厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS ある会社の話

<<   作成日時 : 2015/06/25 08:14   >>

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J社。70年ほど前に強引かつ無謀な拡大路線で経営破たんし、大きなスポンサーに救われて再出発した会社である。もともと技術力はぴか一だし労働者の質もいいので、その後一時は飛ぶ鳥を落とす高成長企業として世界からもてはやされたが、基本的に動きが鈍いなぁということとかなり均質的すぎて新たな挑戦とかが生まれないのが課題で、成功体験に酔っているうちに人材育成問題などをおろそかにした結果、労働者の構成年齢がどんどん上がって行って高コスト低生産性体質となりつつあるという評価が定着している。最近ではいくつかの点で新興企業群の後塵を拝しつつある。

この会社は、その破たんの苦い体験から、新たな出発時に定款で事業の範囲を厳しく限定した。いうならば、会社は海外では積極的に事業展開をしないといった内容の定款を作成し、当時の株主はこれをもろ手を挙げて支持した。もともと海外勢もJ社との競争に疲れ果てていたこともあり、海外でもJ社と積極的に協力して共存するといった関係が展開され、J社は繁栄を享受できた。

ところが、ここ10年ぐらいの間にC社という新興勢力が安い労働力とパテントなどを無視したやり方で世界のマーケットに台頭してきており、従来のC社との共存関係が成り立たなくなった。実はJ社にはUグループという巨大な後ろ盾がいてこれまでC社など新興勢力や対立する勢力の台頭ににらみを利かしてきたが、Uグループもグループ内での不祥事などでいろいろガタガタしており、よその会社まで十分に面倒を見ていられなくなった。そこで、UグループはJ社に対し経営の強い自立性をめざすことと、それまでの間は緊密なグループ戦略、すなわちUグループの世界戦略の一翼を担うよう要請し始めた。もちろんJ社は、再生時に資金援助や人的な支援を受けているし、その後もなにかと新興勢力の邪魔が入らないように支援を受けているので、Uグループの要請はむげに断れない。

話をややこしくしたのは、数年前に就任したJ社の社長H氏で、もともと株主がいつまでも煮え切らない従来型の社長継承の流れに切れて、新しい派閥から役員の多数派を選出したうえ、そのトップH氏を社長に据えたのだが、新社長はこれまでの歴史を無視して、Uグループとの関係を白紙で見直すとか、いきなりUグループが潜在的なライバルと意識するC社と握手しに行くなど、そういうことをなんの前触れもなくいきなりやり始めたものだから、Uグループの怒ったこと怒ったこと。あいつは宇宙人だとかルーピーだとか言われる始末で、恐れをなした役員連中から早々と更迭され、その後任社長K氏も明らかな実力と人格不足でJ社が某工場で重大事故を起こした時の対応がまずく、これも早々に更迭された。

これで新派閥の経営陣の無能さを痛感した株主はあらためて旧派閥を経営陣に選びなおしたのだった。そこで新社長に選ばれたのが、現在の社長A氏である。彼は実は一度社長を経験し、健康問題と経験不足で早々に辞任せざるを得なかったのだが、実は家柄はある意味創業家の血筋である。株主もUグループも新派閥の経営の体たらくに飽き飽きしており、旧派閥への経営陣の交代はほぼ当然視されていたが、役員が変わる株主総会前に、新社長候補であったA氏はある大胆なプランを練り発表していた。それは子会社を使った財務戦略であった。一応巨大企業であるJ社はその子会社についてもJ社の信用力で担保されており、子会社が負債を発行することに何ら支障はない。そこで子会社に無制限な負債発行をゆるしその資金をその子会社の傘下の多くの企業にばらまき、その企業たちに一定の収益目標を与えたのである。極めて低コストの資金を与えられた企業群は、資金繰りに余裕ができて自社製品を当面安売りしても食っていけるようになり、競争力が増した。巧妙にも上記の一連の財務戦略では連結ベースの負債が大きく増えることになり、当然J社の信用力は低下するが、その分負債の評価下がり、巨額の負債の評価益が計上された。その評価益を巧妙に利用して子会社や孫会社に補助金を与え、連結業績とともに従業員の給与も上げるという作戦に出たのである。

このようにして株主や従業員の支持を得たのだが、A社長の真の狙いはそこではなかった。もともとC社や別のK社に対するA社長の対抗意識は尋常ではなかったが、そういう対抗関係を勝ち抜いてJ社を再び世界でのビッグパワーに返り咲かそうということであった。

しかし、J社には最初に書いたように定款で海外展開はしないと書かれている。歴代社長はこの点に関し、海外からの企業買収などに対する防衛策という点での海外への働きかけやコミットメントはあり得ても、自ら海外へ展開し企業買収や事業展開などをしないという意味である、との回答を繰り返し行ってきたし、それは一貫していた。定款の文言からそれ以外の解釈が難しいからであったし、そもそものこの定款を作った背景が海外戦略の失敗だったからである。

しかし、A社長はいきなりこの定款はそういうことを書いているのではない、と言い出したのである。つまりUグループとの関係においてJ社も含めた大きなアライアンスに対して脅威となりうる場合は、自ら出て行って海外で様々な活動を展開できると解釈しようとしたのである。

株主を含め、多くの関係者からは、それはそれで戦略としてはわからないわけじゃないが、ちゃんと定款を改正してからでないとまずいよねぇという批判が噴出した。この批判をかわそうと社長は第三者委員会を設置して、このプロセスの正当性を確保しようとしたが、第三者委員会自体がやっぱりまずいという結論を出してしまった。あわてた社長はこのプロセスが正当だという意見はいっぱいある、とか言い出して自ら作った第三者委員会の結論を否定しにかかるという醜態をさらした。実はもともと定款を変えなければいけないと考えていた節はあった。J社の定款変更は、法定よりも厳しい可決要件が定められていたのだが、これを法定の要件に緩和しようという案が一時期浮上していた。あきらかに海外展開に関する定款変更を企図していることが見え見えだったため、批判を浴びて沙汰やみになったが、このことからもA社長やそのブレーンたちがそもそも定款変更が必要だと考えていたことは明らかだった。

結局定款は改正されないまま、息のかかった役員が大多数を占める取締役会決議で海外での業務の可能性を認めた「業務規程」の改正が承認された。Uグループとの国際展開のアライアンスを前提にしたこの規程では、海外におけるそのアライアンスに影響の出る場合には積極的にJ社がUグループに協力して自らのイニシアチブで海外業務を行うことになっていた。しかしながら、海外で、しかも他の企業との競合関係の様々な側面を、こうした成文規程が描ききることは困難で、規程には多くの解釈の余地が残されていた。やはり多くの人が心配しているのは、かつて破たんしたJ社が同じ轍を踏まないか、ということだった。

・・・・・・

そして数年、事実としてUグループの一員として積極的に協力して海外で業務を行うようになって、事実上定款の文言はないがしろにされたが、直ちに問題は生じていない。せいぜい、国内だけであればかからなかった膨大なコストがかかると同時に、Uグループと対立するグループから完全にUグループの構成企業とみなされていろいろ嫌がらせを受けるようになったぐらいだろう。

しかし、J社の内部では大変なことが起こりつつあった。そもそもA社長の派閥に権力が移った株主総会で議決権の数がごまかされていることが発覚した。一部のシンパが多くの議決権を行使するように工作されていたというのである。これに対しても無効だという声も上がっていたのをしばらく無視していたが、裁判が起こされようやく問題が表面化しつつある。
また、A社長が業績回復に使った財務戦略の過程で大規模な粉飾まがいの行為があきらかになった。公式には粉飾とはまだ認定されていないものの、結果的に数年たってJ社は極端な財務戦略がたたったうえ、外部環境に依存した経営はその環境が逆転すると一気に悪化し、厳しい状況にさらされてきた。しかも、事業の継続性を考えずに高齢社員を優遇し続けた結果、若手社員のモラールは大いに停滞した。A社長の権威は地に落ちつつある。

しかし、定款も改正せずに行った業務規程の改正に基づいて展開されている海外事業は着実に拡大しており、すでに抜き差しならぬところに来ている。成長力がいまだに回復しているとみられていないなかで、回復のための財務戦略が行き詰った今、海外展開のコストの負担が大きくのしかかっている。

Uグループの一員とみなされほぼ事業展開上は運命共同体となってしまったJ社にとって、いよいよUグループから子会社化のオファーがでるのではないか、というのがもっぱらの噂である。

おわり。

(まあ寓話ですからあまりお気になさらずに。でも経営者としては他人事ではないなぁ。)



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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
N氏は飛ばしたのですね。
N氏も問題ありだと思います。
結局、旧派閥も新派閥も行き詰まり。
dai3212
2015/06/26 07:48
N氏は飛ばしました。ストーリー的にそれほど重要度がなかったもので・・・
厭債害債
2015/06/26 08:39
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