厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 為替デリバティブ損失補填から妄想

<<   作成日時 : 2011/01/25 06:05   >>

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前回のエントリで「期末に金融機関が大変」みたいな話を政府関係者がしていたということをチラッと書きましたが、このことももしかしたら関係あるのかな?

昨年末ごろからいくつかの報道で示されていたようですが、先週から今週にかけての新聞報道でも日本のメガバンクとのデリバティブ契約によって会社規模に比して多額の損失をこうむる中小企業が多く、保有している企業の数が1万9000社にものぼるということで、金融庁がメガバンクに対し事実上の「損失補填」を指導しているという話が出ています。

ワタクシもいろいろ聞いたところでは、やはり120円といった円安時代にちょっと円高水準(たとえば110円とか)で長期に予約が出来るタイプの商品が中心で、メガバンクさんなどが輸入業者さんに積極的に売り込んでいたとのことです。ある意味きわめて単純で、円高になればそのまま大損になる商品です。仕組みも何も、円高になれば損をするという相当わかりやすい商品であり、仕組みが理解できなくて損失をこうむったというのとはおそらく違うでしょう。そういう商品で生じた損失について、金融庁が正面からしゃしゃり出てくる、このことにワタクシはまず相当強烈な違和感を覚えました。

まず、メガの側の説明の問題で理解をゆがめて取引に入らせたのなら、それは行政処分あるいは刑事処分などの問題であり、損失補てん以前に大きな問題となっているべきです。しかし、今回のケースはほとんどが金商法の施行以前の問題であることもあり、この点今のところ問題視されそうなケースはなさそうですし、先ほども書いたようにかなりわかりやすい商品であるとおもわれ、説明不足などというケースは少ないのではないかと思われます。契約自由の原則の下で、商行為を行う主体が自由意志の元で錯誤もなく契約を締結して取引に入ったとしたら、その経済効果はすべて当事者に帰するべきだと思われます。しかしそれは金融庁もきっと十分承知のうえで、やはり救済しなければならない大きな理由があったという推測が十分に成り立ちます。

考えられる理由のひとつは、メガと取引先中小企業との間でこういうデリバティブ取引を締結することが融資継続の条件とされたとか、要するに他の便益を中小企業が享受する前提としてデリバティブ契約が必要とされた、という可能性です。しかしながら、これは銀行取引の一部に優越的な力関係を持ち込んで別の取引を締結させるという点で、いわゆる「歩積み両建て」預金に近い性質となり、独占禁止法違反とされる可能性があると思われます。最高裁判例も出ているようなケースに類似した案件を、メガの銀行員が積極的にやっているケースは、皆無ではないでしょうが、それほど多いとは思いません。

二つ目に考えられる理由としては、損失があまりに広範囲の企業にわたっているので、社会的に放置することが困難だと判断したのではないか、ということです。たしかに19000社という数字は大きいし、損失金額も合わせると結構な額になるのかもしれません。しかし、そのロジックでいうと、為替がらみの投信や仕組み債だって相当な額が個人などに販売されていますから、そういう人たちも損が出たら救済しなければならない、ということになりそうで、その辺の整合性を取るのに相当苦しい説明が要求されると思います。

もちろん新聞記事ではあくまで「資金繰り」を支援するとなっており、本当の意味での損失補填までは多少距離はありますが、要するに資金支援がなければ倒産してしまうという状況でお金を出すというのは、本来慎重な判断を迫られます。「本業が健全な」といいますが、すでにこういう状況が長く続いてまともな投資も出来ず本業に影響が出ているような場合はどうするのでしょうか?また、別の理由で本業が傾いている場合は、原則に則って倒産させてしまうのでしょうか?この辺を区別しないで資金繰りをつける、というのなら今回のようなケースはまさにデリバティブ契約の相手先となったメガが資金繰りをつける(つまり決済を先延ばしすることとまったく同義)という点で、一定の貸し手責任を強い形で指導したものと理解できます。

