「やらせ」メール

http://mainichi.jp/select/biz/news/20110707k0000m040079000c.html

これを「やらせ」とヘッドラインを打った段階で、ある特定の価値観に誘導しようとするメディアの側の勝利は確定したといえます。「やらせ」=悪。でも問題の本質はメールの出し方ではないと思います。原発の運転再開の是非、あるいは原発そのものの是非ではないでしょうか。それに良く考えればわかることですが、テレビ局がそういうメッセージを作って発表したのなら正真正銘の「やらせ」ですが、今回は紹介されるかどうかもわからない状況でメールを送っているわけで、もちろん影響力を与えようとしていることは明らかだとしても、それぞれの個人が自分の意思で送ったメール、しかも送っただけで「やらせ」というのはかなりのミスリードです。ワタクシも今回の電力会社のやり方がやや「姑息」であることは認めざるを得ないのですが、とはいえ、利害関係を持つ人々にその状況を呼び覚まして任意で意見表明を促すやり方はとがめられるものではない。

おそらく、「やらせ」という言い方で問題視する見方の根拠は、そもそも九州電力が「指示」をして子会社を使って番組に意見を送らせた、そしてそれは、それぞれが別個の「個人」の仮面をかぶったメールではあっても根っこは九州電力の利害を代表した一個の意見にすぎず、大衆の意見の表示のされ方に強いバイアスがかかった状態で表示される、ということでしょう。

しかしながら、今回のメールを送った人は、依頼を受けた会社の社員のごくわずかのように見受けられます。これが職制を使って依頼を受けた会社の中で強制となるような指示の出し方ならば、人権という観点で問題も出るでしょう。ただ、人数を見る限り強制の色は伺えません。これを送った従業員だっておそらく九州電力のユーザーであり、もしかしたら原発の近くに住んでいるかもしれない。さまざまな立場の人が意見を表明して物事を決めるのが民主主義だとしたら、仮に九州電力が依頼したからといって、原発再開支持に利害関係を持つ彼らの送ったメールの何が問題なのでしょうか?電力会社はビジネス上の観点からは再開したいに決まっているわけです。反対する人はそれを上回る説得力のある意見表明をすればいいだけではありませんか?

多くの社員はとりあえず雇用確保という観点から原発再開支持することにインセンティブもあるはずです。原発再開について個人が要望を出すこと、その個人に要望を出させるように利害関係を持つ人が依頼し、同様に利害を持つ人がそれに従ってメールを出すことの何が問題なのだろう?と思います。そもそも民主主義の過程で、利害関係を持つ人々が業界団体を通じて投票を依頼したりすることは当たり前のように行われている。組織票なんてそういうものでしょう。組織による影響力まで否定したら、組織票で当選した議員の当選も無効でしょう。原発再開するかしないかは民主主義の中で決めるべきひとつの事項だと考えますが、その決定に影響力を行使することは少なくとも個人の任意で行う限りにおいて許されているのではないかと思います。積極的に働きかけて政治的な決定に影響を与えようとすることは民主主義の範疇で当然に許されるというかむしろ行うべき行為なのではないでしょうか?

電力会社から依頼をうけた会社が職制を使ってそれを強制したというなら、人権上の問題も出てくるでしょうし、公正な意見ともいいがたいものがあります。でも実際に送った人の数から見て、まったく強制力はなかったと見るべきだとおもわれます。

「やらせ」メールというヘッドラインによって「やらせ」の部分だけを問題として取り上げること自体、問題の本質から逆に目をそらせる意見誘導になってしまっていると思うのです。強制されたわけではないメールは民主主義過程における、「正しい」意見表明の手段にすぎないと思います。これをことさら問題として取り上げる、そしてそれによってメディアの側が人々を思うように意見誘導しようとしているように感じます。

