ギリシャ、支援要請へ
ギリシャがとうとうユーロ圏とIMFに支援要請するというニュースが流れて、信用不安はいったん小休止した形です。ただし、結局のところGMやJALと同じで、根本的な改革ができない限り財政はますます立ち行かなくなることが必定であり、民間企業よりもむしろ国家の方が難しい。というのは企業は従業員の首を切れるが国家は国民をやめさせることはできない。その国民が国の政策を決め代表を選ぶということです。企業は強烈なトップダウンでやることもできるが、国家では最後は国民が意識を持って改革に取り組みことがなければ事態が改善することはないということです。
その意味でこの期に及んでゼネストとかやっている国の先行きについてはまだ誰も信用しませんでしょう。自発的に厳しい規律に服するのか、破綻して今後数十年にわたり世界から後ろ指さされるのか、まあそういう選択です。ユーロ諸国にしてもIMFにしても規律が回復しない限り永久に支援をすることはありません。前にも書きましたようにIMFならとりあえず3年程度の融資。そこで一定の結果が出ていなければデフォルトはあり得る。(逆にいえばまあ3年ぐらいは何とかなるとは思いますが)。ワタクシが即時のギリシャデフォルトがないと思うのは、あまりにも準備ができていなさすぎるという理由です。いまやっちゃうとそれこそほかのPIIGSの一部にも即波及しますから、これらの国々の銀行システムのみならずそこに与信を抱えているフランスなどの国々の銀行システムまで傷んでしまう。
ジムロジャースなどはCNBCで「ユーロの未来のためにも」ギリシャは破綻させるべきだと言っているようです。それは正論かもしれないのですが、今すぐやることはやめた方がいいと思いますね。
先週は財政赤字の下方修正などで、もはやこれまで、とばかり短いところの国債の対ドイツスプレッドが大幅に拡大しました。それまでは主に長いところの国債のスプレッドが拡大し続けていたのですが、一気に短いところが吹っ飛び、気がつけばCDSスプレッドカーブも逆イールド(短期のCDSスプレッドが長期のCDSスプレッドを上回る)状態になりました。この状態は極めて危険であり、かつて倒産した企業の多くがこういう状況を示現しています。
とはいえ、CDSスプレッドというのもけっこう曲者で、それほど流動性もない(ギリシャの場合現物も流動性はもはやないですが)状況で値段が極端になりやすい。一気に逆イールドに振れた背景としては、これまである程度ロングだったヘッジファンドなどが一気にポジションを解消しようとしたか、もしかしたら一気に逆転を狙ってドテンショートでもしたかといった、いずれにしてもクライマックス的な動きだったようにも思えます。
ユーロの仕組みに欠陥があるせいでこんなことになったとはよく言われることですが、理念そのものに立ち返って必要な手当てをこれから作っていくことが重要だと感じます。前にも書きましたがドイツにとってもユーロの仕組みは自国の(優秀な)工業製品が為替の不利益なしに周辺国へどんどん輸出できるというメリットを内包しています。一方でギリシャのような周辺国が為替の不利益なしに身分不相応な消費を続け、信用度の高いユーロという通貨の元、単一金融政策に裏付けされた比較的低い金利で調達できる。今回たまたまギリシャが財政赤字の数字をごまかしていたことがきっかけとなり危機となりましたが、考えてみれば同様に成長力もないのに財政赤字を膨らませている国は多いし対外借り入れに依存している国も多い。そのすべてがすぐに危機になるわけではなく、やはり「信用」が失われたというこの一言がすべてだと思います。いうならば、ギリシャが自ら信頼失うようなアプローチでユーロや他の加盟国に向き合ってきたことが原因のすべてであり、それがなければここまで危機は深化しなかったでしょう。
実は最もお金のかからない安定化の方法は、ユーロ諸国が共同でギリシャの債務保証をすることであり、ついでにその仕組みをユーロの仕組みとして導入する、そしてその代わり一定の保証料を毎年財政の状況に応じて積み立てさせることがユーロ加盟を続ける条件とし、実際債務保証プログラムを発動するときには保証料を追加で請求するということです。金融危機の時は欧米、豪州などの主要国で金融機関に対する政府保証プログラムが発動されました。結果としてこれは極めてうまくいったとおもいます。借り入れが必要な金融機関が一定の保証料を政府に払った上で、当時としてはかなり割高なスプレッド(であっても市場で調達できない状況よりはるかにまし)で債券を発行しました。投資家はトリプルAの国が保証する債券として安心して資金を出すことができました。結果として調達の問題はクリアされ、政府も恐らく保証債務を履行することは必要がなくなると思われます。つまり政府は「信用」を貸して保証料を受け取っただけ。今回のギリシャ問題のケースでは単独国家の補償はあり得ないのでユーロ加盟国が共同で保証する。実際ベネルクス3国の共同保証という債券が金融危機の後に出てますし、出資比率などに応じた保証比率が決められるのだから、実際上は問題はない。ユーロ全加盟国保証(ギリシャを除く)のギリシャ国債ならスプレッドが100bpぐらいでもかなりの人気が出るはずで調達の問題は一気に解消するでしょう。なにせギリシャ以外の平均的な格付けはAA格のかなり上の方になります(もともと財政規律が働いているという前提ですからね・・・)から、日本と同等以上の信用があるということになります。
