厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 米国モーゲージIO(インタレストオンリー)債の好パフォーマンスにみる、米国住宅の塩漬け度

<<   作成日時 : 2009/09/07 18:30   >>

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モーゲージIO債とは、住宅ローンそのものに言う(ちょっと悪評の高い)インタレストオンリー(債務者が当面金利部分しか払わないため、元本が減らない仕組みのローン)とは異なる。住宅ローンを証券化したMBSのパススルー(債務者の元利払キャッシュフローがそのまま債権者の受け取りへスルーされるタイプ)債券のうち、受け取り金利部分全体だけを切り出して、元本とは別に取引するものである。債券の利札だけを切り取った物と思えばいい。IOの反対側にはそれゆえ必ずPO(プリンシパルオンリー=元本部分のみ)という割引債が残る。

ご存知のとおり、住宅ローンは多くは元利金等返済であり、元本が徐々に減っていくからその元本に比例して受け取り利息額が減っていく。そのうえ、住宅ローンは債務者が期限前返済のオプションを持つことが普通であり、債務者はたとえば金利が低下して刈りかえられるとかそういうときに一気に元本を返済することがある。この場合その先、当該ローンから利息は生まれなくなる。IOというのは高度なコンピューターを使ってそういった利息部分の将来キャッシュフローを確率論的に推測して値つけして取引されている商品で、かなりリターンのレバレッジも高くデリバティブ的色彩が強い。

最近、いくつかのところからIO債券への投資案件があって、ちょっと数字を見てみたら、昨年度の金融危機での暴落から立ち直ってかなりいいパフォーマンスとなっている。専門的な話をすれば、これまでモデルの前提となっていたimpliedの期限前返済率があまりにも高すぎることが判明してしまい、モデルの見直しをみんながやった結果、IOがえらい割安だということになり、買いが集まったのだそうだ。

ちょっと考えていただくとわかると思うが、住宅ローンの期限前返済が早くなれば全体のキャッシュフローの総量はおおむね少なくなるため、価格が下落する。IOのパフォーマンスが良くなる状況というのは、つまりおおむね期限前返済の速度が低下(つまりあまり期限前に返済しない状態)している場合である。その逆も真である。

ちょっと調べてみたら、やはり現在の期限前返済が従来に比べて「例を見ない」状況に落ち込んでいる。さらに、ちょっとまずいなぁと思うのは、期限前返済のスピードが金利の変化にまったくといって良いほどリンクしなくなってしまったことだ。それゆえ、IOの関係者は、今後もこうした状況が続くと予想し、IOのキャリーだけでも相当稼げると見て人気が上昇したといっている。

通常金利変化と期限前返済のスピードの関係を表すカーブはS-Curveとか言われ、文字通りSに近い形をとる。(図)。
画像
つまり金利が低下するにつれてあるところまで加速度的に期限前返済が増えていく、というのがこれまでの構造だった。ところが、現在ではどうやら金利が上がろうが下がろうが、既存の住宅ローンが反応していない、という図が読み取れるのである。たしかにこの状況ではすぐに期限前返済がどう転んでも増えそうな感じはしない。
(図はこちらから借用しました:http://www.elliottbayanalytics.com/choosing_models.pdf

これは、一言で言うと米国の住宅ローン保持者(つまり住宅保持者)が「身動きの取れない」状況に陥っていることのひとつの表れではないか?住宅ローン金利が下がっても、もはや(住宅価格がネガティブエクイティーになっているケースが多いこともあるため)借り換えができない。銀行も従来以上に審査が厳しい。仕事からの収入も増えない。まさに、かつて(ワタクシも含め)バブル期に日本で郊外に住宅を買ってローンを借りてしまった人々の行き場のなさと同様の感覚がアメリカにも出てきているのではないか?

