厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

アクセスカウンタ

zoom RSS IAS39改定案についてのいくつかの疑問

<<   作成日時 : 2009/08/11 19:16   >>

かわいい ブログ気持玉 18 / トラックバック 0 / コメント 2

そもそもですが、もともと全面時価会計を主張していたはずのIASBが昨年の金融危機の真っ只中に保有目的区分の変更基準を緩和したあたりからどうもにおうのです。今回の案はそれをさらに進めてやり方によってはほとんどの債券を時価評価不要(但し開示は必要)とすることができます。つまり「ためにする」改正?
次の点が重要です。

・ 証券化商品などの最上位優先部分(いわゆるスーパーシニア)については債券と同様償却原価の対象となる旨明記している。
・ 組み込みデリバティブのある金融商品は主たる契約(たとえば債券)の内容にしたがって区分することができることを明記した。これに該当するのはたとえばFTD(First to defaultすなわち、数社のCDSの売り手となってそのうち1社にクレジットイベントが発生した場合はそのロスを背負う(そのイベントが発生した段階でほかの会社のCDSはキャンセルされる)タイプの債券)などですが、これまでは組み込みデリバティブが影響を及ぼす場合は時価評価を要求されていたため、CDSのうち1社のクレジットが極端に悪化してしまったらその他保有目的にはできず時価評価の対象としなければなりませんでした。これを堂々と(つまりクレジットの悪化のレベルにかかわらず(但し減損にいたる場合は別))償却原価でもてるということです。

今回のIAS39の改訂のポイントはこれ以外にも減損の問題とヘッジ会計の問題とがあります。本来は今回の区分変更の問題はヘッジ会計の問題と切り離しては考えられないのです。なぜなら、ヘッジ会計というのはまさに損益計算書上のキャピタル損益とそれ以外のところに現れるキャピタル損益とを同一リスクについてマッチングさせようとするものですから、それがどのように分類されどのように損益として表示されるかという議論とは決して切り離すことができないものです。しかしながら、今回の改訂案では、この「区分と評価」の論点だけを先に議論し「2009年末の財務諸表」において「選択適用」可能とすることを目的にしているようです。そのほかの二つの論点はまだ案も示されず2010年に議論することになっているとか。

邪推だと思いますが、2009年末までに今回の改定案にあるような区分と評価の方法を使えるようにすることで、たとえば証券化商品とか組み込みデリバティブ債券とかそういったものを償却原価に移すという強い動機が働いているのかもしれないですね。

興味深いことに米国のFASBは7月9日にIASBがこの公開草案を出した直後の7月15日にボード会議で次のような立場を確認しているようです。
・ すべての金融商品を公正価値で測定する。但し一部の金融負債は例外的に、企業の選択によって償却原価で測定されることが容認される。
・ デリバティブ、持分金融商品並びに分離処理が求められる混合契約は、公正価値の変動を純損益に表示する
・ 上記3つ以外の金融商品は、企業の保有意図、ビジネスモデルおよび当該金融商品のキャッシュ・フローの変動可能性に基づいて、公正価値の変動を純損益またはOCI(その他包括利益)に表示する。
・ 公正価値の変動をOCIに表示する金融商品はBS上で、償却原価と、公正価値にいたる調整額を表示する。
・ すべての金融商品の利息及び配当は、引き続き純損益に表示する。
信用リスクに伴う減損及び売却又は決済による実現損益も、純損益に表示する。
・ 当初認識時に決定した分類は、保有期間中に変更されない。
(証券アナリスト協会勉強会資料より借用。下線はワタクシ)

こうやって見るとIASB側が信用リスクやデリバティブ組み込み系の損失を隠す方向で改正しようとしているのに対し、FASB側が(多分おれたちは結構きちんとやって大変だったのにおまえらまだやっとらへんやろーというような感じで)イチャモンをつけている印象があります。

まあもともとワタクシは疑り深い人間ですので、邪推だとは思いますけれど、どうしてもこういう手を使わざるを得ないほどお困りのところがおありなんでしょうか???