とはいえ、金融商品会計のルールとしてはデリバティブは基本的に(ヘッジ会計などを使わない限り)時価評価の対象になるわけで、このことは2000年以降決まっています。輸入企業が将来のキャッシュフローに当てることを前提としてヘッジ会計を使えばそれはそれで問題がなかったはずなのです。そもそも契約当時仮にドル円が120円だったとして110円の長期予約を結んだとして、それはその企業が110円でもいい(やっていける)と思ったからやったのだ、と理解するのが普通ではありませんか?もっとややこしい金融商品だったら、それは「だまされた」とか抗弁できるけれど、いろいろな人の意見を聞いても基本線は「まさかそこまで円高が進むと思わなかった」という勝手な相場観を前提に単純な長期為替予約(スワップ)取引に入っただけなのです。この辺は為替のエクスポージャーがある企業であれば、将来キャッシュフロー見通しも含めた当然の「経営判断」としてやることであり、厳しいようですがそれは今の世の中では「自己責任」ということになっているのです。

もちろんその過程で銀行の側から圧力なりいい加減なアドバイスなりはあったのかもしれませんが、それはそれ自体を厳しく精査して取り締まるべきで、じっさいにそういう行為が判断をゆがめていて錯誤無効や詐欺取消が適用できるようなケースではそれを適用するのが正しい。そうではないケースで、なぜ当局が介入してくるのはやや奇異な感じはどうしても免れないと思います。

ただ、ひとつ気になったのが、日経の記事にあった「満期前後で損失の全額処理を迫られている企業」という記載で、要するに具体的な外貨キャッシュフローの裏づけがないままデリバティブ取引に入っていることがなんとなく伺えます。契約当時厳密には違法ではなかったとはいえ、そういうことをメガバンクの側もある程度理解して取引をしたというなら、やはり「適合性」を欠いた取引をさせたそしりはメガにも免れないでしょう。そして本来各期で計上すべきだった損失を先送りしてきたともとられかねない記述でもある点、興味をそそります。為替予約などでは昔はHRR(ヒストリカル・レート・ロールオーバー)というのが普通に行われていて、いわゆる決済期日の延長を認める取引慣行です。たとえば1年先決済のドルを120円で買う契約を結んで実際1年たったら100円になってしまった。決済すれば20円の損が実現してしまう。実現させたくないと考えた顧客が銀行と合意して120円のまま(実際はスワップ金利を調整するのでレートは異なる)さらに決済期日を先送りするということです。90年代初めには少なくとも金融機関同士ではこの慣行は会計上の操作につながり企業の健全性を損なう上、不要な与信が双方に発生しシステミックリスクにつながりやすいとして廃絶されました。賢明な方はすぐお気づきになったと思いますが、今回の記事にあったように損失をしている企業について「資金繰りをつける」行為は会計上の損失を計上するかしないかの違いはあっても資金的にはHRRと同じ事なのです。記事ではもっと直接的に「償還時期を事実上先延ばしする「猶予策」」まで検討されているとされてますし、もう寄付としかいいようがない「軽減策」も候補に上っているということですから、会計や税務の困難さをどこかへ吹き飛ばすくらい、必要に迫られている様子が見て取れます。ところで「満期前後で損失の全額処理を迫られている企業」という表現は、深読みすればすでに部分的に損失の先送りをやっていたとも読めます(誤解だったら謝ります)。そうでないにしても、こういう商品が大量に出回っていることは金融庁検査などを通じてとっくに理解されていると考えるのが普通であり、これがいままで表面化してこなかったこと自体、やや奇異に感じるのです。すでにある程度当局が状況をこれまでから把握していた(あるいは何か具体的な指導もしてきた)内容であるからこそここまで介入せざるを得ない、という見方も出来ます。(あくまで想像です。)

さらに想像を膨らませると、中小企業のうちにはかなり日本の経済の将来を担うべき重要な技術をもっていたり(まあ基本は輸入じゃないかもしれないけれど)するということで戦略的につぶしてはならないという判断がどこかであったとか・・・まあ金融庁さんの仕事ではなさそうですから、たぶんそれはないでしょう。

新聞報道などからしか事情がわからないワタクシなどの目からは、金融庁がこの件で介入してくるのは相当無理筋に見えてしまうのですが、おそらく何か相当重い、こういう介入をしなければならない背景があるにのでしょう。だからそれ自体はとやかく言う筋合いではなかろうと思いますが、とはいえ、会計のルールや税務にもかかわりかねないやり方で当局が指導に入っている点について当局の側からある程度納得のいく説明がないと、どうして中小企業が救済されて個人は救済されないのか、とか、経営判断のミスを銀行が肩代わりするのか、とか今後の議論がどんどんややこしくなってしまうような気がしてなりません。