実はこの期限前返済の少なさにはもうひとつ重要な側面がある。それは、ちょっと前までの期限前返済の多さは、住宅価格の値上がりに伴う「キャッシュアウト」の多さを反映していた面があるからだ。つまり住宅が値上がりしていれば、ローンを返済しつつさらに住宅時価の範囲まで借り入れすることで、家計は差し引きで一種の現金収入を得られる。もちろんこれは借金なのだが、これまでのアメリカでは借金も自分のお金のうちである。そしてそうやって得た現金でさらに消費を増やすことができた。今そういう消費が大きく落ち込んでいるはずだ。銀行の貸し出しスタンスや住宅価格の状況を考えると、以前の状況にそう簡単に復帰するとは思えない。

気質の違いとか人の動きの違いとか同視できないとしても、やはりこの状況は人々を「落ち込ませる」。たとえ期間の差とか程度の差はあってもかつての日本と同様、落ち込みがしばらく続くことは避けられないと思う。前回のエントリーでアメリカは変わるか?という問いかけをしたが、今回のようなデータに見られるような「行き場のなさ」感の影響はそれほど軽視すべきではないように思える。


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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
モーゲージIO債などという金融商品があるんですね。
初めて知りました。
賢い仕組みで商品を創るもんだなあ・・・
真面目に脱帽です。
しかし、そんな人たちが設計して取引してても、
当初のモデルが間違ってると言うか、
予想していなかった事態が起きるんだ。
へなちょこ投機家の自分も心しないと。
39歳無職
2009/09/07 21:33
どうも、ここまで異様と感じるほどに、利益というより、儲けに敏感になってしまったことが、無用なバブルの温床になっていると、感じます。3月以来の株価の上昇も、同じ心理状況から生み出されてきた、怪物だと思っています。
その他
2009/09/08 07:41
以前IO,PO今は無きベアスターンズなどが盛んに
やっていて日本でも投資家が投資していましたね 少し米国住宅事情はよくなったようですが先行きには懐疑的です 最近日経私の履歴書三菱商事の槙原さんの話を読んでいますと既に知っていることもありますが今後の展開に期待したくなるところもあります。投資は期待感だけではやれませんが
星の王子様
2009/09/08 19:44
言われてみればネガティブエクイティになれば期限前弁済減少>IOにプラス、、ってわかりやすいですよね。でもネガティブエクイティが無くなった(モーゲージが下げ止まり、金利が低いまま、時間がたってネガティブ部分を返済し終わった)ら一斉に借り換え、、って考えた私はひねくれてますか、そうですか。一時的な短期ヒストリカルプレイ(とはいっても、最近株がらみクオンツは最近短期でないと効かないですけど)でないと稼げない、トレーディング環境なんですかねえ、、、。
ttori
2009/09/09 07:40
アメリカという国はいくらでも土地があるので、土地資産に対する希少性はないので、色んなしがらみのない、砂漠にリゾートを立てるのよ。ところが日本はなので、土地の資産価値のい考え方がコンポン的に違うのよ。だから今だのやくざがいるのよ。
西部開拓時代
2009/09/10 00:17
39歳無職さん、どうもです。そもそも過去にこれほどまで住宅価格が落ち込んで銀行が傷んでしまったことがなかったため、モデルが織り込めなかったということでしょうね。

その他さん、コメントありがとうございます。証券化商品や派生商品の中ではIOは比較的筋のいい方だと思います。それは実態のキャッシュフローの裏付けがあるから。

星の王子様さん、どうもです。そうですね、キダーピーボディーとかってのも結構有名ですね。槙原さんの「私の履歴書」、ワタクシも愛読しています。まあ本当にアメリカにお世話になったということでいろいろ納得することしきりです。

ttoriさん、どうもです。そうなんですね。わかりやすい商品。でもおっしゃるような可能性はあり得ますね。

西部開拓時代さん、コメントありがとうございます。確かに日米では土地というものに対する制度が根本的に違うと感じますね。
厭債害債
2009/09/12 11:18

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