厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 生命保険会社が超長期債を買う理由(追記あり)

<<   作成日時 : 2011/10/12 05:55   >>

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ツイッター経由で以下のような記事を見つけました。筆者のかたの氏素性はわかりませんが、いまだにこういう理解なんですかね。

http://agora-web.jp/archives/1390664.html
「あなたの生命保険は大丈夫?〜超長期国債依存が進む生命保険会社」



この記事では最近主要生命保険会社が超長期国債を大量に購入しており、資産全体に占める割合が急にふえている点を指摘し、金利が上がった時大きな損失がでる危険性を指摘しています。

ご心配はごもっともですが、やはり物事の一面だけを表層的にとらえていることが否めないですね。

やはりこの議論をする前提として、いま保険の世界で議論されている欧州のソルベンシーIIや今後導入される可能性のある経済価値ベースの規制、あるいはIFRSといった問題への理解は不可欠で、そういう点に全く触れていない(たぶん知らないのでは?と思いますが)この記事はかなりミスリードといえます。

生命保険会社は確かに資産のデュレーションを伸ばしていると言えると思いますが、それは負債サイドの長いデュレーションに合わせていかなければ、経済価値ベース(負債も時価評価する、と考えていただければわかりやすい)で金利変動に対するバランスシートのボラティリティーが大きくなってしまいます。しかも超長期の負債に対して国内債券市場の超長期ゾーンのアベイラビリティ―が少ないなかで、せめてそれに近いものを必死で増やしてきたのが実情。それでも多くの会社ではまだ負債デュレーションに対して資産(固定金利資産部分ね、とりあえず)デュレーションが短い状況なので、経済価値ベースでみれば「金利低下が会社の純資産に悪影響を及ぼす」状況です。上記記事の結論は、今後予想される経済価値ベースでのコントロールからみれば、全く逆の結論になってしまうのです。ALM的な観点が必要なのです。

さらにこの記事は責任準備金対応債券区分や満期保有区分について簡単に触れられていますが、おそらくその意味を十分に理解していないのではないかと思われます。記事でわざわざ数字を取り上げた日本生命は国内公社債のほとんどを責任準備金対応債券で運用しているはずです。これはALM的に資産デュレーションを伸ばさざるを得ない生命保険会社のためにつくられたような制度です。まさに負債が時価評価できないがために責任準備金対応債券にいれることによって一定の条件のもと資産(債券)の時価評価を避ける必要を認めたからできた制度です。「損失が表面化しようがしまいが、資産が裏側で劣化するのは同じこと」とありますが、裏側を見るなら負債側も見てもらわないと。

しかしながら、ついでに言っておきますが、このALMというのはとりわけ国内の伝統的生保にとってかなり難しい作業です。伝統的に資産の中には株式や不動産など固定金利商品以外のものも多いため、こうしたものと負債のデュレーションを合わせるのは困難だからです。また仮にポートフォリオが長期の債券だけで構成されていたとしても、負債と資産のデュレーションを機械的に合わせればいいというものではありません。保険商品というのは一般的に解約オプションがついています。たとえば長期の年金保険など将来の固定キャッシュフローを期待する商品の場合、金利が上がるとお客さんは解約してより有利な商品に乗り換えるインセンティブがわきます。で、実際に解約が生じてキャッシュアウトとなれば、保険会社はその時に保有する債券を売却して解約返戻金の資金を作ることになります。ところが、解約は金利が上がった時に生じているため、債券の売却損が出やすくなっています。本当に怖いのはここなんですね。というのは、解約というのは極めて「人間臭い」部分があって、担当者が好きだとか嫌いだとか、たまたま電話をかけた時の保険会社の対応が悪いからだとか、いわゆる消費者心理に依存する部分が大きく、また一般的な消費者が保険に対してとる行動の金利感応度がそれほど大きくないと考えられるため、非常にモデル化しづらいのですね。(まあそれでも無理やりやるんですがどうせ間違ってるだろうし・・)。また、いい金利上昇か悪い金利上昇か、で債券以外の資産の価格の動きも変わってくるでしょう。この相関はなかなか読みづらい。
まあ、この辺の話は最終的には資本の厚みを増すことで対応するしかないでしょう。

だから、保険会社にとって金利上昇が恐ろしいというのは結論としてはあっている部分もあるのですが、上記のような色々な要素があるのであって、単純に超長期の債券が金利上昇でやられるから、という議論だけではないのですよ。

まとめますと、現在の会計制度や規制を元にすれば、確かに金利上昇がマイナスに働く会社もいくつかありそうですが、想定される経済価値ベースの考え方では金利上昇はむしろ純資産の増加要因となるということです。ただ、一方で金利上昇時の消費者行動が読み切れないがために、商品構成によってはALMが大変困難になり、場合によっては損失の原因ともなりうる、と言ったところでしょうか。

せっかくいろいろ数字をお調べになった努力は認めますが、物事はこの記事にあるほど単純ではありません、とだけ申しておきましょう。

(追記)
どうしても金利上昇が保険会社にとって大変だぁぁぁぁとおっしゃりたいのであれば、たとえば第一生命の株価と10年国債の金利を重ねて見てみてはいかがでしょうか?EV(まあおおよそ経済価値ベース計測での企業価値)でみたら金利低下が株価低下=投資家にとってのリスク増大となることがわかっていただけるのではないかと思います。まあ、因果関係は別かもしれません、と一応申し添えておきますが。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
リンク先の記事は、地銀の国債リスクを受けての物だったと思うのですが、地銀についてはどう思われますか?
地銀
2011/10/12 17:33
地銀さん、コメントというかご質問ありがとうございます。銀行さんのほうはもともと期間のミスマッチのリスクをとり収益を上げるのが仕事でもありますが、コア預金みたいな概念をうまく使うことでリスク管理ができているといえばいいのだと思います。
おおむね調達が安定的に行われている状態(つまり取り付けなどが起こらない状態)であれば、多くの状況において短期の調達コストが中期の運用リターンを上回ってしまうこと(カーブが逆転したりすること)が起こりづらいので、資産側の価格変動リスクがマネージできる範囲であれば、という限定つきですが、まあ大きな問題にはならないのではないか、と考えています。流動性の管理が重要になりますが、適度に満期保有などを組み合わせていけばよいのだと思います。もちろんあまりにも預証率が高いと、リスク管理が難しくなりそうですが。正直銀行さんの意識はワタクシもよくわからないところが多いです。
厭債害債
2011/10/12 19:42

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