わき道にそれますが、今回のギリシャ問題への対処でひとつ大きく失敗していると思うのは、ユーロが救済の条件として融資するにしても「市場金利」を要求しようとしたことです。これは「救済」の概念と真っ向から対立して、いわば首をつろうとしている人の足を下から引っ張るような行為だからです。本来「救済」が必要ならIMFと同様低利での融資を前提とすべきなのであって、それを「市場金利」にこだわったユーロが市場から「救済する気がない、不可能だと考えている」とみなされても致し方ないことです。そして高利で調達した場合ギリシャにとって回復がますます不可能になります。
ユーロ圏保証の債券によって調達金利が低くなれば財政再建には大きなプラスです。ギリシャがきちんとやってくれれば、各国にとっては負担がなくむしろ保証料がもらえます。もちろん最悪のケースではユーロ加盟国がギリシャのために財政負担をする。この点今はかなり難しいとはいえ、「ユーロの大義」を国民に訴えて実行させれば、物事はかなり改善するし全員にとってのメリットになります。そして究極的には、全体のためにユーロ圏全体として調達する仕組みができれば完璧だと思います。
もちろんその前提は、各国が財政自主権を一部放棄することにつながります。いまはまあ無理でしょうが、国民国家の枠組みとユーロの枠組みの矛盾をどこで落ち着かせるか、壮大な実験が頓挫するのかほかの地域の良き前例となるのか、欧州諸国のリーダーたちの政治的説得力と肝っ玉が再び試される時期に入ってきたのだと思います。まさに「友愛」が試されている。鳩山さんにもしかしたら適任だったりして。
その意味でこの期に及んでゼネストとかやっている国の先行きについてはまだ誰も信用しませんでしょう。自発的に厳しい規律に服するのか、破綻して今後数十年にわたり世界から後ろ指さされるのか、まあそういう選択です。ユーロ諸国にしてもIMFにしても規律が回復しない限り永久に支援をすることはありません。前にも書きましたようにIMFならとりあえず3年程度の融資。そこで一定の結果が出ていなければデフォルトはあり得る。(逆にいえばまあ3年ぐらいは何とかなるとは思いますが)。ワタクシが即時のギリシャデフォルトがないと思うのは、あまりにも準備ができていなさすぎるという理由です。いまやっちゃうとそれこそほかのPIIGSの一部にも即波及しますから、これらの国々の銀行システムのみならずそこに与信を抱えているフランスなどの国々の銀行システムまで傷んでしまう。
ジムロジャースなどはCNBCで「ユーロの未来のためにも」ギリシャは破綻させるべきだと言っているようです。それは正論かもしれないのですが、今すぐやることはやめた方がいいと思いますね。
先週は財政赤字の下方修正などで、もはやこれまで、とばかり短いところの国債の対ドイツスプレッドが大幅に拡大しました。それまでは主に長いところの国債のスプレッドが拡大し続けていたのですが、一気に短いところが吹っ飛び、気がつけばCDSスプレッドカーブも逆イールド(短期のCDSスプレッドが長期のCDSスプレッドを上回る)状態になりました。この状態は極めて危険であり、かつて倒産した企業の多くがこういう状況を示現しています。
とはいえ、CDSスプレッドというのもけっこう曲者で、それほど流動性もない(ギリシャの場合現物も流動性はもはやないですが)状況で値段が極端になりやすい。一気に逆イールドに振れた背景としては、これまである程度ロングだったヘッジファンドなどが一気にポジションを解消しようとしたか、もしかしたら一気に逆転を狙ってドテンショートでもしたかといった、いずれにしてもクライマックス的な動きだったようにも思えます。
ユーロの仕組みに欠陥があるせいでこんなことになったとはよく言われることですが、理念そのものに立ち返って必要な手当てをこれから作っていくことが重要だと感じます。前にも書きましたがドイツにとってもユーロの仕組みは自国の(優秀な)工業製品が為替の不利益なしに周辺国へどんどん輸出できるというメリットを内包しています。一方でギリシャのような周辺国が為替の不利益なしに身分不相応な消費を続け、信用度の高いユーロという通貨の元、単一金融政策に裏付けされた比較的低い金利で調達できる。今回たまたまギリシャが財政赤字の数字をごまかしていたことがきっかけとなり危機となりましたが、考えてみれば同様に成長力もないのに財政赤字を膨らませている国は多いし対外借り入れに依存している国も多い。そのすべてがすぐに危機になるわけではなく、やはり「信用」が失われたというこの一言がすべてだと思います。いうならば、ギリシャが自ら信頼失うようなアプローチでユーロや他の加盟国に向き合ってきたことが原因のすべてであり、それがなければここまで危機は深化しなかったでしょう。
実は最もお金のかからない安定化の方法は、ユーロ諸国が共同でギリシャの債務保証をすることであり、ついでにその仕組みをユーロの仕組みとして導入する、そしてその代わり一定の保証料を毎年財政の状況に応じて積み立てさせることがユーロ加盟を続ける条件とし、実際債務保証プログラムを発動するときには保証料を追加で請求するということです。金融危機の時は欧米、豪州などの主要国で金融機関に対する政府保証プログラムが発動されました。結果としてこれは極めてうまくいったとおもいます。借り入れが必要な金融機関が一定の保証料を政府に払った上で、当時としてはかなり割高なスプレッド(であっても市場で調達できない状況よりはるかにまし)で債券を発行しました。投資家はトリプルAの国が保証する債券として安心して資金を出すことができました。結果として調達の問題はクリアされ、政府も恐らく保証債務を履行することは必要がなくなると思われます。つまり政府は「信用」を貸して保証料を受け取っただけ。今回のギリシャ問題のケースでは単独国家の補償はあり得ないのでユーロ加盟国が共同で保証する。実際ベネルクス3国の共同保証という債券が金融危機の後に出てますし、出資比率などに応じた保証比率が決められるのだから、実際上は問題はない。ユーロ全加盟国保証(ギリシャを除く)のギリシャ国債ならスプレッドが100bpぐらいでもかなりの人気が出るはずで調達の問題は一気に解消するでしょう。なにせギリシャ以外の平均的な格付けはAA格のかなり上の方になります(もともと財政規律が働いているという前提ですからね・・・)から、日本と同等以上の信用があるということになります。
わき道にそれますが、今回のギリシャ問題への対処でひとつ大きく失敗していると思うのは、ユーロが救済の条件として融資するにしても「市場金利」を要求しようとしたことです。これは「救済」の概念と真っ向から対立して、いわば首をつろうとしている人の足を下から引っ張るような行為だからです。本来「救済」が必要ならIMFと同様低利での融資を前提とすべきなのであって、それを「市場金利」にこだわったユーロが市場から「救済する気がない、不可能だと考えている」とみなされても致し方ないことです。そして高利で調達した場合ギリシャにとって回復がますます不可能になります。
ユーロ圏保証の債券によって調達金利が低くなれば財政再建には大きなプラスです。ギリシャがきちんとやってくれれば、各国にとっては負担がなくむしろ保証料がもらえます。もちろん最悪のケースではユーロ加盟国がギリシャのために財政負担をする。この点今はかなり難しいとはいえ、「ユーロの大義」を国民に訴えて実行させれば、物事はかなり改善するし全員にとってのメリットになります。そして究極的には、全体のためにユーロ圏全体として調達する仕組みができれば完璧だと思います。
もちろんその前提は、各国が財政自主権を一部放棄することにつながります。いまはまあ無理でしょうが、国民国家の枠組みとユーロの枠組みの矛盾をどこで落ち着かせるか、壮大な実験が頓挫するのかほかの地域の良き前例となるのか、欧州諸国のリーダーたちの政治的説得力と肝っ玉が再び試される時期に入ってきたのだと思います。まさに「友愛」が試されている。鳩山さんにもしかしたら適任だったりして。
この記事へのコメント
新興国への急激な資金流入、財政赤字の拡大。危機が浮上すると一転して資金が逃げ出し、信用不安・公的債務の借り換え危機の発生。
ワシントン・コンセンサスによる超緊縮財政の押し付け、事態の一層の悪化。
しかし、新興国は努力して債務を返済していく。
短期資金の出入りで得た利益は雲隠れ。逃げ遅れた資金は、IMFの救済で安堵の元に撤収。
このからくりを経験したアジア諸国や中南米諸国は、その罠に嵌らず、欧州の新興国が、今回の事で学習するのである。
アジア通貨危機で思い出すのは、韓国の人々が大統領の呼びかけに応じて金製品などを進んで?拠出して債務返済に少しでも協力しようとしたこと。ギリシャにそれを臨むのは無理がありますかね。