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コメント(13件)

内 容 ニックネーム/日時
昔の同期と飲んでいると、当時は不良債権処理の財源確保が目的で、「手数料収入」だの「投資銀行収益」だのを計上するため、銀行保証付私募債だの為替デリバティブだのをはめ込んでいましたが、今はその過大に取り過ぎたクレジットリスクの後始末で、メガの現場はどうも大変なようですよ。
元R
2011/01/25 06:39
-----------投稿 「ネバダ・レポートを検証する」(竹本秀之)--------
 ネバダ・レポートは出所もわからない怪文書である。その内容は、2001年に日本の財政破綻を既に見越した国際通貨基金(IMF)あるいはIMFに近い筋が、 日本の財政破綻後の再建策をシミュレートし作成したものと言われている。ここではできるだけ「陰謀論」を排除して確認できる事実から私なりの分析をしてみたい。

 ネバダ・レポートを扱っている多くのサイトが、「IMFはアメリカの代理人」と見なしている。アメリカが最大の影響力を持つという意味では、この指摘は正しい。
 一方で、現在、菅直人内閣で財務副大臣を務めている五十嵐文彦民主党議員が、国会でネバダ・レポートを元に自民党政権を追及した2002年当時、総理大臣は小泉純一郎だった。

「はめこみ」ですか?
しろうと
2011/01/25 09:21
 最後に2点、指摘する。多くのネバダ・レポート・サイトが
「2005年1月20日、政府の経済財政諮問会議が行われ、「構造改革が進まなければ」 日本は5年後に財政破綻する」
 と付け加えている。
 もう、5年経っているが、日本は財政破綻していない。むしろ2010年、長期金利が1%を割るまで国債が買われた。少なくとも、この部分は明確に間違っていた。だが財政破綻派は間違いを認めず責任も取らない。
 また、五十嵐民主党議員の行った行為、すなわち国会という日本最高の意思決定の場において、出所不明の怪文書を出し、与党を問いつめるというのは、議員としてあまりに稚拙だ。まさに見逃された「永田メール」だ。
 そうじゃない、ちゃんとした文書だというならば、五十嵐副大臣はご自分が保有されているネバダ・レポートなるものを公開すべきだ。

見当外れならごめんなさい。
しろうと
2011/01/25 09:25
元Rさんのいうことは核心をついていますが、他にもあります。
1.営業実績のカウント上、前倒しで利益計上できたことです。
2.主として金利スワップのプレーンバニラおよび為替予約のセット予約です。
為替予約については直接エクスポージャーポジション及び外貨キャッシュフローを伴うもの以外にも、たとえば仕入商品や輸出見込の原価及び売価のヘッジで、ゼロコストのものも含まれます。つまり中小企業にとっては、締結当時は為替スワップの金利差分を享受できる環境にあり、ゼロコストで、キャッシュフローが入ってくるという意味で、セールスを拒む理由はなかったはずです。そういう意味では適合性に問題があったのは間違いありません。
妄想ついでに
2011/01/27 22:14
妄想ついでさんの妄想は結構当たってる気がします。
いわゆるショートファングを為替がらみでやった結果が、想定外?の円高に触れたので、メガのお客様にご迷惑という感じですかね。まーよくやる手ですが、フルヘッジというのは、現時点のポジションだけの話で、期間的な意味においては、5Yの長期スワップの為替ヘッジは手前の3Mだけということで、後の4年9カ月は真っ裸です。
かる
2011/01/28 23:04
元Rさんコメントありがとうございます。こういうクレジットリスクの部分について当局が持ち越しを指導した場合、分類資産になるのかどうか、とても興味があるところです。

しろうとさん、コメントありがとうございます。おそらく当時の議論はあまりにも稚拙だったということでしょう。ただ、破綻はしないものの長期的なリスクはどんどんたまって言っている状況であり、経常黒字が赤字になった場合持続不可能となる可能性は(だいぶ先ですが)残っているとは思います。

