厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 信用市場の一物三価

<<   作成日時 : 2009/01/08 22:44   >>

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最近、信用リスクのスプレッドについて一物三価という言われ方をすることがあるそうだ。たとえば、ある企業に対する信用リスクの指標としては、その企業がどのぐらいの借り入れ金利で資金調達が出来るか、が指標となるが、この借り入れ金利についてまずいわゆる「融資」と「社債発行」でそれぞれ金利が違うのが現状である。不思議なことに、一般的に流動性があり保有者にとってのリスクも手間も少ないと考えられる社債のほうが高い金利がつくことが多い。
近時はこれに加えて更にCDS(クレディット・デフォルト・スワップ)が登場した。このブログでも何度か取り上げているが、CDSというのはある企業の信用リスクをプレミアムの受払いという形で取引する、一種の保険取引であり、当該企業と全く関係のないところでも二人の当事者間で契約することが出来る。

一般的にCDSは文字通りスワップであり、形式的には基準金利(LIBOR)とその企業のリスクプレミアムの乗っかった金利(LIBOR+xxベーシス)とを交換するのだが、実際はLIBORの部分が相殺され、リスクの受け手がリスクの取り手にxxベーシスポイント分を支払うことになる。リスクの取り手はその代わり当該企業の信用事由(デフォルトやリストラクチャリング(債務条件変更など)など)が生じたとき、当該企業の債券を渡されたり精算価格で精算を迫られたりすることになる。

このCDSの上乗せ金利が同じ企業の社債の流通市場で求められる上乗せ金利を大きく上回っている。つまり同じ企業の信用リスクの尺度としての金利水準が、融資<社債<CDSという形で乖離してしまっているのだ。これを一物三価と言っている人もいるようだ。

ただ、本当に一物であれば裁定が働くが、融資も社債もCDSも実は別物である。たとえば似たように見える融資と社債でも、融資であれば企業同士が様々なビジネスリレーションを作る一つのツールとして使われることもあるし、現状では満期保有が原則であり時価評価の対象ともならない。さらに融資を継続するためには貸し手の担当部門が毎決算期にきちんと査定を行いラインシートを整備しておく必要があるが、そのため当該企業に対し様々な開示を求めたり突っ込んだ資料請求をしたりすることができる慣行になっている。また状況によって担保を求めたりするなど、さまざまな対応が可能である。これに対して、社債権者は、シニアである以上返済順位という点では融資とパリパス(同格)であっても、個別に当該企業に対してぐちゃぐちゃ口を挟んだりましてや後から担保を求めたりすることはない。その代わり気に入らなければ売られるので市場での調達金利が上昇してしまう。こういうドライな投資家との付き合い上、一定の上乗せ金利が(特に日本の場合)要求されているとも見える。

ところでCDSはこれらのカテゴリーとは全く異質のものである。その最大の違いは、CDSを通じて当該企業が資金を調達していない、ということだ。CDSは当該企業と関係のないところで、また当該企業の資金調達と全く関係のないところで自由に取引されている。確かにCDSの取引当事者は少なくとも取引開始時は当該企業の信用リスクを判断して妥当なレベルを決めて取引に入ったに違いないが、それは当該企業の資金需要と市場の信用判断とのせめぎあいの中で出てきた市場価格ではない、ということをきちんと理解しておく必要がある。(既存のエクスポージャーホルダーがヘッジとしてCDSを使うニーズが強くそれと売り手との間の需給でマーケットが決まっているのならそれは単に既存のリスク移転というCDSの持つ本来の効果が十分に発揮される良い面であり、資金需給と間接的にリンクしているといえるのだが、AIGなどの例を見る限り、利回りのほしい投資家がCDSの売り手となってプレミアムを稼ぐ一方でビジネスを拡大していたAIGなどの保証業者がひたすらリスクをうけまくっただけであったように思える)。

