスの時価は崩壊した。その崩壊がデレバレッジを通じて他の資産クラスに波及しているのが今のマーケットです。この事態であたふたして時価主義の修正を行うなら、素直にその欠点をこの際正面から認める必要があると思います。

先週企業会計基準委員会からでたリリースや「実務対応報告公開草案「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い(案)」がその修正の方向性を多少示しているようです。ところで後者の文書はなぜかホームページからアクセスできないようになってますが、こういう大事なテーマについてあまりにもケツの穴のちいせぇ扱いじゃないですかね。ワタクシはアクセスできなくなる前に印刷してありまして、ちょっと見てみたら、時価の概念についてのファインチューニングであって、決して時価主義そのものへの修正ではないことに注意しておく必要があります。

その中で、『「取引所若しくは店頭において取引されているが実際の売買事例が極めて少ない金融資産」(金融商品実務指針第53項A)や、売手と買手の希望する価格差が著しく大きい金融資産は、市場価格がない(または市場価格を時価とみなせない)と考えられるため、このような場合には「時価は基本的に、経営陣の合理的な見積もりに基づく合理的に算定された価格による」』ことと、経営者の合理的な見積もりに際しての留意事項(同54項)をQ&Aでは確認しているわけですが、金融商品会計基準に明文化されていることをわざわざ確認しなければならなかったのは、やはり現場で妙な厳格な取り扱いが流行っていることを裏付けるものではないでしょうか?以前3月に会計士協会副会長名義での文書が出された際ちょっと懸念していたのですが、それが影響しているのかもしれません。
いずれにしても、まだ基本的な「時価主義」のカンバンはおろすつもりはないようですね。

しかし、我々は、バブル時代に謳歌した時価主義の恩恵からしっぺ返しを受けているのだということを受け入れる必要があると思います。すべての有価証券の時価主義までないがしろにすることは許されないでしょうが、人間をベースにした経済の実態に会計は合わせていかなければならないと思います。社会が必要とするなら、ある程度柔軟な取り扱いを検討すべきですし、それのほうが会計にたいする信頼を失わせないで済む結果になると思うのです。

余談ですが、この点に関して派生的な興味があるのは次の点です。

上記文書では、「適用時期」について「本実務対応報告の公表日前に終了した事業年度(当該事業年度を構成する四半期会計期間又は中間会計期間を含む)であっても、企業が未だ公開していない財務諸表においては適用される、と書いてあります。また、そのてきようについては会計方針の変更として取り扱わないことに留意する必要がある、とも。
9月末決算でこれを使えると意味のある金融機関等が結構あるということではないでしょうか?

もう一つ。特に海外の金融機関や日本の大手金融機関で、これまで「厳格な」時価をつかって巨額の減損を建ててきた金融機関にとって、もし今回の柔軟な解釈が改めて採用されたなら、もしかしたら膨大な「繰り戻し益」が発生する可能性があります。ちょっと楽しみではありませんか?まあ、普通は当該金融商品の満期とかキャッシュフローが実現するタイミングまでやらないのが大人の対応でしょうけれどね。

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「バブルと時価主義」について
「バブルと時価主義」について 時価会計は厳密に言えば正しく思います。 有価証券を評価するとすれば、取得価格よりも時価の方が良いに決まっている。 取得価格で資産公開されていたなら、真に毀損した価格を知らずに評価しなければならず、それは情報の共有原則から見ると甚だしい乖離があるでしょう。 資産を持っている立場からすると、資産価値が誤魔化される方が良いにきまっているでしょう。反対にその資産を評価した上で、投資する立場から言えば時価会計が良いにきまっています。 分っている事は、行政府によっ... ...続きを見る
よく考えよう
2008/10/18 19:18

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コメント(14件)