妄想ついでに、さん、コメントありがとうございます。やはり適合性の問題なのですよね。

かるさんどうもです。いずれにしても企業規模に対してかなりのエクスポージャーになりますね。
厭債害債
2011/01/31 03:24
ここだけの話なんですが…、貸出が伸び悩み資金収益も低下する中で、どうやら収益のせて解約させるのがかなり横行しているようです。で、その資金も借りさせれば、1回で2度美味しいし、次期のハメ込み余地が出来る。今回の背景はむしろこっちが本筋かと。今まさに爆発している私募債みたいなもので、5年後には大変になるんでしょうけど、その頃にはローテーションで誰も関係者は残ってないんでしょうね。
元R
2011/01/31 22:05
元Rさん、どうもです。なるほど、そういう背景もあるのですね。今回はもはや解約の体力がなくなった企業への対応が問題となっているようですが、それ以外にもそういう相手先がたくさんあるのでしょうね。
厭債害債
2011/02/01 01:06
某社は輸入が無いのにも係わらず、銀行の勧めで購入した為替デリバティブで年間2億4千万円の直接損害を被っています。 倒産が目の前に迫ってきているので、ドルの買入を停止するように勧めました。 
政府にとってこの問題を放置出来無い理由が2つ考えられます。 第一に、銀行が販売した商品により、中小企業に損害が生じ、税収が減少していることです。 第二に、この商品は高リスク商品であるために、優良な中小企業をターゲットとして販売されている事です。 昨今の円高で、これらの中小の優良企業が経営を存続出来無い常態が生じているからです。 つまり、優良な中小企業が存在出来なくなる状況を生み出し、国力に問題が生じる事です。   
宇宙人
2011/02/01 16:27
商品設計上そんなに売れるとまずい商品ですよね。企業の仕入価格が相場変動、販売価格が円高時円安時両方にスティッキーという場合にヘッジになる。一方で、それが当てはまる企業は弱い。なぜならば、相場変動を転嫁できない、価格決定力が弱く付加価値が低いということになります。そういう企業に販売するならば真に値うちある商品ですが、そんなレベルの販売量ではない。であれば単なる投資です。リスクは相応にある投資にも関わらずロスカット(解約)ができない商品性。目先の利益に目がくらんだ経営者も失格ですが、もし仮に投資と分かっていながら銀行が販売したならそれも大いに問題ありですな。ロスカットできない投資商品を、これから末永く付き合っていきたい友人に売りつけますかね。

ただ、これも結果論で、低ボラティリティが作ったキャリー相場の中で起きた悲劇ということも言えるかもしれません。
日本人がリスクを取る根性が復活する日を願...
2011/02/03 13:16
宇宙人さん、コメントありがとうございます。優良中小企業や納税している中小企業にそれほどの影響が出てしまったのなら、確かにちょっと罪は大きいかもしれませんね。

日本人がリスクを取る根性が復活する日を願って、さん、コメントありがとうございます。さまざまな点でやはり適合性を欠いていたというしかないのでしょうね。低ボラティリティーはいつもコンプラセンシーと合わさって妙なバブルとその破裂の源泉となってしまいます。

厭債害債
2011/02/06 16:57
2月3日の方へ。 

”ロスカットできない投資商品を、これから末永く付き合っていきたい友人に売りつけますかね。” 

そこが問題なんですね。 当時銀行が持ってくる商品はこれ以外にありませんでした。 そして大量に販売したわけですね。 金融知識の無い中小企業の客が、この商品がどう見えるかと言うと、当時の状況では円安に傾いた時でも、仕入単価がFixできると言うことなんですね。 仕入れ価格が上がっても価格転嫁が出来無いので、そこが中小企業側の弱みです。 加えて、日本的な商習慣の中で銀行との取引を考えると、客側である企業は銀行との関係を維持するために、この商品の買入を行っています。 

解約が出来無い商品であり数年の為替変動リスクをお客に背負わせても、当時銀行は自分の成績の為にこの商品を売り続けてるんですね。 ある例では、自分のリスク分はノックアウトを付けていて、客側のリスク側にはノックアウトが付いていません。 自分のリスクは回避しておいて、青天井で客に博打を打たせて、手数料を稼ぐ様な品性を欠く商品でしたね。 金融機関は為替が変動すればどのようなリスクが存在する絶対に知っていたはずですが、そこは明示してません。 仮にですが、為替が変動した時に生じる実損の額を提示されたら、中小企業はこの商品を買わなかったはずです。 銀行の儲けの仕組みについても説明はまったくありませんでした。 







宇宙人
2011/02/16 17:09
宇宙人さん、コメント補足ありがとうございます。
厭債害債
2011/02/17 01:54

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