おそらく多くの人の意見がワタクシと異なることを覚悟の上であえて書きます。今回の問題を敷衍してしまうと、原発を抱えた電力会社やそれに関連する業者などで原発再開を望む人々は自由な意見表明もできない立場であるということに行き着きそうです。というか、むしろそういう状況に追い込まれてしまった電力会社がある意味こういう「姑息な」手段をとらざるを得なかった、という点において、その意味でも今、民主主義の機能が一部失われかけているのだなぁと感じる事件です。残念なことに民主主義をきちんと守るべき政府の要職にある枝野さんや海江田さんまでが「やらせ」ということに反応しすぎていきなり批判していますが、それは電力会社を含む原発再開に利害を持つ業者や関係者は一切発言するなといっているに等しいのです。

ワタクシは原発賛成とか反対という以前にこういう言論封殺に近いことがいま静かに進行しているのではないか、という点に危惧を覚えるものであります。それは今の政権の持つ、独りよがりの非民主的体質と妙に符合しているように思えてなりません。

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この記事へのコメント

三枚腰
2011年07月10日 20:50
はじめまして。

いわゆるヤラセメールについて、数少ない正論を書かれておられるので、感心してしまいました。

これから、ブログを愛読させていただきます。
2011年07月11日 05:37
三枚腰さん、コメントありがとうございます。よろしくお願いします。
周平
2011年07月11日 23:09
全くその通りだと思います。民主主義が諸々の利害をもった集団の調整であるとするなら、原発の停止によって損害を受ける集団が再開を願ってその意見を表明すること、そのための利害が一致する集団内部での表明の仕方についての「戦術調整」は道義的にも全く正当なことでしょう。
かる
2011年07月12日 22:07
おっしゃる通りです。こういった言論誘導は、マスコミの常套手段です。基本的には国民の敵を作ることが、国策捜査同様に効果を生むわけです。基本的にこのタイミング、原発のストレステストのタイミングでこうったことを、プロパガンダとして使う一部の集団がいることは事実です。
どの時代でもそうですが、何か重大事件が起こると、その集団及び行動はすべて悪人であるということで、すべての国民の思考を停止させてしまう=民主主義という参加過程を否定させる。きわめてゆゆしき問題です。
コナン
2011年07月12日 23:53
確かにこの報道については何だか違和感があったので正にそのとおりですね。
今回の依頼のようなものは日常茶飯事なので、これを「やらせ」と糾弾することはどうなんでしょうか?
反原発派が市民団体を通じて反対意見を強力に募ることは「やらせ」ではなく、電力会社及びその関係会社がやると「やらせ」になる・・・
しかも番組投票でもなんでもない単なる意見募集ですからね。
賛否両論で激論を交わすのが本来の理想系でしょうし、多様な意見が集まる前提に、数多くの意見が必要な訳でして、どうして言論封鎖をしたがるのでしょうか?
番組に圧力を掛けて、反対派意見を取り上げないとかなら「やらせ番組」として批判できますが、そうじゃないんですものね。
マスコミの振りかざす正義にはもううんざりです。
(最近はテレビ視聴も少なくなりましたし、新聞は自宅でとらず会社でチラ見する程度です)
2011年07月13日 01:06
周平さん、どうもです。まあ強いて非難されるべき点をあげれば、会社としてではなく、一個人を装って組織的にやろうとしている点ぐらいでしょうか?でもそれがその個人の利害にも一致している、つまり本心であるならば、それをやらせとは言わんでしょうね。

かるさんどうもです。おっしゃる通り、いま電力会社が原発賛成を言うこと自体が禁忌とされているように思えます。

コナンさん、どうもです。それでもいまだにやらせメールと堂々とヘッドライン打っているところをみるとワタクシのような意見はやはり少数派なのかな、と思ってしまいます。ただ、どうしても違和感はありますね。
エルカイエダ
2011年07月18日 15:42
ウソのデータとウソの発表。

金で地域買収&兵糧攻め
それでもダメなら機動隊

不都合は隠して、利権維持なら湯水のように金を使い
そのマスゴミも操ってきた過去。

雛形メールが自由な意思でっか
業務でしょうに・・・


民主主義ですか・・・
おもしろい。

もっと経緯からお調べになった方がよろしいのでは?

言論なんてあるんでしょうかネー
2011年07月18日 18:26
エルカイエダさんコメントありがとうございます。ひな形まで用意していたようで、そういうことするからつけこまれるわけですが、全員に強制したわけではないので、業務とはいえないでしょう。こういう形で意見を出すことは署名とかも含めれば多くの企業がやっているような気がします。そしてこれまではそれについてなんか「やらせ」だのなんだのっていう議論はなかったはずで、この際「やらせ」という定義不明なヘッドラインを使って原発支持をつぶそうという言論誘導に簡単に乗ってしまう状況が怖いと思っただけです。一般の人にも意見を表明する機会が与えられていたのに、それを使わなかったことは無視して、組織的に意見を表明しようとするほうは「やらせ」というレッテル付で妨害する。なんだか妙な正義感を振り回しているようにしか思えませんね。今回のメールの中身がウソの事実で塗り固められていたなら別ですがね。
とある投資家
2011年07月28日 08:04
良識の感覚を疑うエントリですね。関係者が一般人を装って意見誘導していることが問題なのであって。意見があるなら正面からいうべきであって。
2011年07月28日 13:15
とある投資家さん、コメントありがとうございます。おっしゃる点、姑息といわれても仕方ないのですが、このブログもそれに対するコメントもふくめ、世の中には正面から堂々と実名で意見を述べていないケースは山ほどあります。そもそも意見表明者の内心の意見と一致しているのであれば「誘導」ですらありません。それにいちいち目くじらを立てるのもいいのですが、ワタクシの目にはそれ以上に「やらせ」という定義不明のレッテル張りをしてはじめからある方向に意見を誘導していたメディアのほうに問題が大きいと見えました。九電社員や関係者が個人として意見を言ったのだといえば、なにか抗弁できるんでしょうか?そもそもどれだけの方が偽名を使って意見表明したのでしょうか?
職制を使って勤務評定をちらつかせて強制でもしたのなら別ですが、今回のケースはやはり自分の利害に基づいた任意の意見表明の域を出ないと考えています。たとえ、九州電力側がそれを積極的に薦めたとしてもね。
おっしゃっていることはやはり「関係者」は発言するな、というのと同じに見えますので、私にはそちらのほうが危険な考えかなと思いました。
とある投資家
2011年07月29日 00:42
あのメールが単なる協力依頼だとは思えませんけどね。上下関係を利用した事実上の圧力に読めますし、「会社のPCでは処理能力が低いからご自宅等のPCからのアクセスを」のくだりなど、要するに会社からだと足がつくから自宅からやれ、と。

それはともかく、「関係者」は発言するなという空気があるからと言って、姑息な手段が許されるわけではないでしょう。平常時なら広報のためのさくら行為も構わないと思います(他の企業や団体もやっていることです)。しかし今は、原発を運転するか否かが注目の的となっている。そうした中で関係者の意見が多数派であるとみせかける行為が、自由な意見表明だとは思えないですね。そもそもこの説明会、一般県民の参加が排除されており(参加者は経済産業省が指定した7人のみ)、開催前から批判されてましたが、そこにこんな行為が加わったことで、マスコミの総叩きにあったんじゃないですかね。
2011年07月30日 10:59
とある投資家さん、どうもです。うーん、多数派工作というのは割りとありふれた手段だとおもうのですがね。一般の人が同じやり方で意見表明をできない仕組みになっていたなら別ですが。
会社のPC云々のところはワタクシも姑息だと思います。結局九州電力が堂々と会社の立場を主張できない空気がその原因だと思います。これはやはり不幸なことだと思います。一方の当事者が自由な意見表明を疎外されている中で、姑息な手段に頼ったということだろうと思いますので、ワタクシはかなり同情的です。
また新たに経済産業省・保安院の主導した説明会の話題が盛り上がってきていますが、どちらかというとこっちの方が一般に言われる「やらせ」に近いのかもしれません。これは明らかに国が片方の立場に立って誘導を試みたもので、フェアではないと思います。とはいえ、当時そのような内容に異論を挟む人も少なかったのだから、何をいまさら、って言う感じはしますが、

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