内 容 ニックネーム/日時
いつも興味深く拝見しております。
厭債害債さまがご指摘されている適用時期や繰り戻し益の件、本当に興味深いです。
あと、素人考えですが、「今回公表された実務上の取扱い(案)と08/3月の副会長名義文書って矛盾しませんかねぇ・・・」と誰かにツッコミたい気分です(苦笑)。
北の書生もどき
2008/10/18 19:17
政官のやり方は当然なのですが、辞められない金融の社会での足場を作って頂きたいものです。
Hbar
2008/10/18 19:30
害債さん、おっしゃられていること誠にその通りと考えております。特に、時価会計についてはそれがもたらした恩恵についても評価しないと片手落ちである旨、賛同です。しかし難しいのは変更のタイミングだと思います。かつて邦銀は会計基準が厳しくなる中でそれに合わせた対応をしてきました。確かにそれまでが甘すぎて実情に合わせて厳しくしていった面もあるかと思います。しかし必要以上に厳格化を継続した故に谷を深くしたという現実もあったかと思います。今回欧米主導で見直しを行うのは悪いことは思いません。時価会計により実情以上に厳しく評価している有価証券が沢山あると思います。しかしその変更のタイミングは少なくとももっと後ではないかと思います。
植田日銀総裁
2008/10/18 21:01
<続き:長くてすいません> このままでは事業継続不能な金融機関もまだあると思いますし、自分を含めた広範囲の人々に与える悪影響も、もっと拡大すると思います。しかしそれまでに得た益を考えると払う代償はもう少し大きくないとバランスが取れていないように感じます。これは全くの個人的見解です。つまりリーマンなど既に代償を払った人との線引きの問題、反対に厳しいルールであることを前提にうまく戦ってきた人々の優位性の問題。(こうなることを見越して早目に損切りし、その後ルール不変を前提に無用なナンピン買いなどせず時期を見極めようとしている人々の優位性)こういった参加者間の“行動・結果の差“の問題を裁けるのは一体どんな力なら良いのか私はまだ答えを持っていません。
植田日銀総裁
2008/10/18 21:03
架空(呪物)の紙切れ(呪物)の意味(すなわち呪物の呪物、証券)をどのように解釈するかの力がどうあるべきかということですね。
簡単です。現在そこの場所で最も苦しみが減るようにするべきです。
それを世界で統一することは出来ません。すなわち会計の世界統一化はしないほうが正しいです。

