厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 経済価値ベース規制について

<<   作成日時 : 2011/04/19 19:55   >>

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おもに保険のほうの話だが、欧州ではいわゆるソルベンシーIIの議論が進んでおり、QISといわれる定量的影響度調査も5回目となり(QIS5)これが最終版となるようで、いよいよ導入に向けての秒読みが始まっている。「金融財政事情」では4月18日号でこの特集をやっており、金融庁の植村さん(知る人ぞ知る元R&Iの切れ者)や日本のトップ生保、カタカナ生保、最大手損保の担当者が集まってキャピタスの森本さんがコーディネーターを勤めた座談会が掲載されている。

ソルベンシーマージンというのは、銀行でいう自己資本規制のようなもので、保険会社の自己資本とも言うべき支払い余力(ソルベンシーマージン)合計額をリスク量(1/2で計算)で割った数字が200%を下回らないようにするルールである。保険会社は通常予想される範囲のリスクに対して耐えられるように利ざやを持っており、それがいわゆる死差益であったり利差益であったりするのだが、大規模災害や大幅な運用環境の悪化という「通常の予測を超えたリスク」に対してどの程度自己資本や準備金などで支払い余力があるか、を示すためのルールがソルベンシーマージン規制であり、一定の水準を割り込めば監督官庁から早期是正措置が発動される。理屈の上ではそのようにして契約者保護が図られる
しかし、日本でソルベンシーマージンが導入されたのは1996年だが、その後規制当局の意図した最低水準(200%)からかなり余裕のある生損保が数多く破綻した。つまり、契約者保護といった目的からは必ずしも十分な警告装置とならなかったわけであり、監督当局は2010年4月にソルベンシーマージンの「短期的な見直し」を行っている。ここで短期的な、ということの意味は、おそらく「経済価値ベースのソルベンシー規制」の導入が視野に入っているということであり、その背景に先ほど書いた欧州のソルベンシーIIの動向が大きく影響していることは疑いがない。

経済価値ベースのソルベンシーとは「市場整合的」な方法で求められる経済価値をベースに計測される。
経済価値ベースのソルベンシーと現在のソルベンシーとの最大の違いは、これまでのソルベンシーが保険負債を現行の規制・会計ベースの設定時の予定率でロックインする方式で計算しているのに対し、経済価値ベースソルベンシーでは負債も資産もすべて現在価値に割り引いて同じベースで比較するということである。一言で言えば、現行規制は資産価値の変動がモロにソルベンシー比率の上下に効いてくる(資産価値が上がって含み益がふえれば単純にソルベンシー比率が上がることが多い、すなわち金利が下がってその他保有目的の債券の含み益が増えてもソルベンシー比率は上がる)のに対し、経済価値ベースだと金利の変動は負債の割引率の変動としても効いて来るので金利が下がると負債の現在価値が増える。つまり、金利の低下が必ずしも純資産の増加につながらない。もっといえば負債のデュレーションが資産のデュレーションより長ければ、金利低下は会社の経済的な資本を毀損する。

上記の座談会に続く形で掲載されていたソニー生命の方の論稿が大変興味深かったのだが、2007年までの同社の運用は、既存の規制と会計の枠組みの中で金利リスクを警戒し「おおよそALMとは対極の投資行動」だったという。すなわち短いデュレーションの債券を中心に運用し、収益を補うために金利オプションを売るなどの「金利リスクを高めていた」行動だったという。しかし、親会社の方針が大きく転換し、ソニー生命のIRで用いるEVをMCEVに変える決定を行った結果、金利感応度が極めて高い(金利低下に極めて脆弱)ことが判明。おりしも2008年度は不幸にも金利低下が実現し、「MCEVが半減」した結果「内部管理基準で資本不足」に陥ることになったという。興味深いのはこの段階で「法定ソルベンシーマージン比率は2000%を超えていた」のだそうだ。

このことからわかるように、従来のソルベンシー規制と経済価値ベースのソルベンシー規制はまったく違った行動を大手の投資家に要求することになるという理解が必要だと思われる。実際には生命保険会社などは着々とそれに供えた行動をとっており、昨年度の超長期債市場ではこれまでにないレベルでの生保の買い越しが目立っていたし、株式市場ではかなりのレベルでの持ち合いも含めた株の処分が行われているようである。おりしも経済価値ベースのソルベンシー導入に向けて2010年6月には全保険会社に対しフィールドテストの実施が指示された。このフィールドテストは多くのパラメーターが当局から指示されたものであるものの、これによって実施に向けての実務的な論点などがいっそうクリアになり、各社も本気モードに入りつつあるというところだろう。

ただし、欧州のQIS5からは、まだまだ一筋縄ではいかない欧州の実態も垣間見える。QIS5はEU圏内保険会社の68%が参加したといわれるが、参加した保険会社のうちの14.9%が監督当局の介入基準水準を下回るソルベンシー比率となり、さらに4.7%の会社は認可基準となる最低水準さえ下回ってしまう結果を示す結果となったという。またソルベンシーIIではソルベンシーの計算上標準的手法のほかに内部モデルの利用が認められる。これが認められるための条件みたいなものは、また大きな議論になると思うが、一般論として大規模保険会社においてはサプラスが標準的手法に比べて多めに出しやすいというメリットがあるという結果も示されている。

冒頭で紹介した座談会のなかでも、日本の最大手生保の方からのコメントは経済価値ベースの規制を直ちに導入することに対してやや慎重に構えているように思える。経済価値ベースは「見積もりの要素が大きいことから、規制に導入して行政介入のトリガーとすることには慎重であるべきだ」というその方のコメントにも大いにうなずける。この点については、問題点として共有されているように思え、日本での導入までにはもう少し議論が必要であろう。

いずれにしても、保険の規制はIFRSなども巻き込んで今後数年間に大きく変わっていくことが予想され、それに伴う投資行動の変化もまだ終わってはいないようにように思える。

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