もともとがそういう危うい基礎の上に成り立った市場だったからこそ、ひとたび危機が起きると雪崩的にCDSは崩れた。最初はサブプライム関連の市場からだったが、次第に市場参加者のリスクテイク能力を侵食しはじめ、最後は投売りすら出来ない状況に成り、それがCDS市場全体に広がり、CDSのスプレッドと社債の発行スプレッドが大きく乖離する現象が生まれたのである。

さらにCDSが問題だったのは、一部証券化商品の理論的価格算出にあたり、マーキットなどが出している先物(デリバティブのデリバティブみたいなものでCDSやCDOより本来はもっと怪しげな存在だと思うのですけれどね)をベースに値段を逆算するという慣行が出来たことだ。さらにCDSスプレッドをベースに企業の信用度を逆算するという慣行も生まれてしまった。もちろんCDSと企業の信用度には関係があるのだが、上記のごとく実態的資金需要を背景としないデリバティブは、あの乱高下した石油先物みたいなもので、オーバーシュートしやすい。それがデリバティブの売り手や買い手の損益だけにとどまっていればいいが、石油の値段が妙なインフレ懸念を引き起こした結果もしかしたら金融政策の舵取りにすら影響を(悪い意味で)与えてしまったかもしれないと同様、CDS市場を放任することでCDSそのものの需給だけでスプレッドが広がり当該企業が不当な風評リスクにさらされる危険が極めて大きいと考える。まあ、この辺はすでに多くの人々が指摘しているとおり、尻尾が胴体を振り回してしまうということだ。

このような市場の存在意義を否定するものではないが、実体経済に妙な負担をかけてしまわないような仕組みづくりが必要なのである。関係者においても、CDSがこうだから危ないとかそういう見方が必ずしも正しくない(まあ正しい場合もあるけれど)ことを意識しつつ行動することが必要だろう。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
興味深く読みました。分かりやすくて勉強になりました。
nylawyer
2009/01/08 23:15
なるほど。
>>融資<社債<CDSという形で乖離してしまっている
以前からなんでだろう?特に社債とCDSの乖離はすごくないか?と思っていましたが、そういうことだったんですね。なんとなく理解出来た気がします。
初心者
2009/01/09 09:41
CDSは対象企業のリスクプレミアムだけではなく、売り手のリスクプレミアムまで加算されているからね。
通行人
2009/01/09 15:29
nylawyerさん、どうもです。これからもよろしくお願いします。

初心者さんどうもです。コメントを見る限り決して初心者とは思えませんが、これからもよろしくお願いします。
通行人さんどうもです。おっしゃるとおりです。その部分のリスク評価が難しいから余計取引が縮んでしまうことになりますね。
厭債害債
2009/01/09 17:30
金融危機では現物市場もデリバティブ市場も大きく混乱したわけなので、社債とCDSのベーシスが大きく動いたのは、現物市場だけのせいでもなく、デリバティブ市場だけのせいでもなく、両方のせいなのでしょうね。今は海外市場では「社債のスプレッド>CDSのスプレッド」です。

尻尾が胴体を振り回すのは昔からデリバティブの特徴ですね。その影響で、原油価格が乱高下して地政学リスクが高まり、株価が乱高下して企業の破綻が早まったり、CDSも同様です。デリバティブの副作用がいやでこれを禁止するか、副作用は認識した上でそれを上回る効用があるとして活用するか、社会のコンセンサスで決まるものなのでしょうね。デリバティブはなんだか怪しい、こんなもので現物市場が歪められたくない、実需だけの世界がいい、技術革新は不要、昔に戻って細々とやっていけばいい、というのが世の中のコンセンサスなら、デリバティブは禁止すればいいだけです。
がいとなあ
2009/01/09 21:18
がいとなあさんコメントありがとうございます。有用な技術がすべてそうであるように、デリバティブも使い方の問題ですね。ただ参加者の自由に任せてしまうと今回のようなことが起こりやすいとは思います。私もデリバティブについてイエスかノーかではなく正しいコントロールのもとでの利用を制度化すべきという立場です。
厭債害債
2009/01/10 07:53

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