別に会計を統一しなくてもグローバル(地球)化くらい出来ますよ。物資を見ればいいんです。地球は確実に限られた物資で出来ていますから、その存在の正確な残量を調査しつつ、物資の消費を減らす努力をキチンと行えば良いんです。
貨幣や株といった呪物は一定の囲い込まれた範囲すなわち現状だと『国』で一番苦しみを減らせるようにルールを決めれば良いんじゃないですか?
ようは会計という意味の解釈によって変化する複雑なものを統一するより、物資という予測可能なものからグローバル化を図った方が有効じゃないの?
そうすれば、モノが先お金が後に成って、人類の長期生存化が保障されますしね。
kazzt
2008/10/19 02:11
会計にこそ原則が必要です。現在はドルが基軸通貨として信任を受けていますが,もしその信任が崩れるとしたら今回の会計見直しが切欠になるでしょう。要するに、悪貨改鋳の田沼政治をやらかした訳ですから。人類は貨幣を手に入れる事で文明の発達を促進してきました。それは政府が発行する兌換価値を保証してくれるものだからです。マネーがグローバルになった現在、変動相場制の中で、その都度変るような会計制度では次の時代へ進めないと考えます。
Hbar
2008/10/19 08:26
バブルと会計原則の間には全く相関関係はありません。バブルは状態であり、会計原則はメジャーの役割しか果しません。状態が変化した時、既得権益層が何とか変化が少ないように誤魔化したい為に測り方を変えようとするだけです。既得の金融が行政と同じく変らないはずです。行政は法律を縦横無尽に改変し、権益を保護しています。会計原則はマネーにおける法律のようなものですから不偏が肝要です。
Hbar
2008/10/19 14:38
すばらしい見解ありがとうございます。その通りです。バブルと会計主義も関係ありませんよ、はい。
で結果です、この時価会計が大手を振ってきた10年間で、それを採用した国の実態経済がどうなったかですね。国家経済が双子の赤字(みんな忘れたかね、アメリカ経済は既にその前にも危機的状況にあった時代があったのですが)に瀕してもわが世の春を謳歌した米国籍かな、の多国籍企業も、この間に金融工学という実態経済でない部分を膨らませても復活できなかったということでしょ。
時価会計が採用されてそれが、実態経済に対して全く意味をなさなければ、共産主義と同じ運命をたどるのですよ。歴史です。はい。
かるぱーす
2008/10/21 22:37
Hbarさん時価会計は絶対に間違っています。
市場において厳密な時価(その瞬間の正確な価値)など存在しないのです。
現在の株価とは一瞬前と一瞬前の前の関係のベクトルを指し示し表記しているだけなのです。
それとは全く関係なく2者が合意すれば、市場は成り立ちます。
時間を厳密に限定すれば2者の合意に過ぎない以上、市場とは完全にランダムに成らざるを得ないのですよ。
kazzt
2008/10/27 00:16
間違っているかどうか分らないけれども、現実に換金可能債権であるから、有価証券となっています。評価は兌換前提でこそ金融機関にとって意味を持ちます。評価を上げたければ、金融の意思として下げねば良いのです。その為にこそ日銀が円を供給しているのではないでしょうか。金融機関に対する債権者たる預金者の知りたいのは兌換価格に他なりません。
Hbar
2008/10/27 13:03
この世に兌換を絶対的に保障するものなどありません。中央銀行でもです。アイスランド見てもなさい。イギリス国民の預金を封鎖して、戦争かいって状況でしょ。ハイだから日本人はバカにされるのです。最後はお上がやってくれるって。てめーの資産は手めーで護れよ。でマスコミがいうところによれば、現在一番安全なのは、円で国債かな、でも他の人は赤字だからだめだというし、メガバンクも株が売られて危ないので、たんす預金かって、1年後には預金封鎖かもね。ということで信用が経済の基本です、はい。
かるぱーす
2008/10/29 00:38
であればこそ、この崩落の最初の一幕は金本位制の離脱だった訳です。そこまで遡って初めて真実が見えて来ます。様々な経緯を経て,金本位制が根付いたのです。それを馬鹿正直に濱口内閣がやって、NYが世界恐慌と重なったものだから大変な事になりましたね。
結果、大戦後のドッジ・ライン迄持ち越しましたが。
Hbar
2008/10/29 12:07
皆様コメントありがとうございます。まとめて御礼で失礼申し上げます。やはり会計ルールが人の行動に影響を与える側面は否定できないだろうと思います。それは運用の現場にいてひしひしと感じますね。
一応時価の問題は上記の案のとおりになったようですが、所詮問題は株価だと思うのですが、株については市場価格を採用するルールはいじりようが無いだろうと思います。
厭債害債
2008/10/30 06:28
ここで最初に時価評価問題を提起されたのでしょうか。害債氏とかるぱーす氏はバブルの発生あるいは赤字の発生が時価会計に起因すると主張せられ、Hbar 氏は関連はないとされるが、時価会計がバブルの経済合理的発生原因である論証はできないと考えます。
時価評価の問題は、上場証券のように価格が付けられる証券ではなく、もはや先行き10年の信用損失について合理的予測できなくなった上、さらに流動性が欠けてしまって取引ができないどころか、妥当な評価さえもできなくなった$兆を超える金額のMBSやCDOの評価をどうしたらよいかということであっても、上場証券の価格で評価しなくていいということではないでしょう。それはCPRの大きさ予測やVARで計測されるリスクでもない。
証券評価損を銀行は資本から控除しなくていいという金融庁の指針で、時価評価までしなくていいというわけでしょうか。
FYI
2008/12/10 23:01

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バブルと時価主義 厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)/BIGLOBEウェブリブログ
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