厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS スワップ取引と国債担保

<<   作成日時 : 2011/11/12 11:44   >>

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http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819591E0EAE2E3818DE3E2E3E3E0E2E3E39797E3E2E2E2;at=DGXZZO0195164008122009000000

金曜日の日経の第4面(だったかな)に出ていた記事をみて、ちょっとぎょ!と思った人も(特に関係者)いたかもしれません。ワタクシも実はその一人でして、ちょっとお知り合いの人々に問い合わせをするなどして確認してみたところ、結果的には完全に間違いではないが、かなりミスリードの記事であるという結論となりました。

まず、スワップなどのデリバティブ取引についての基本的構造を理解する必要があります。基本的に「契約自由の原則」があるので、まあ違法であるとか公序良俗などに反しない限り、責任ある当事者がどのような合意をされてもかまわないのですが、それではまあただですらややこしいデリバティブ取引の詳しい話をその都度一から詰める必要もあるまいということで、ISDA(国際スワップデリバティブズ協会)が基本契約書のひな型(業界ではイスダと呼ばれる)を作って、それを使うことが原則となります。日本の金融機関との間ではまあ英語を読むのが面倒だとかとにかく条項がややこしいからとか色々な理由でいわゆる「ギントリ」(銀行取引約定書=日本の銀行との取引約款)を使うことを好む当事者も多いようですが、世界の主要金融機関はおおむねISDAに準拠するのが慣行。最近は決済リスクを避けるために決済は清算機関を使うように流れができ始めていることはご存じの通りです。

結論から言えば、今回のISDA会長(現在のモルガンスタンレーのトップでもある)の発言記事はどうやら「今後のISDAマスター契約書(およびその付属書のひな形)を変える際に、その基本形としては現金担保だけを記載する、といったレベルの話だと思われます。

いうまでもなく、当事者が結んだ契約は、それが期限を迎えるか破棄されるなどして効力を失うまで有効でありますが、ISDAの基本契約書には期限がない。もちろん特約で付属書(スケジュールと言います)で期限を定めることはたぶんオッケーでしょうが、誰もそんなややこしいことはしないので、基本的に期限のない契約です。となれば、これまでのマスターやスケジュールで国債を担保に使うことが認められているのであれば、それを破棄しない限り当事者間で有効であり続けることに変わりはありません。

話が混乱しやすいのですが、一般に「取引所取引」や「清算機関」の担保適格の問題とは違う次元です。取引所や清算機関は取引の安全をはかるために厳格に担保適格をはめる。こないだからイタリア国債などで議論になっているLCHの話などまさにそれです。取引所取引や清算機関経由の魅力の一つは取引所を介することで真の相手先のカウンターパーティーリスクを負わないことだからです。その代わり取引所は相当な事態となっても決済ができるように担保を厳格に徴求する。しかし、ここでのISDAの話はあくまで「相対取引」に適用される合意書で担保をどうするかという問題でありまして、極論すれば、こういう話が出て仮に「ひな型」が国債担保を認めない方向に変わっても、当事者同士合意すれば特約で国債が担保として使えることを盛り込むことはできると理解されます。

さて、話を記事に戻しますと、「邦銀コスト増に」とあります。そうでしょうか?邦銀はすでにほとんどの金融機関とISDAや担保契約書(CSA=Credit Support Annex)と呼ばれる契約書を取り交わしており、その中で担保について国債が対象になることを明記していると思います。それをあえて変える必要もないでしょうし、日本の場合現金担保については次のような制約があるようなので、積極的に替える理由は見当たらないでしょう。