ついでだから、どうせ言い放題ついでに言わせていただくと、今回の事件を通じて疑問に思ったのは、会計基準の統一って本当に必要なんでしょうか、ということです。
もちろんメリットがあることは疑いありません。ただ、法律を勉強した身として、商取引に関する法律ですら完全に統一できず何十年もやって、米国などではようやく州際取引に関してUCCみたいな統一法典ができているけれど、やはり思想の違う国の間では統一法なんて無理だともうわかってしまっている。だから国際取引関係の契約書には必ずどこの法律を使うとかどこの裁判所が管轄権を持つとかしっかり明記するのが通例となっているのです。

今回、たとえばIAS39改訂案がそのまま通るとしたら、日本の銀行や保険会社にとって株はかなり持ちにくくなります。全面時価評価にさらされて持たなければ表向き収益を生まない資産になってしまいますが、さすがにこれだけボラティリティーの激しい資産を今の規模で時価評価にさらして持ち続ける根性のあるところは少ないのではないかと思います。
(とはいえ、日本の監督官庁にとっては、リスクが減るという意味では歓迎かもしれませんけれど)。しかしある意味日本の持合というのは日本の社会構造みたいなものと一体になっており、それを否定することが本当にいいのかどうかという検証をきちんとする必要があります。企業が資本関係を組み合わせて助け合うというのが全面的に否定される制度なのかどうか。今回の金融危機の原因と結果も踏まえた検証が必要であり、法律と同様に文化の違いとして相容れないものとして、異なった会計基準を並列的に走らせるやり方は一概に否定されないのではないかと思います。もちろん国際取引とくに異なる国で調達したりする企業にとっては、自発的にその国の基準に合わせる必要がある。要するに今までと同じで、何が悪いということです。どの基準を使っているかさえ明確にしておけば、あとそれを解釈したりするのがアナリストの仕事になるのでしょう。仕事が大変?いやこの時代ですから雇用拡大に貢献するのではないかと思いますけどね。

多分統一の最大メリットは自動的なデータ処理に乗ってきやすくなる、ということでしょう。勘定科目に細かなIDをつけてそれを横断的に比較したりできるし、なによりも、一定の分析ツールを使えば自国と同じやり方で異国の企業の企業価値がすぐさま把握できる。ただ、このメリットも全面時価会計を使って初めて可能です。まあこれから段階的にそういう方向に向かうのだろうと思いますけれど、こんなところで時価主義から逆行するようではそもそも基準の統一などやめてしまったほうがいいのではと思えます。

ちなみにこれまで何度も繰り返しているようにワタクシは全面時価主義(特にPL反映)には反対です。それは、保有資産の時価評価をPLに反映させる根拠が危ういものだと考えるからです。たとえば上場株式ですが、どんなに大きな企業の株でも、あるいは無名の会社の株でも、基準期間の最終日にたとえ一株でも取引所で取引が成立したら、その株を保有する全員がその値段で評価を強制させられるのは疑問に思いませんでしょうか?もちろん株価というのは通常ジャンプするものでもないのですが、それは絶対的なものではありません。とにかく取引所である二人が合意して取引すればその二人が結論を下せるのです。本来は取引量などで一定以下のものについては、議会における定足数不足のようなもので結論が下せない、というのが正しいのではないでしょうか?これはマイナーなデリバティブや証券化証券についてより強く感じられるでしょう。縛りがない中での全面時価評価というものは逆に市場操作の誘引を持つ危険すらあるとも言えるでしょう。

話がそれましたが、今回のIAS改訂案についてはまだほかにも色々な疑問点があります。議論に参加して我々に有利な方向へ持っていくというのはもちろんまっとうなやり方ですが、それ以外にも(まあもう道筋はすっかり付いてしまっているようで手遅れですが)会計基準は違っていいのだという開き直りも必要ではないかと思う今日この頃です。

また素人が図に乗って勝手なことを書いてしまいました。誤解、誤り等あればなにとぞご指摘を。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 18
かわいい かわいい かわいい かわいい かわいい かわいい かわいい
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い 面白い
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)
驚いた
ナイス

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
詳細かつ緻密な分析いともながら参考にさせていただいており多謝です。ルールが欧米の対立?でかって決められる中で、彼らの市場自体が縮小している事実を受けとめた上の考えないといけませんね。新興国、資源国、亜細亜の成長国はどんな意見をもっているのでしょうか。おっしゃるように、このあたり本邦の独自の提案すべきでは内科と思いますが。欧米市場主義の監督官庁と会計協会がやれるかどうか。
かる
2009/08/13 01:08
かるさんどうもです。本邦の監督官庁はこの流れを上手く利用しているようです。この改正案の背景はどうみても欧州独自の理由でありそうにおもうのですが。
厭債害債
2009/08/19 06:21

コメントする help

ニックネーム
本 文
IAS39改定案についてのいくつかの疑問 厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる