厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS 軍事産業への投資の是非(ある記事について思うこと)

<<   作成日時 : 2017/09/18 14:02   >>

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東京新聞に以下のような記事が出ていました。

(東京新聞より引用)9月17日電子版

GPIF年金運用 軍事上位10社の株保有 本紙調べ

公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、軍事部門の売上高が世界で十位以内に入るすべての企業の株式を保有していることが、本紙の調べで分かった。国民が支払う国民年金や厚生年金の保険料の一部が、武器の製造で収益を上げる世界の主要な軍事関連企業を支えていることになる。 (中根政人)
 軍事部門の売上高は、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が上位百社分(中国を除く)を公表している。GPIFが今年三月末現在で保有する国内外の株式を見ると、SIPRIの調査(二〇一五年時点)で上位十社に入った欧米企業の株式をすべて保有していた。上位百社中三十四社の株式を保有し、国内では三菱重工業、三菱電機、川崎重工業の三社が含まれる。
 保有する株式の時価総額(非軍事部門を含む)の合計は十社で約四千六百五十一億円、三十四社では約一兆三千三百七十四億円に上る。上位十社のうち米国企業は七社。一位のロッキード・マーチンはミサイル防衛システムやステルス戦闘機F35を製造。二位のボーイングは垂直離着陸輸送機オスプレイの開発を担った。四位のレイセオンは、米軍がシリア攻撃に使用した巡航ミサイル・トマホークの製造元。
 諸外国では、スウェーデンやノルウェーの年金基金は、非人道兵器の製造や環境破壊、人権侵害で問題が指摘される企業への投資を排除できるルールがある。GPIFは、委託を受けた運用会社が代表的な株式指数を基に、各国の企業の株を機械的に購入する仕組み。GPIF法など関連三法が購入先を恣意的(しいてき)に選ぶことを禁じているためだ。
 GPIFの担当者は「年金財政上、必要な利益の確保に専念するよう法令で定められている」と説明。厚生労働省の担当者は「特定業種への投資を禁止するには法改正が必要だが、法改正すべきだとの議論は起きていない」と指摘する。
 金融機関などの投資活動を調査するNPO法人「環境・持続社会」研究センター理事の田辺有輝さんは「株式保有が判明した軍事関連企業には、核兵器など非人道兵器の製造に関係する企業も含まれる。こうした企業の株式保有を排除できる法的なルールづくりが必要だ」と訴える。
◆紛争で利益 いいのか
 公的年金は、高齢者の生活を支える社会保障制度の中核。積立金を確実に運用して、利益を上げることの重要性は疑いない。だが、それだけでいいのか。
 GPIFによる株式保有が判明した軍事関連企業が本社を置く欧米の国々は、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦に有志国連合として参加するなど紛争に直接関わっている。
 各企業は紛争が激化するほど武器や装備品の売り上げを伸ばし、株価を上げる。株価が上がれば、GPIFの運用益も増える。
 増え続ける高齢者を将来養うための年金積立金が、国民の知らないうちに「軍事支援」に転用されている構図は、倫理上許されるとは思えない。
 現行法では、政治的な介入や担当者の恣意的な運用を防ぐため、業種を問わず企業株を自動的に購入する以外に選択肢はなく、こうした投資は排除できない。
 日本国憲法は前文で「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と宣言している。年金財源確保のためなら、他国で紛争を助長しても仕方ないということにはならない。国会でのルール見直しの議論が急務だ。 (中根政人)
(引用おわり)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201709/CK2017091702000126.html

要するに、GPIFが委託先を通じて投資している先の企業に軍事関連の企業が多く含まれていることを問題視する記事です。記事を書いた方は、「増え続ける高齢者を将来養うための年金積立金が、国民の知らないうちに「軍事支援」に転用されている構図は、倫理上許されるとは思えない」と書かれておられ、ある意味明確な価値判断のもとに、たとえば米国のロッキード・マーチンのような企業が投資先に含まれていることに反対しておられます。

ワタクシとしてはこの記者さんの描かれた記事は、まあ一つの価値判断としてはあるとは思いますが、総合的な社会の利害調整という視点で結論としては完全に間違っていると感じます。またこの記者さんがGPIFの運用に関する十分な知識の裏付けを持たずに書かれている点で、そもそもダメだと思うのです。

「増え続ける高齢者を将来養うための年金積立金が、国民の知らないうちに「軍事支援」に転用されている構図は、倫理上許されるとは思えない」という記事の書き方をみて、ああこれはだめだ、とすぐ思いました。年金運用が何のために行われているかについてすでに価値観の混在がみられるうえそれを十分に説明できていないからです。そもそも年金運用は受給者の受給権を確保するのが最大の目的です。まさにこの記者さんは「増え続ける高齢者を将来養うための年金積立金」という書きぶりによってそれへの意識が強くうかがえるのですが、後段でその投資が「軍事支援」に転用されていると勝手に決め付けておられそういう企業への投資がダメだと断じているのです。もしそういう企業への投資のほうが儲かるとしたら、前段の書き方だと逆にそういう企業に投資すべきであるという結論になりそうです。

とはいえ、最近はESG投資(環境への取り組みE、社会課題への取り組みS、企業ガバナンスGに優れた企業を選別して投資するという手法)のメインストリーム化がいわれていて、GPIFもその一つのシンボルである国連のPRI(国連責任投資原則)に署名しており、これを機に多くの日本の機関投資家も同様に署名してESG投資を促進する時代となっていることも事実です。ESGの視点では、環境や社会に悪影響を与える軍事の問題は(人を殺し合う可能性という意味でも)ネガティブな要因として取り扱われる可能性があり、そういった企業を排除する例えばネガティブスクリーニング的なESG投資も十分考えられます。その意味でこの記事のいうように軍事産業への投資を控えるべきだ、というのは一つの考え方となりえるでしょう。

しかしながら、GPIFさんの組織目標は、担当の方が記事の中で答えているように「年金財政上、必要な利益の確保に専念するよう法令で定められている」ということで、やはりどのように受給者のために財源を確保していくかが最優先であります。これはいいかえると「受託者責任」ということです。もともと米国にはELISA法というのがあり、年金運用はもっぱら受給者の利益を考えて行うべきといういわゆる「受託者責任における忠実義務」が明確になっています。いい方を変えると、受給者の利益とは金銭的な受給権の確保ですから金銭的な利益以外の要素を投資判断に取り込むことは「他事考慮」として受託者責任に反する、GPIFのように加入者から見て受託者の立場となる主体にとっては場合によっては損害賠償義務を負う、そういうことになります。ESG要素を考慮すればパフォーマンスが上がるという明確なエビデンスがあればそれはどんどん考慮しなさいということになりますし、軍事産業を排除すればパフォーマンスが相対的に上位となるということが示せるのであればどんどんやって下さいということですが、事実としてはそうした事実はない、というかそうしたファクターの効き方について何らの証明ができないのが実態ですから、もしその状態で軍事産業だけ排除するようなポートフォリオを組んだらその段階でGPIFなどの受託者は受託者責任の点で難しい問題に直面することになるわけです。

ところが一昨年ぐらいから潮流が変わっており、米国で2015年に重要な法解釈の改正が行われました。まさにESG投資の盛り上がりを受けて先ほどのELISA法の解釈通達が変更され、ESG要素を考慮することが明確にパフォーマンスを悪化させない限りESG要素を考慮することは受託者責任には反しない、とされました。
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jizokuteki_kachi/pdf/002_06_00.pdf

ただし、これはあくまでESG要素の考慮がなんとなく長期的に良い結果をもたらす可能性がある、という希望的観測に基づいた改正であり、実際ESG考慮が、G(ガバナンス)は別としても、必ずしも相対パフォーマンスに良い影響を与えるという研究は明確には出ていません。実際、米国のカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)がコンサルに調べさせたら、タバコ産業への投資だけを除外したことによって大きな機会損失が発生したとされています。http://www.nensoken.or.jp/pastresearch/pdf/h28/H_28_03f.pdf
そういう状況で、年金基金としては必ずしも答えは一つではない、というのが正しいと思います。もっと言わせてもらえば、海外の年金が一定の業種を排除している場合これまでは必ずしも倫理的観点に限らず、そのような企業が(社会からの非難や社会的コストの支払いにより)相対的にパフォーマンスが低くなることが予想されるという視点も重要であり、特に米国はこれまでそうだったともいわれます(上記リンク)。また先ほどの解釈通達の変更も、あくまで長期的にパフォーマンスに影響が出ることを前提にしているため、逆に長期的にタバコとか軍事産業とかのほうがパフォーマンスがいいということが証明されてしまえば、また難しい問題が生じてくると思います。

まあ軍事産業に投資したくないという小市民的な気持ちは分からなくもないですが、この記事にあるようにここまで断定的に物事をおっしゃるのであれば最低限ここに書いたような悩みを共有していただきたいなぁと思うわけで、そのような悩みの感じられないこの記事には関係者としてはちょっとカチンとくるわけです。GPIFさんはこの記者さんが想像する以上に色々なことを考えてやってると思います。たとえばGPIFの投資行動がマーケットにどのようなインパクトを与えたかとか、自分たちの影響力の大きさをきちんと考えて行動しているわけでその大きさゆえの責任というのは十分感じておられる。だからこそ原則としてパッシブ運用が中心とならざるを得ないという面もあると思いますし、全面的に特定の業種だけを排除するような投資は少なくとも日本株ではかなりハードルが高いでしょう。

もうひとつ言わせてもらえば、GPIFが常にすべての企業を買わなければならないような投資(つまり時価総額ベース指数のパッシブ投資)しかしていないような書きぶりも「間違い」です。実際最近ではESG指数を公募しそれをベースにしたパッシブ運用(つまり(外部が選んだ)ESGにおいて優れた企業のみを対象とする投資)もやっています。まあそのこと自体にはワタクシも言いたいことは山ほどあるものの、この記事に書かれたレベルの単純な話ではなく、「現行法では、政治的な介入や担当者の恣意的な運用を防ぐため、業種を問わず企業株を自動的に購入する以外に選択肢はなく、こうした投資は排除できない。」という部分は、書き方も正確ではありませんし少なくとも一部は間違っていると思います。現にアクティブ運用も委託しているので。

ついでだからこれを書いた東京新聞を出している中日新聞のガバナンスについて。2017年6月の日経新聞の記事を引用させてもらいます。

(日経新聞より引用)
中日新聞社長に大島氏

中日新聞社は5日、大島宇一郎常務(53)が社長に昇格する人事を発表した。小出宣昭社長(72)は顧問となり、主筆を務める。26日に開催予定の株主総会後の取締役会で正式に決める。
 大島氏は創業家出身で、元社長の大島宏彦最高顧問(83)の長男。編集局の政治部や経済部、管理局人事部などを経て2015年から東京本社代表を務めている。
 大島 宇一郎氏(おおしま・ういちろう)87年(昭62年)早大政経卒、中日新聞社入社。13年取締役、15年常務取締役東京本社代表。愛知県出身。
(引用終わり)
(下線は筆者)

偉そうなことをいう割には、創業家出身の人が普通に社長になってしまうとか顧問が主筆とか元社長が最高顧問という、まあガバナンスとか経営の透明性とかいろいろ経営的にはほぼ最悪レベルで突っ込まれやすそうな企業なわけです。日本のメディアは外国人保有が制限されるメディアとしての地位を濫用して創業家が好き放題やっているとも見えるのです。メディアと言うのはそういうものだから、意見の表明にあたっては本当によく調べて偏りのない記事にしないと非常に危険であると思います。まあこういう社長人事だったらもし公開企業であれば間違いなく、取締役選任決議の段階でそうとう厳しい意見表明が株主からなされるはずでありまして、まともな投資顧問会社ならほぼ100%この社長が役員になる段階で反対票を投じるでしょうし、最高顧問の存在ゆえにESG的に見れば投資対象からはずされてしまう可能性が高い企業です。もちろん非公開だから関係ないわけですが、その企業がESG関連で他の投資家にモノ申すというのは割と漫画チックだなぁと思う休日の午後でした。

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