平成23年度税制改正に関する全銀協からの要望書から抜粋

「また、金融機関等はデリバティブ取引を行うに当り、一般的に国際スワップ・デリバティブス協会(ISDA:International Swaps and Derivatives Association)が定める付随契約(CSA:Credit Support Annex)を締結し、現金・国債等を担保としている。
 現在、現金を担保として授受している場合、担保提供者(ISDAマスター契約の対象取引は本店・支店が混在するが、通常、担保提供者となるCSAは本店のみ)に対し、受入れ期間に応じて現金を支払うが、これについて源泉徴収が行われている。しかし、わが国金融機関が信用リスク削減等のためにデリバティブ取引を円滑に行うことを可能とし、ひいては金融・資本市場の類似取引(例えば、レポ取引のように有価証券取引に関連した現金授受)との整合性の観点から、源泉所得税を課さない扱いとすることが必要である。
 したがって、金融機関等が行うデリバティブ取引に係るマスター契約およびCSAにもとづき授受する現金担保から生じる支払現金について、源泉徴収を免除することを要望する。 」



邦銀が外国銀行からの強いプレッシャーによってそのCSAを変更させられる可能性ですが、上記の問題がクリアされるのであれば、むしろ邦銀のほうが特に欧州の銀行との間で「国債担保」を拒否したいのではないかと推測します。我々のところにしばしば持ち込まれる案件は、変動担保レポで、要するに一定の品貸料と引き換えに国債を欧米の金融機関に貸し出し、その代わり欧米の金融機関は「A格以上の債券」という縛りで担保を入れる。これは一つのやり方ですが、その場合の品貸料は通常の現金担保のものよりはるかにいいわけで、「格付けはいいけど流動性がいまいち」の資産とくに今の欧州の国債などについて積極的に使いたがっているのはむしろ欧米の金融機関の側です。まあそれでも色々な事情で欧米金融機関の側から断ってくることもあるかもしれませんが。

というわけで、邦銀の側で、今般の欧州ソブリン危機などをうけて積極的にCSAを結びなおすことで国債担保がつかえなくなり、その結果現金担保になって源泉徴収義務が課せられ、負担増となる、というのなら、まあわからないわけでもありません。そして、実際そういう風に替えようとする当事者も出てくることは自然なことです。また清算機関経由ならば影響も出るかもしれません。しかし、その多くは相対の世界であり、清算機関も今に始まったことではないし、それはISDAの会長が言っていること(相対取引の担保の標準化において国債を除外していく)とは直接の関係がなさそうに思います。

とはいえ、まあ国債もそういう時代に入ったのだなぁという感慨にふけるべき事実であることは間違いありません。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
ISDAの話を受けて集中清算機関も国債担保を認めなくなった上で、集中清算機関利用の義務化が始まったらどうなるんでしょう?
ISDAの標準化したCSAに現金担保しか認めない状態で集中清算機関は国債担保を認め続けるのでしょうか?
教えてください
2011/11/12 15:48
ワタクシも専門家ではないので正確な情報はお伝えできないかもしれないのですが、個人的にはいますぐに清算機関が国債担保を全く外すことはないのではないかと考えます。いまそれをやったら本当に大変なことになってしまいますから。
ただ、「国債はこれまでの国債ではない」という発想の転換がCSAでも清算機関でもじわっと効いてくるのではないかと考えています。基本的には騒ぎが落ち着いてからだと思いますが、さていつになりますか。
厭債害債
2011/11/13 08:20
私も今回の話は、徐々にじわじわと聞いてくる類のものだと思います。実際に、ISDAが11月3日にプレスリリースを出しているのですが、"The SCSA is a market-driven initiative with a flexible implementation approach that allows firms to move at the pace they deem appropriate."と市場参加者がやりやすいように標準化を進めるとしています。
URLはこちらですhttp://www2.isda.org/standard-csa/

怖いのは、LCH などの国際集中清算機関が現金担保しか認めなくなってしまい、LCH とのリンクを考えているJSCC なども現金担保しか認めなくなり、結果的に国内のスワップ市場参加者が限定化されてしまうといったところでしょうか。または、「国債担保だから非標準的なスワップなんです」ということがまかり通ってしまって、集中清算機関の利用が流行らないとか。
税務上の法整備も含めて、成り行きを見守りたいです。
ご質問に答えていただき、ありがとうござい...
2011/11/13 10:51

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